第9話 背中で語る男は背中を刺されやすい

「スズキーノ!どうだった?私の生徒会長就任挨拶!痺れた??」


全校集会のあった日の帰り道で、シグマが少し嬉しそうに聞いてきた。


「いや、すまん。美幸に話しかけられて、よく聞いてなかったんだ。」

「え。。そっか。。」

「でも、この一ヶ月のシグマを見てたからわかる。何やっても優秀だったから、挨拶も完璧だったんだろ。」

「ふーん。どうかな〜。」

少しシグマはスネているようだ。

「シグマ。俺の幼なじみで、義理の妹で、バッチバチの空気嫁が、就任挨拶程度できないはずがないんだ。恥ずかしいことを言うな。」

「なるほど。そうだった。ここは通過点でしかないんだった!私が間違ってた!」

「お前なら必ず頂に立てる。精進したまえ。」

「はい!!」


シグマの扱いも慣れたものだ。

こういうふざけた事を言うから、誤解がだんだんと深まっていくんだろうな。。

だが、やめる気はない!!


「あ!そういえば、明日ってシグマ何するんだ??」

「え?えっと~、スズキーノと八時間耐久フォークダンス!」

「俺にそんな予定はない。悪いんだけど、明日は家に居ないでもらいたいんだ。美幸が来るからさ。」

「それ聞いて私がいなくなると思ってるわけ?」

「なんで俺が、こんな事をシグマに言うか考えてみたまえ。」


考えてみたまえと言ったが、答えなど当然持ち合わせていない。


「わ、私より美幸さんの方が、スズキーノに相応しいってこと!?」

「ふっ、思考能力は高いらしいな。」

「ぐっ!!ぐやぢぃーーー!!うわーーーーん!」

「アハハッ!ジョーダンだって!!」


シュバババババババババ!!

は、速い。。

この一ヶ月でシグマの走力は車より速くなった。

アップデートもなしに身体機能が向上している。。?


「やれやれ、冗談なんだけどな~。」


シグマはきっと今の会話を冗談と捉えていないだろう。

そう思うと罪悪感を感じる。

ただの空気嫁なのにな。。変だな俺。


家に帰るとカプセルベットの中で、シグマがむせび泣いていた。

いつもなら、玄関のドアを開けたらシグマが立っていて、

(おかえり!!今日はシグマにする?シグマとお風呂にする?それとも、シグマと結婚する?)

って迎え入れてくれるんだけどな。


「シグマ、さっきのは冗談だ。何度も言ってるけど、お前が可愛すぎるから、俺みたいな普通のやつと釣り合わないって、みんなが言うんだ。だから、そんな頑張りすぎんなよ。」


頼むから、もう頑張んないでほしい。。

俺のために睡眠時間を削って、勉強、美容、運動するお前を見ると緊急停止プログラムを発動できなくなる。

夜遅く寝たのに、朝早く起きて飯を作るお前に、お返しできるものなんて俺にはない。

いくら頑張ったって、お前は俺が自慰行為のために創造した空気嫁でしかないんだ。

頼むからもう諦めてくれ。

罪悪感に蝕まれない緊急停止プログラムの始動を俺にさせてくれ。。


「なぁ、シグマ。もう俺のことは諦めてく。。シグマ?聞いてるのか?」


気づくと震えていた肩は落ち着き、むせび泣く声も聞こえない。

まさかと思い、うつぶせに寝ているシグマの顔を少し強引に見る。


「ふっふふふ」


少し赤みがかった頬で、笑顔を必死に我慢しているシグマの顔があった。


「おのれ!!騙したのか!!」

「騙したわけじゃないの!スズキーノがいきなり可愛すぎるとか言うからじゃん!!」

「そこを伝えたかったわけじゃない!!」

「キャハハ!照れてる~!か~わいい~!」

「照れてるわけじゃない!!くっそーー!話の通じねー女だな!!」

「はいはい!じゃあ、ご飯にするね!」

「はぁ~あ。。」


これだけ同じ話をして、どうして聞き入れてもらえないんだ。。

日常会話では、話が通じないなんてことないのに。

こいつは、もしかしたら。

俺がシグマの扱いに慣れたんじゃなくて、

シグマが俺の扱いに慣れたのかもしれない。。

空気嫁って恐い!!






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