神崎天矢物語

第一源 神崎天矢

 神崎かんざき天矢てんし。彼は天才だった。だからこそ彼は退屈だった。

 毎日毎日詰まらない日々を送っていた。18歳になったある日。


天矢てんしくん。魔法って知ってる」


 楓雫は神崎天矢に魔法を教えた。

 彼は魔法を知った。


「魔法ってのはね、火打ち石無しで火を出したり、川にみに行かなくても綺麗な水を出せたりして誰もが憧れるものなんだよ」


 彼は天才だった。天才ゆえ憧れなど無かった。そんな彼が初めて憧れた。魔法という幻想の力に。


 神崎天矢は魔法を創ろうとした。

 彼は自分のためだけでなく、魔法を教えてくれたかえでしずくのためにも創ろうとしていた。


 天矢は雫のことが好きだった。だから彼女の誕生日に魔法で告白しようとしていた。

 きっと喜んでくれると思ったからだ。


 そして雫の誕生日がやってきた。


 天矢は雫を夜の公園に呼び出した。

 夜の公園に二人きり。神崎天矢は緊張する。


「どうしたの? 天矢君」


 雫は何も知らないように聞いた。

 だが、雫は分かっていた。天矢が自分のことを好きでいてくれてたことを。

 だから雫は期待していた。


「雫。俺はお前のことが……」


 神崎天矢は言葉を止める。

 だが彼の心の奥底から出ていこうとする彼女への思いが、今溢れた。

 ダムが決壊するかのように、彼は言葉を滝のように紡ぐ。


「雫。俺はずっと前からお前のことが好きだった。俺は少し怖いけど、そんな俺にも優しく話しかけてくれた雫が大好きだった。誰も話しかけてくれない俺に唯一話しかけてくれた雫を、俺は好きになった」


 天矢は思いを伝えると空中に文字を刻んだ。


 "好き"と…。


 すると天矢と雫の周りが光の玉に包まれた。光は色を変え、七色に光った。

 雫は嬉しそうにその光景を見つめている。

 最後に光が空に舞い、花火のように光って散った。


 雫は惚れた。

 だから雫は答えた。


「天矢。私を幸せにしてね」


 ここから彼らの物語は幕を開けた。


 神崎かんざき天矢てんしかえでしずくはカップルとなった。

 その日、神崎天矢は初めて天才だったことにほこれた。

 だが彼の親友の黒田くろだマオは彼を気遣い、一人でいることにした。


「ごめんね。マオくん」


 黒田マオは神崎天矢の唯一の友達であった。

 暗い性格の二人だからこそ、二人は誰よりも親密な友情を築いていた。

 だが、その友情は神崎天矢に恋人ができてしまったことによって簡単に崩れ去ってしまった。


「いいよ。君が幸せなら……それでいい」


 天矢は本当はマオにも彼女をつくってほしかった。けどマオは誰とも関わらない。関わろうとしない。

 だって彼は過去に親友に裏切られ、誰も信頼出来なくなった。

 ーーだからマオは誰にも心を許さない。


 そして数日が経ち、天矢と雫の仲は深まっていた。


 神崎天矢は雫と毎日のように魔法を鍛えあった。もっと魔法を深く知り、もっと魔法を楽しむ。


 いつしか彼は魔法にこう名をつけた。


 "書く魔法ライティングマジック"と。


 神崎天矢はファンタジーの本を読み続けた。

 だって神崎天矢はファンタジーに憧れた。

 悪を倒し、英雄となる。そんな妄想ファンタジーに。


 いつしか世界には悪魔や天使が、素性を隠して暮らすようになっていた。

 そんな世界で、平凡な日常など長く続くわけが無かった。


「我々は魔王軍。今から圧倒的戦力をもって、世界を支配する」


 この日、世界が大きく狂った。

 ーー彼の魔法によって

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