第4話 金の玉、銀の玉
「そろそろ帰らないと叱られますから。私・・・本当に嬉しかったです」
エミリアはそれだけ言うと微笑みを残して駆けて行った。
走り去る彼女の後ろ姿を見つめながら、僕は売られたエルフ達がどれ程過酷な生活を強いられているのかを思い胸を痛めていた。
とは言え今は自分の置かれた状況も分からないのだから、先ずは一刻も早くこの街を知らなければならなかった。
何故なら生活の糧を得られなければ、やがて飢えて死ぬだけなのだから。
女主人に聞いた道を真っ直ぐに歩いて行くと、程なくひときわ大きな
看板の文字は日本語のカタカナにも平仮名にも、ましてやアルファベットにすら見えないそれは初めて見る文字で書かれていた。
だが何故か、その文字を理解出来ている自分が居た。
いや、そもそも僕は今日本語を話して居るのだろうか?
分からない・・・分からない・・・
看板に書かれた『魔魂換金所』の文字を見て、ここが倒した魔獣が落とすと言う金や銀の
転移したのは妹と晩御飯を食べに出た時で、あれは確か午後6時のはずだった。
あの後この世界に転移してからどの位経ったのだろうかと、僕はポケットからスマホを取り出して時間の経過を確認した。
ディスプレイはカウントダウンのままで『09:45:32』の表示だった。
つまりそれは転移してから2時間15分が過ぎたと言う事だった。
カウントダウンを回して居ても意味が無いのでリセットしようとタップした。
だがカウントダウンは止まらなかった・・・故障したのだろうか?
メイン画面に戻して時間を見ると20時17分を表示していた。
少なくとも時計は壊れていない様だった。
他の機能はとうか?と思い、試しに『魔魂換金所』を撮ってみた。
カメラは問題なく使えた。
そうこうしてスマホを確認していたら換金所に入って行く二人連れの狩人の姿が目に入った。
まだ開いているのだろうか?と思った僕は、中を見ておこうと恐る恐る換金所のドアを開けていた。
中は20畳程の広さで、6つのランプが灯されていた。
ランプの灯りは眩しい程で、その光源がとても炎だけとは思えない明るさだった。
受付は2つあり、先ほど入った二人連れも含めて5人の狩人が並んでいた。
換金の様子を見ていると、受付の小窓から出された木の皿に彼らは狩って来たのだろう金や銀の
しばらくすると小窓から、それぞれの稼ぎに応じた金が渡される様子が見て取れた。
その光景はまるで、パチンコの景品引き換え所の様だった。
魔獣から落ちると言う珠は直径1センチ程でパチンコ球程度の大きさだった。
部屋のランプが1つが暗くなり始めた。
すると換金所の中の小さなドアが開き、面倒臭そうに初老の男が出てきた。
男はランブの蓋を開けポケットからあの銀色の珠を摘まみ出した。
ランプの蓋から指先を入れ「パキッ」と珠を潰す、するとまたランプは明るく輝き出した。
男は仕事に戻るためドアに向かいながら潰した珠を床に捨てた。
僕は珠を観察したくてわざとポケットから財布を落とし、財布と共にそれを拾ってみた。
掌の上の潰れた珠は厚みは1ミリ程で中空だった事が見てとれた。
キラキラ輝く銀色のそれは、材質は分からなかったが意外に比重のあるモノだった。
よく見れば床の所々に捨てられ踏み潰された珠の残骸が落ちていた。 僕は再び何気無い風を装って足元に捨てられた金色の残骸も拾ってみた。
踏まれたらしく潰れてはいたが銀のと同じくやはり中空だったらしい事がわかった。
換金所のシステムはこれ以上見る事も無かったので、僕はそそくさと建物を出た。
夕食に食べたのがエミリアと半分に分けたパンだけだったので空腹だった。
財布は持っていたが、まさか日本円を使えるとも思わない。
明日は何とか仕事を探して食い物を手に入れなければと、切実に考えた。
スマホで時間を見るといつの間にか零時を過ぎようとしていた。
タイマーは相変わらず動いていて残り時間は『06:01:12』だった。
明日のために少しでも寝ようと通りをぶらつきながら横になれる場所を探した。
通りの外れにベンチを見つけたので、横になった。
あちらの世界でも職探しでハローワーク通いだったが、まさか異世界に来てまで食べる為に職を探さねばならないのかと思うと深い溜め息が出た。
明日のためにと思い目を閉じると、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。
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