第60話 復仇の誓い

 ガクキは戦車に乗せられ、命からがらダイトに逃れた。ダイトの屋敷へと戻ったガクキは、床に臥せってその場から動けなかった。


 北辺に張っていた軍も、地方軍を除いてダイトへ帰参し、討伐軍はひとまず解散となった。これを合図にエン国は正式にエン州と改名されてシン国の直轄地となり、ガクキは上将軍および大司馬の職を解かれて州の長官である州刺史となった。だが、トモエに負わされた傷は重い。シン国のカンヨウに赴いて拝命の儀を執り行う手はずであったが延期され、傷が癒えるまで暫くは妹のガクジョウが州の政務を代わって執り行うこととなった。




 分厚い雲が、カンヨウの上空を覆っていた。

 エン国王カイの葬儀は、カンヨウ宮殿の庭で行われた。大魔皇帝を中心にカンヨウの大臣たち、そして遠路はるばる自らの封国から馳せ参じた大魔皇帝の弟たちが葬儀に列席している。

 参列者たちは、棺を前にして臥せり、一斉に号泣を始めた。これは哭礼こくれいという儀式で、死者に対して悲しみを表現し、泣き声と涙を捧げるといった意味合いを持つ。

 泣き声は、カンヨウ中に響き渡っていた。空を飛んでいた鳶や鷹などは、その泣き声の大きさを嫌って、カンヨウの上空に近づこうとしなかった。


 一連の葬儀を終えた後、三人の弟たちは大魔皇帝の禁中に呼ばれた。通されたのは皇帝の私室である。その場にはこの四人の他に誰の姿もなかった。

「兄者の言いたいこと、オレは分かるぜ。カイを討った人間への報復だろ?」

「その通りだユウシン。服喪は許さぬ。各自、軍の編成を準備しておくのだ」

 四人の目は、泣きはらした後とあって真っ赤に充血していた。大魔皇帝の顔には、悲しみ以上に怒りが噴出している。弟を手にかけられたことを、相当悔やんでいるようであった。

「人間の分際で我が愛しい弟を討ったこと、必ずや後悔させてやろう」

 大魔皇帝は、固く拳を握り、腕を小刻みに震わせていた。嚇怒かくどしていることは明らかである。


 リコウの故郷を滅ぼし、エルフの森を焼き払ったエン国。その王であるエン国王カイは、とうとうトモエたちによって討ち果たされた。けれども、魔族の国はまだセイ国、ソ国、ギ国、そしてシン国が残っている。


 トモエの戦いは、まだ終わらない――




エン国編 人間解放戦線  完

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