第18話 至福の0.5秒
栗田が保健室に運ばれたあと、いつも通り授業は行われた。
「え~、つまり!魚を食べても頭がよくなるわけではありません。」
何の授業なんだこれ。
「…」
「…」
俺の前の席に居座るルイさんに視線がいく。
背中は張り詰めた弦のように真っ直ぐで、整った姿勢だ。
窓際の席のため、金髪の髪に、陽の光が当たっている。
自毛が金髪なのであろう、枝毛一つない細い髪は、
まるで、よく晴れた日の小麦畑を彷彿させる。
「貴様。張り倒すぞ。」
「…すんません。」
恐い。。視線のせいか?
革命軍で鍛え抜かれた五感は、
殺意のない視線すらも感知できるのか。
「ふぇんふぇー!保健ふぃつから、ただいま戻りました!栗田でふ!」
「は~い!座ってください!ちょうど、畳返しの解説をするところです~」
「ふぁい!」
頬をパンパンに腫らした栗田が、保健室から帰還した。
ルイさんの裏拳を食らったのは、左側の頬だったのに、
なんで両側の頬が腫れてるんだ?
「ふ~。ルイふぁん。なかなか良いファンチだったふぇ!」
自分の席の隣(ルイさんの席)に座った栗田は、ルイさんの裏拳を褒めた。
「私の裏拳を受けて、1時間で立ち上がってくるとはな。
不愉快極まりない。」
「君のファンチじゃ、僕をベットに縛れる時間は30分が限度ふぁ。」
30分で立ち上がたっと言う栗田。
「じゃあ、もっと早く教室に帰って来れたんじゃないのか?」
「しゅしゅぎ君。それは保健ふぃつのふぇんふぇいが、
僕をもう30分ベットに縛ったからふぁ。」
「お前!まさか!また保険室の先生にセクハラしたのか!?」
どうやら栗田は、ルイさんに食らった裏拳で30分間保健室のベットで寝て。
立てるまで回復してすぐに、保険室の先生にセクハラをしたようだ。
その結果、保険室の先生のパンチを受けて、もう30分保健室のベットで寝るはめになった。
「そ、そんな馬鹿な。。」
ルイさんは、きっと自慢の裏拳が、栗田にいまいち効かず、
自信が揺らいでいるのだろう。
「ルイさん。栗田の生命力は異常なんだ。ゴキブリの後釜みたいな奴なんだ。
気にすることはないよ。」
栗田の解説と合わせて、ルイさんの心のケアをする。
「まさか、私の裏拳と同等の攻撃を放てる人間が、こんな島国にいようとは。」
「そこなんだ。」
「ぜひ一度、手合わせしたいものだ。」
「いや、普通の先生だから、挑まないようにね。」
「ふぇふぇふぇ。ルイふぁんじゃ、彼女には勝てないよ。」
栗田?笑っているのか?
パンパンに腫れた頬が、少し上に動いた。
「なんだと!貴様!!もう一度私の裏拳を食らってから言ってみるがいい!!」
「なんどやったって同じふぁ!君にはスケベ力が足りないのふぁ!」
「!?な、なんだその力は!?どこの筋力のことだ!?」
「筋力じゃない!!スケベ力とは、外皮を刺激ふぁれることにより!
ふゅん間的に肉体から100%の力をふぃき出す究極の技だ!!」
。。それって、男に体を触られた女の子が、ただ触った相手をぶん殴るってだけのことだよな。
「貴様!今すぐその技を私に伝授しろ!!」
「え。。それはやめた方が…」
「よろふぉんで!!」
栗田の目の色が変わった。
ルイさんのお尻めがけて、右手が動き出す。
それに0.1秒遅れてルイさんが動き始める。
軍人の勘。攻撃をされる箇所と、相手の邪な考えを感じ取り、
防御の構えをとりはじめる。
だが、栗田の右手は加速し、武道家が10年間、日夜鍛え続け、
ようやく会得した手刀の速度を凌駕する。
閃光となった栗田の右手は、ルイさんの防御の構えをすり抜け、お尻に王手をかける。やがて、閃光のようだった右手はお尻の前で、赤子に触れるが如く優しい速度に変わり、ルイさんのお尻に到達する。
「しっ//!!」
ズバキッッッッ!!!!!
ルイさんの裏拳が、栗田の右の頬にヒットする。
教室の端から端まで吹き飛んだ。
お尻の滞在時間は約0.5秒。
この0.5秒の至福のために、栗田が捨てたものは、
右の頬の原型、学校中の女子との青春。
後に彼は、至福の0.5秒に関して、こう語る。
「アポロ13号は命を賭して、月面に着陸する快挙を成し遂げた。
僕は宇宙飛行士でもなければ、人類にとって偉大な一歩を踏み出せるような人間じゃない。でも、誰よりも、自分の人生に意味を見出した人間だ。」
「はぁはぁ。。これがスケベ力なのか?」
ルイさんは肌を赤くして俺に聞く。
「ままま、間違ってはないかもね!?」
事実、裏拳の攻撃力の変化は著しい。
もしかしたら、スケベは国を変える力があるのかもしれない。。
栗田のダメージとともに。
ただのスケベに負けた、武道家の精神的なダメージを心配する。
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