第8話 屑拾い

 

「エミリア、明日もこれ位の時間に店仕舞いするのかな?」


「はい。毎日この位に閉めますね」


その返事を聞き、僕は火傷の薬か何かを彼女にプレゼントしようと決めていた。 


それは下心からの思いではなく、多分哀れみに近い気持ちだったんだと思う。


「明日の夜、お店を閉めた後で少し話せないかな?」


僕は思わずそう聞いていた。


「夜遅くになりますけど、ユウトさんは大丈夫ですか?」


彼女は申し訳なさそうにそう答えてくれた。


「何時でも良いんだ、逢ってさえくれたなら・・・」


僕は薬さえ渡せたなら何時でも良かった。


「また明日。おやすみ」


今夜は辛い思いをしないでくれと願いながらそう呟いた。


「おやすみなさい」


優しげな笑顔でそう言う彼女がいじらしかった。


僕は手を振りながら店先を後にした。






幼い頃から折檻される事に慣れてしまったのだろう。 


彼女の顔立ちが美しかったから、尚更身の上の不幸に同情を禁じ得ない僕がいた。


背中まで届く一つに編んだブロンドの髪。 


軽くカールした眉上バングの前髪。そして深い青色の瞳。


僕は頭にヘッドライトを着けて石畳の所々に捨てられた金属片を拾いながら彼女の事を考えていた。


 「なあ、兄さん。 そんな使い終わった魔魂まこんを拾ってどうするんだ?」


エミリアの事を考えながら屑拾いをしていたので声を掛けられるまで男の存在に気付かなかった。 


男は今酒場を出てきたのだろうか、酒の匂いを漂わせていた。


背丈は175センチ位だろうか背中に長剣を担ぎ、着込まれた襟無しの黒いシャツを着たその男は興味深そうに僕を見ていた。


「その眩しいのは何かの魔法か?」 


僕のヘッドライトの光を顔に浴び、まぶしそうにしながらそう聞いて来た。


「これはライトと言うもので。まぁ、魔法みたいなもんかな、、」 


詳しく説明するのも面倒だったので、そう答えていた。


「そうか、そんな明るいのは始めてみたな。それは魔魂で光ってるのか?」 


どう答えたら良いのかと一瞬迷ったが、まぁ嘘にはならないだろうと説明した。


「このライトは使い終わった空の魔魂をね、集めて手に入れたモノですね」 


この世界ではゴミでも拾って貴金属店で換金して、その金でスポーツ用品店で買ったのたから嘘にはならないだろう。


「ほう。 屑魂を幾つ拾っておけばそのになるんだ?」


 「そうですね、、金銀問わずに100個かなぁ」 


酔っぱらい相手なのだから適当に言ってやり過ごそうと、僕は思い付いた数字を言っていた。


「分かった!それでそのライトとやらはどれ位光っててくれるんだ?」 


男はますます興味を持ったらしく詳しくそう聞いて来た。


「えーと確かこれはLEDの1灯で、光らせたままなら5日位かな・・・」


「嘘を言え! 銀魂でランプをともしても2晩だぞ。屑魂100個でそんなに明るいのが5日も点いてるなんてあり得ん!」


男は何やら思案していると、不意に真顔になって僕の肩を掴み「明日屑魂を集めておくからライトに替えてくれ」と興奮した声でそう言った。


「良いですが、玉を100個でライト一つが条件ですよ」


「良し!約束だ! 俺の名はバンデラスだ。 お前名はなんと言うんだ」


バンデラスと名乗る男は興奮した様子で僕に名前を聞いてきた。


男は酒に酔っていたし背中には物騒な剣を担いでるし、牽制の意味で少し箔を付けた名前を言おうと決めた。


「僕の名はユウト、機械魔法を使う。」


「機械魔法のユウトだな! 明日の今頃にここで待ち合わせで良いな?」


男は勝手にそう決めて僕の手を強く握手した。そして上機嫌な様子で去って行った。


もし男が酔いから醒めて今夜の事を覚えていたなら玉を持って現れるだろう。 

本当に屑玉を集めた来られて揉めても嫌なので、一応明日アルペンか量販店で幾つか仕入れて持って来ようと決めた。 

まあカーゴパンツのポケットは大きいから、4つや5つのライトは入るだろう。


僕はまた地面を照らしながら金やプラチナのゴミ拾いを始めた。





時間を見るといつの間にか夜9時を回っていた。 

タイマーの残り時間を見ようとディスプレイの表示を切り替えた。


『08:48:23』の表示。


道端に捨てられた屑魂だけでカーゴパンツの太もものポケットは満タンになってしまった。


それでもまだ商店街の通りを一つ拾って回っただけだった。


水もカロリーメイトもディバックの中だったから喉が渇いたが何も飲むものは手元に無かった。 


仕方なく街の中を流れる川の水を飲もうと石積みの護岸を降りて水を掬おうとした。


ライトに照らされた川底には、長年に渡り捨てられた金や銀の魔魂がそこらじゅうに沈み、積み重なり、キラキラと重なりながら輝いていた。


僕は現実の世界で大金持ちになった事をしった。


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