第三源 それぞれの思い
神崎天矢。
彼は今、絶望に染まっている。
「聞いたか?あの神崎天矢が逃げ出すこともせず、ずっと海底にある神殿に引きこもっているらしいよ」
「神崎天矢はもう怖くないな」
「多分俺でも殺せるぞ」
「はは。それは言いすぎだろ。いや、案外俺でもやれる気がしてきた」
そんな魔王軍の兵たちの会話の原因である神崎天矢。
彼は今、海底にある神殿に幽閉されている。
彼ならばあの神殿から簡単にでていくことができる。
魔法、錬金術、妖術。
全てを持っている彼なら、あの程度の神殿から抜け出すことは容易であるのだ。だが彼は出ようよ思っていない。
その原因ーー仲間に裏切られた。
木原夜は神崎天矢が信頼した仲間の一人。
神崎天矢は木原夜に裏切られ、絶望を感じてしまった。
それはあまり人を信用したことがない神崎天矢だからこそ、裏切られたことは心に深く突き刺さってしまった。深く刺さってしまったその凶器は、誰にも抜くことはできない。
海底にある神殿。
そこにある小さな正方形の一室。人一人分の大きさのその部屋で、神崎天矢は壁に背をつけ、ただそこにいた。
彼は今、生きる意味も死ぬ意味もない。
ただの空っぽの人間となった。
「木原さん。どうして裏切ったりしたんですか?」
神崎天矢が信頼した六人の者たちは、海底神殿の中にある隔離された大きな一室に閉じ込められていた。
そこで、皆は木原に問う。
「木原さん。あそこで裏切るようなことをしなければ、神崎は……」
返原閃花は殺意を纏った言葉を木原に浴びせる。
だが木原も被害者であった。
「すまない……。俺はあの時、自我を保っていることができなくなっていた。気づけば俺は神崎さんに魔法をかけていた」
木原夜は顔を下に向け、誰とも目を合わさずに真実を語る。
木原夜は分かっていたから。
たとえ操られていたとしても、自分がいたせいで神崎天矢は生きる理由を失くし、戦う気力を失った。
木原夜は自分さえいなければ、と、悔やんだ。
だが悔やんだところで罪が消えるわけじゃない。
だが、神崎天矢を一番心配していたのは彼らではない。
神崎天矢には神崎天矢が愛した女性がいる。
「雫様。雨も降っていますので、今日は家の中でゆっくりしていてください」
楓雫は待っていた。
神崎天矢が魔王軍を倒し、いつか戻ってきてくれることを。
「天矢……」
「雫様。天矢様が帰ってこられた際、あなたが風邪をひいていたら天矢様は心配してしまいます。今は気長に待ちましょう」
謎のメイドに言われ、雫は渋々家の中に入る。
雫は後ろを少し振り向き、天矢が生きていることを祈る。
ーー神様。どうか、天矢を無事に護ってあげてください。どうか、どうかお願いします。
雫は祈る。
夢見た天矢との幸せのために。
「あなたが告白してくれたから、私は幸せになれたんだよ。だから天矢、速く戻ってきてね」
だが、神崎天矢は何もかもを忘れ、絶望に浸る。
「神崎天矢。やはりお前は信頼していた仲間に裏切られることが一番の苦痛らしいな。安心しろ。世界を俺が支配したら、すぐにお前を殺してやるから。俺の唯一の友達として」
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