第40話 大会戦! そして国都攻略
別動隊を率いて川の上流に陣を敷いていたガクジョウは、川に向かって威斗を振り下ろした。
「
ガクジョウは、水魔術「
その激流は、下流で船を漕ぎ渡河中の、ゴブリン軍団に襲い掛かった。大蛇のように暴れ狂う水の流れが、容赦なく彼らに牙を剥いた。彼らの乗り込む軍船や筏が、あっという間に押し流されてしまった。先鋒を務めた部隊の中で、無事に対岸に辿り着いた船は一つとしてなかった。全て濁流に呑み込まれ消えていったのである。
その頃、トモエたちは速足でダイトに向かっていた。そしてとうとう、城門の前まで辿り着いた。
城壁の上を見上げると、床弩や投石機などが並べられ、見張りの傀儡兵が何体も立っているのが見えた。国都だけあって立派な城壁である。
「凄い……オレたちの村とは大違いだ」
リコウの口から、感嘆の声が漏れ出た。目の前の城壁は、まるで国力や文明力といったものの違いを象徴しているかのようである。今自分たちが立ち向かおうとしている敵の強大さを、改めて実感させられたのであった。
トモエたちは、この高らかにそびえる城壁を外から破壊しようとは思わなかった。幸い、避難民の受け入れをしているのか城門は開いており、そこに魔族や彼らに連れられた傀儡兵が並んでいるのが見える。
ソンタツの後ろに、トモエたちは黙ってついていった。あわよくばそのまま城内に入ってしまおう、という魂胆である。もたついていると、背後の川を挟んで行われている決戦の勝者――すなわちガクキ軍かゴブリン軍団のどちらか――がダイトにやってきて、トモエたちは挟み撃ちの形を取られてしまう。エン国と対立しているゴブリン軍団が勝利したならば、エン国と潰し合いをさせることもできようが、ガクキ軍が勝利し、国都に凱旋した場合、綺麗に挟撃されてしまうであろう。ソンタツ曰く将帥のガクキはかなり優れた将のようであり、正面切って戦いたい相手ではない。
城門の前には四体の傀儡兵が立っており、その前には列ができている。傀儡兵たちは魔族が差し出す通行手形のようなものを確認していた。ソンタツとトモエたちは、黙って列に並んだ。トモエたちは通行手形など持ってはいない。いざとなれば、力づくで突破するつもりである。
やがて、ソンタツの番が来た。ソンタツは懐から手形を取り出して見せた。そしてとうとう、トモエの番が回ってきた。トモエに向かって、催促するかのように傀儡兵が右手を差し出してくる。
「手形を見せろってことね? これが手形よ!」
傀儡兵に叩きつけられたのは、手形ではなかった。トモエの拳が、一撃で傀儡兵の頭部を粉砕したのである。頭部は音を立てて粉々になり、その破片が足元に散らばった。
城門前は、俄かに騒然とした。もう、ここからは戦うしかない。
「え……何をしておられるのですか!」
「ごめんね騙してて……死にたくなきゃそこで眠ってて!」
戸惑うソンタツに、トモエは肘打ちを打ち込んで昏倒させた。ソンタツは意識を失い、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
途端に、突風が吹き寄せた。その風が、トモエの首に巻かれていた布きれを奪い去っていった。その布に隠されていたトモエの首が晒されると、その場の魔族たちは驚愕した。
「何だ奴は! 人間じゃないか!」
「どうして人間がここに!?」
「ひっ捕らえろ!」
城門の警備を行う武官が、傀儡兵とともに姿を現した。傀儡兵は帯甲し、いつもの剣や槍、弩で武装している。れっきとした戦闘部隊だ。首都防衛隊が出動したのである。
「へぇ……これは壊し甲斐がありそうね」
トモエは拳を鳴らすと、一直線に敵に飛び込んでいった。突出したトモエを、弩兵が狙い撃ちしようとする。
「闇の魔術、
弩兵の頭上に、黒い雷が落ちる。範囲攻撃はエイセイのお手の物だ。
「オレも頑張らなくちゃ!」
リコウは弓を手に取り、矢を番え引き絞った。これまで矢を節約してきたが、もう敵の本拠地である。出し惜しみはしていられない。リコウが本来得意とするのは弓術であり、今では傀儡兵の胸をほぼ正確に射抜くことができる。放たれた第一矢も、槍兵の胴を貫き、その内側の魔鉱石を砕いて動きを停止させた。
敵兵は次々と現れたが、統制が取れている様子はない。取り敢えず召集した先から投入しているといった風だ。いきなりの戦闘に、敵が浮足立っているのをトモエは感じていた。
城壁内には様々な建物が立ち並んでいるが、その中央には一際大きな建物がある。恐らくあれこそがダイトの宮殿であり、トモエたちが目指すべき場所なのだ。
「
トモエは目の前に立ち塞がる敵を、次々と薙ぎ倒していった。降り注ぐ矢も、襲い掛かる短兵長兵も、トモエの勢いを止めることができない。
「横から来るよ!」
シフが叫ぶと、彼女の言う通りに十字路の両側から、トモエを挟み撃ちにするかのように弩兵が姿を現した。
「
エイセイは黒い球体を放ち、右側の弩兵をまとめて吹き飛ばした。しかし、左側の弩兵の射撃を防ぐことはできなかった。引き金が引かれ、矢が一斉に放たれる。
「そんなものっ!」
トモエはその場で前転し、矢弾を全て回避してしまった。そのまま弩兵に肉薄した後は、一方的な戦闘となった。懐に入られた射撃兵は弱い。矢の装填に時間のかかる弩兵は尚のことである。この弩兵隊はほぼ秒殺と言っていい程にあっさりと破壊され尽くしてしまった。
一行は目指す。国都の中央にそびえる、豪奢な宮殿へと……
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