第二源 魔王軍

 ある日、神崎天矢は国の長に呼ばれた。

 いつの間にか世界には国という名前に変わってしまっていた。それは神崎天矢の無知さからなるものだろう、


 神崎天矢は国王に呼ばれたことに不審がっていたが、行くことにした。

 神崎天矢は王宮の入り口である扉を開け、部屋に足を踏み入れた。


「やあ、神崎天矢くん」


 扉の中に入ると目の前には椅子に座った一人の男がいた。

 俺の場所からその男までの道に、赤いじゅうたんがひかれている。俺はじゅうたんの上を歩く。

 すると扉が閉まった。

 さらに、椅子に座った男は俺に銃を向ける。


「何のつもりだ?」


「いやー。ただの脅しだよ」

 と言うと隠し扉から銃を持った兵隊が何人も出てきた。


「何を望んでいる?」


 俺は少しでも時間を稼ぎ、自身に反射の魔法を刻む。

 これで兵隊が銃を俺に撃とうと、全て反射されて俺は無傷でこの場から帰れる。


「我々は貴様が特殊能力を持っていると知っているぞ。そんな奴に重火器が効くわけ無いな。来い」


 なぜ知っている!?

 多少驚きはしたが、これはまだ序の口であった。

 地面から黒いもやが現れる。


「魔法使いか?」


 俺は察した。

 魔法というものは確かにファンタジーの中だけのもの。

 だが、俺はファンタジーという世界をこの世界で実現させてしまった。つまりこの靄は魔法使いによるものの可能性が高い。


「ねえ。魔法使いってさ、何か弱そうだよね」


 背後から声がする。

 背後を振り向くと、そこにはフードを被った謎の男がいた。

 俺は後方に下がろうとしたが、その男は俺の目を見た。


「酔うぞ」


 その男の右目には、"酔"という文字が刻まれているように見えた。

 俺はその目に見入ってしまう。


「何っ!」


 その目を見ていると、俺の平衡感覚が狂っていく。

 俺はくらくらし、魔法を使おうにも意識が定まらない。


「そのまま倒れろ。神崎天矢」


 俺はそのまま意識を失った。


 俺が目を覚ましたのは、鉄が鉄を撃つ謎の音。

 気味悪い寝心地に、俺が目を開ける。


「世界には様々な能力がある。霊能力。錬金術。妖術。陰陽術。まあ今述べるだけでもこれだけあるんだ。だがそれらの能力の中で、とても強い能力がある。それが"魔法"と"超能力"だ。分かるかね? 神崎天矢」


 薄れている意識の中で、フードを被った一人の男がずっと話しかけてきている。


 俺は冷静に周囲を見渡す。

 鉄の牢屋に容れられて、手を後ろに回されて手錠をされて体を横に倒している。

 俺は倒れている体を起こし、その男に問う。


「お前は何がしたい?」


「安心しろ。殺したりはしない。ただこの世界を創ってくれたことに感謝してるんだよ」


「何を言って……?」


 確かにこの世界を創ったのは俺だ。

 だがそれを知っているのは俺の限られた身内のみ。

 雫に何かをしたのか?いや、雫の心を読むだけで十分か?


「神崎天矢、君は天才だ。なのに今まで創ってきた理論を誰にも公表しなかった。それはなぜかね?」


「それは……」


「今のようになるから、だろ」


 この男は俺の思ってることをズバリと当てやがる。

 今のようになるとは、世界が闇に染まった者たちーーつまりマンガやアニメでよくある悪役が世界を支配してしまう。

 マンガの世界では正義は必ず勝つ。だが現実というにはそうじゃないから悪そのものをつくってはいけない。だが結局生まれてしまう。


「まあそう考えるな。なぜ私が君に感謝してるか分かるか?」


「知らねーよ」


「君はね天才なんだよ。君は次から次へ妄想ファンタジー現実リアルに変えてきた。それでね……私も能力を得た。それが…」


 彼が鉄でできているであろう壁に触れると、壁が煙をあげて溶けだした。

 俺はこの能力を知っている。


「これは……」


「ああその通り。これは錬金術。どうだ?」


「なるほどな。でもその前に聞きたいことがある。俺を監禁した?」


「単純に、今からやることの邪魔をさせないため。それだけなんだ」


 彼は悪そうな顔をして言った。

 悪役がそんなセリフを吐いたあとにやること。そんなことは一つしかない。


「世界を壊す」


 俺が与えた力で。俺が授けた能力で。

 俺は憤怒に溺れた。

 だって彼らがあまりにも怠惰すぎたから。それにあまりにも傲慢すぎたから。


 俺は手錠を錬金術で溶かし、彼に言った。


「君じゃ世界を変えられない。世界を変えることが出来るのは、本当に力を持っている者だけだ。分かったら、死ね」


 俺は檻を錬金術で溶かした。

 俺は彼の頭に手を当て、彼の頭を錬金術で溶かした。


「雫。助けに行くから待っていろ」



 魔王軍が世界を支配すると言ってから十五日。まだ何も起きていない。

 だが国が俺に目をつけた。もしかしたら裏で動いているのかも。だから時間が無かった。


 俺は雫を頼れる人物に預け、信頼出来る仲間を探した。


 まず一人目は木原きはら よる。性別:男。能力:魔法


 二人目は月島つきしま 烈空れっくう。性別:男。能力:忍術


 三人目は目良めら 視子しこ。性別:女。能力:魔法


 四人目は白原しらはら 幽腎ゆうじん。性別:男。能力:妖術


 五人目は返原かえしばら 閃花せんか。性別:女。能力:特殊能力


 六人目はつるぎ せん。性別:男。能力:剣術


 この六人は悲しき境遇に育った者達だ。だからこそ仲間になってくれた。

 俺は彼らに相応しい能力を与えた。

 魔法が欲しい者には魔法を。錬金術が欲しい者には錬金術を、と。


「行くぞ。今から魔王軍と対峙する」


 俺たちは未だに行動を開始していない魔王軍の城に攻め入ることにした。

 俺達は深海で発見した神殿に向かった。

 不思議なのは、そこに空気があること。これは確実に能力によるものだ。


 神殿の中に入ると、八人の者が俺らを待ち構えていた。


「よく来たね。私らが魔王軍幹部。そして今からお前らを倒す」


 この何もない広い正方形の一室で、俺たちは向かい合う。

 こちらは七人。たいして彼らは八人。


「臆するな。行くぞ」

 俺が進むと、仲間たちもついてきてくれる。


「魔王様に手出しはさせるな。分かったか?」

 向こうもこっちに向かって走ってくる。

 相手もやる気満々だ。


 俺は宙に"止"という文字を刻んだ。

 すると魔王軍幹部の全員は動きが止まった。いや、正確には体の動きが完全に停止した。


「能力を生み出した奴とそうでない奴との差は大きい。とっとと死んでくれ」


 そう言い、俺は宙に"死"という文字を刻んだ。

 だが、空気がゆがみ、文字が崩れた。


「誰だ?」


「私は魔王の護衛。戦乙女ヴァルキリー。私の能力は神術と精霊術」


 そう言って現れたのは、白い衣装を身に纏った美しい女性。

 彼女が歩く度にヒールの音がコツンコツンと響く。


戦乙女ヴァルキリーさん。俺は全ての能力使えるんだけど」


 俺は強気で戦乙女ヴァルキリーとかいう奴に挑んだ。


「さあ来いよ。私がお前を殺すから」


 そう言った戦乙女ヴァルキリーは暗く嗤った。


「神崎天矢。君は神に勝てると思ったことがあるか? 私は無い」


 この戦乙女ヴァルキリーという女は何を言っているのだ。

 神ですら俺が創りあげたのだというのに。


「神崎天矢。そもそも神はいると思うか?」


「いないだろ。そんなもの」


 神は存在しない。だから俺は世界に神を創り出した。

 何もかもが俺が創った世界である。


「そうだね。皆それぞれの意見を持ってる。いると主張する者もいれば、いないと主張する者もいる。なら何が正しいか?」


 俺は飽きてきたので話も聞かずに戦乙女ヴァルキリーを殺そうと、戦乙女ヴァルキリーの背後にワープする。


神の鎖かみのくさり


 俺は突然、鎖に拘束された。

 戦乙女ヴァルキリーが握る鎖は、まるで生きているかのように俺に巻きついてきた。

 だが問題はそこではない。


「何だ!?この力は?」


 俺の体には、反応速度を遅くする呪いのような魔法が刻まれていた。

 確かこの魔法はあの六人にしか教えていないはず。


 俺は仲間たちの方を向くと、木原夜がこちらに手を向けていた。

 俺は察した。

 この魔法は、木原夜が俺にかけた魔法だ。


「木原。なぜ裏切った?」


「神の力が欲しかった」


 彼の答えは、ひどく傲慢だった。

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