第26話 解放区からの転落
あの日、 ヘッドマウントディスプレイが無いからアバターも持っていない楓は授業風景をタブレットで見ながら授業を眺めていた。
誰も彼もが自前のアバターを持っているわけではない。学力の格差は能力によるクラス分けによって生徒たちには見えづらくなっているが、経済的格差は如実に現れてしまうのが現代の学校であった。
楓本人はそのことを気にしたことが無いわけではなかったが、だからといって格差がなくなるわけでもなかった。
だが、気楽さもある。
居間のディスプレイで動画をつけっぱなしにしながらタブレットを眺められる。
アバターが無いから教師に当てられることもない。
「眠い……」
あくびをしながら、大きく伸びをする。
涙の滲んだ目でちらりとをディスプレイを見やるとテロップで臨時ニュースが流れていた。
「運送会社で発症者? オヤジの働いてるとこじゃんか。親父は? 親父は無事なのか!?」
――結果として、楓の懸念は悪い方に当たってしまう。
無事ではなかった。発症者は父親だったのだ。以前行われていた検査結果の陰性は偽陰性であり、父親は業務中に突如発症。僅かな時間でレベル5に至りZodiac化。父親は家には戻って来なかった。この事態は関東の物流の停滞を招く結果となった。
母親は公安局に保護され、楓と紅葉は自宅待機を命じられた。だが、抵抗して引きずられるように連れていかれる母親が最後に唇だけを動かして声を出さずに、兄妹にこう告げた。
逃げなさい、と。
楓は持てる限りの荷物をリュックに詰めて、幼い妹の手を取って家から逃げ出し、行きついた先が閉鎖区だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます