第20話 少女の退学と就職


 こうと決めた棗の動きは迅速だった。

 携帯端末から退学届けをオンライン提出。

 一秒後に承認メールが届いた。


「速っ」


 メールには今後の手続きなどの記載があったが一旦スルー。

 続いて衛生局には、山崎から送ってもらった書類を提出する。棗にとって紙にペンで字を書くなど、ほとんどはじめての体験だった。ペンは姉の遺品の中にあったものを使っている。棗は持っていなかったのである。


「これでいいのかな」


 少なくともここ十年では記憶にない。

 必要事項を記入した書類を封筒に入れて封をした。


「高校中退でも働けるんだよね……。山崎さんの紹介? もあるし」


 棗は部屋を出てエレベーターに乗り、玄関扉脇の事務室で配送を依頼する。


「なんでオンラインで受け付けてないんだろ……」


 オンラインならこんな面倒なことをしなくて済むのに、と思いながらエレベーターで部屋に戻る。

 実際のところ、衛生局では武器弾薬と言った消耗品の補充や死傷した人員への補償などに優先的に予算が回されるため、申請関係はいつまでも紙での運用になっているのだった。前世紀からの悪しき風習を打破するよりも今世紀最大最強の悪であるZodiac対策の方が重要度が高いのだ。


 ともあれ、棗の手続きはこれで全て完了した。

 未練も不安も山盛りではあるが、何もしないで今までのままでいるよりはいい。

 選んだ道を後戻りはできない。

 退路は無いのだ。

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