第19話 水戸黄門の負け回
授業が終了して放課後になる。
スケベ力で攻撃力の格段に上がったルイさんの裏拳を、まともに食らった栗田はその日は教室に戻ってくることはなかった。
友達が保健室で気絶しているが、帰宅部でエースの俺は、すぐさま帰路につく。
「おい!貴様!どこに行く気だ!」
振り返ると腕を組みをして俺を見るルイさんがいた。
「どこって。家に帰るんだよ。」
「ほう。それは楽しみだ。」
「は、はあ。」
何が楽しみか分からないが、早く帰りたかったので、適当に返事をした。
トコトコトコ
ザッザッザ!
トコトコトコ
ザッザッザ!
歩みを止めて振り返る。
ルイさんも止まって俺を見る。
「ルイさん、帰る方向が一緒なんですね。。」
「貴様は何を言っている。シグマーノ様から聞いていないのか?」
「?何も聞いてないよ?」
「私はシグマーノ様より、貴様の護衛任務を任されている。」
「護衛?なんでだよ。」
「それは貴様が、政府から狙われる存在だからだ。」
「せいふ?水夫の間違いじゃないか?」
「水夫に狙われる方が変だ。」
「いや、どっちにしろ。狙われる意味がわからない。」
「シグマーノ様の主だからだろう。少しは考えて話せ!しっ!!」
裏拳で腹を小突かれる。
小突かれるって言ってもかなり痛い。
大突かれるだ。
「うぅ…護衛する人痛めつけちゃダメだろ。」
「戯言を。貴様を護衛対象だと、まだ認めていない。」
どうやら、まだシグマの主は俺じゃないと思っているらしい。
「まぁ、俺としては護衛がいても、いなくても、どっちでもいいんだけどさ。俺は間違いなくシグマーノの主だよ。」
「ふっ、口ではなんとでも言える。なぜ貴様がシグマーノ様のTシャツを知っているかは知らないが、こんな甘ったれた男が主人だとは思えない。」
Tシャツどころかズボンまで知っている。
なぜなら、俺が最後にシグマと話した時に着ていた服だからだ。
服を盗られた時は気絶していた為、知らなかったっが、
この間、公園のホームレスに会った時に知った、、
~公園~
「お~!!おっさん久々!!」
「おー。久しいの若いの。」
「はっはは!!」
「ふぉふぉふぉ!」
「ふぉふぉふぉ!じゃねーよ、おっさん!!俺の服返しやがれ!!」
ホームレスのおっちゃんの、意外と小奇麗なタキシードの胸ぐらを掴む。
そういえば、なんでホームレスなのにタキシードなんだ。。?
「ひぇ!!!何の話じゃ!ワシは何も盗っておらん!!」
「嘘つけ!恐竜のTシャツとジーンズを、俺が気絶してる間に盗っただろ!」
「言いがかりじゃ!ワシは盗っておらん!盗ったのは、お前さんと話していた娘じゃ!!」
「は!?嘘をつくな!シグマはあの時、ちゃんと自分の服を着ていたぞ!」
シグマは服を着ていた。つまり、俺から服を奪う必要はない。
「本当じゃ!ワシも服は着ておるわい!!」
「ぐっ!確かに。。俺の恐竜のTシャツより小奇麗だ。」
「まったく若いのは血の気が多過ぎじゃ。」
タキシードを整えながら言う。
「な、なんで。。シグマは俺の服を。。」
「そんなの決まっておるわい。お前さんの匂いが染み付いた服が欲しかったんじゃろ。嬉しそうにお前さんの服を脱がせておったぞ。」
「嗅覚の機能なんて搭載したっけかな。。?」
「絶世の美女が、薄汚れた男の服を脱がす絵面が、最高にエロかったの~~!」
一言多いおっさんだな。
とは言え、俺の知らないシグマを知れて嬉しい。
少し火照った体を紛らわすように走って帰る。
「ふぉふぉふぉ、若いのは血の気が多いの~。」
よって、シグマが現在、俺の服を着用していることを知っている。
「シグマーノ様の主の証明ができるなら今すぐ行え。証明ができたなら貴様の言うことを、主として聞いてやる。」
「おいおい。。強気で可愛い女の子が、次の俺の返答しだいで厭らしい願いを聞いてくれるっていうのか。」
「それが貴様の返答か。」
「冗談です。裏拳の体勢やめてください。」
「貴様の次の返答しだいだ。」
おいおいおいおい。
こんなの証明できないだろ。
突然主の証明出来る人って、水戸黄門くらいしかいないだろ。
残念ながら俺に印籠はない。。
「シグマは。。優しい。相手を思いやる気持ちが人一倍ある。だから、自分の為より誰かの為に力を発揮するタイプだ。そして、他人に対して自分の感情を隠しがちだ。親しくなれば、意外と多彩な表情を見せる愛らしい性格なんだがな。」
きっとルイさんには、シグマの外見を言い当てたところで、メディアやネットで外見を見ただろと言われてしまうだろう。
だから、俺はあえてシグマの内面について語ることにした。
正確には、シグマにインストールした。
唯一理解している女の子である、美幸の性格を語ることにした。
「。。。類似している。バーナム効果を警戒したとしても、この精神的特徴はシグマーノ様に当てはまると言える。」
ゆっくりと裏拳の体勢が解かれていく。
「了承した。それでは今から貴様を拘束し連行する。」
「へ…?」
印籠を掲げた水戸黄門が、的に印籠を盗られて、殴られたかのような展開だ。
かくさん、すけさん、シグマさん、助けてください。
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