第8話 掌握完了
空気嫁の初登校から一ヶ月が経過した。
未だ緊急停止プログラムを発動できていない。
シグマは起きているとき凄く美人で緊張してしまい、童貞の俺には触れることすらできない。
かといって、寝ている時に緊急停止させようとすると、美人の寝顔に興奮して自慰行為にはしってしまう。
まさに鉄壁の防御に八方塞がりの状態だ。
そのため、空気嫁は依然として通学を続けていた。
「シグマ様!おはようございます!」
「あ~今日もシグマ様は美しい!!」
「あの方を見ているだけで、生きる気力が湧いてくる!!」
たったの一ヶ月でシグマは、全校生徒に崇拝されるまでに成長していた。
「おはようございます。シグマ様。大変申し訳ございませんが、後ほど私の教育方針に関して、助言を頂きたいのですが。」
「シグマ様はお忙しい。そういった話は暇な先生とでもしていろ。」
先生が教育方針を生徒に教わろうとするなよ。。
というか、いつからマネージャーついたんだよ。。
お前ら、そいつは俺が作った、ただの空気嫁なんだぞ!!!
恥を知れ!恥を!!
「もう勘弁してくれよ。。」
「スズキーノ、どうしたの?」
「もう少し離れて歩いてくれないか、シグマ。」
「う、うん。ごめん。私なんかがスズキーノの近く歩いてたら迷惑だね。。」
きっと、初登校に栗田に言われた、俺と釣り合ってないって言葉を、
未だに誤解しているんだろう。
シグマのスペックが高すぎて俺と釣り合っていないんだ。
何度も言っているのだが、私頑張るからの一点ばりで話を聞いていくれない。
「何度も言ってるけど、シグマの人気が高すぎるから、俺がシグマのファンの反感をかってしまうんだって!」
シグマと歩いているだけで、シグマを崇拝している生徒たちから、
体育館裏に呼び出しをくらうのだ。。
「あのさ!今日またスズキーノに一歩近づけると思うからさ。。私のこと見ててね!」
シグマはそう言い残し、俺を残して速水足で学校に向かった。
そして、全校集会によるシグマの生徒会長就任式に至る。
「あいつが朝言ってたのって、これのことか。。」
あいつは気がついていない。。
どんどん俺から遠ざかる存在になっていることに。
「あ~シグマ様。。奇跡を見ているようだ。。」
「おい、栗田キモいぞ。」
「シグマ様の後にススギを見ると哀れな気持ちになるな。」
「お前も人のこと言えないだろ。だいたいお前は美幸が好きなんじゃなかったのかよ。」
「それはそれ。これはこれさ。」
「栗田は何個もハートがあるんだなー。」
「そういう、あんたのハートはどうなってんのよ。」
「え?」
声のした右隣を見る。
「美幸!?」
「えぇぇーー!?美幸ちゃん!!もしかして、今の話聞いてた?」
「聞こえてなきゃ話しかけないわよ。」
栗田が美幸を好きという件も聞こえていたらしい。。
「あの!美幸ちゃん俺さ!!…」
「あんな眉目秀麗な女の子が、鈴木なんていう凡庸な男を好きって言ってんのに、未だに付き合ってないなんて、あんた何様よ。」
栗田の告白は大空振りに終わった。
「眉目秀麗でも文武両道でも関係ない。好きになれそうにないだけだ。」
「じゃあ、天沢さんのどこが好きなのよ。」
「眉目秀麗で文武両道で優しいところだな。」
「5秒で矛盾作ってるわよ。」
「矛盾するのが人の心なのさ。」
「意味わかんないし。。そ、そういえばさ!明日の準備って整ってる?」
少し俯いてモジモジし始めた。
美幸らしくないな。。
「ん?明日の準備?ってなんだっけ。」
「。。。」
「う、嘘だよ!!もちろん準備万端!明日が楽しみだぜ!」
「なら、いいけど。13時頃行くからよろしくね。」
「おう!」
危なかった。。
美幸が会話中に黙ったら怒り出すサインだ。
美幸は怒ると恐い。
不運が重なり、美幸のトイレ中に出くわした時は死ぬかと思った。。
今でも俺の実家の部屋には、美幸によって突き刺さされた便座カバーがある。
トイレ業者に頼んでも抜けず、建築業者に頼んでも抜けず、ボディービルダーにいたっては肩が抜けた。。
あとはアーサー王に頼むしかないと思っている。。
いやいや、今そんなことはどうでもいい。
明日の美幸との約束ってなんだ?
美幸と会話なんて、そんなにしてないのに、約束を忘れるなんてありえるだろうか。。
ありえるはずがない。
仮にも美幸は美人だ。内心、会話は食い入るように聞いている。
そして、俺は17歳だ。記憶力が悪いわけがない。
以上のことから、俺が記憶のない瞬間がない限り、美幸との約束を忘れるわけが。。。
いや、そういえば、あったな。。記憶がない時間が。。
一ヶ月前のシグマ初登校の日だ。
登校中に美幸と話したんだった。。
何一つ会話を覚えていない。
こんなところで、シグマ始動の副作用がでたか。
明日の美幸との約束を推理していると、全校集会は終了し、学年ごとに体育館から退場し始めていた。
そういえば、空気嫁だからとはいえ、一言も就任時の挨拶を聞いていなかったことに少し罪悪感を感じた。。気がする。
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