ASO activity report / 衛生局活動記録
第9話 東京都衛生局特別衛生三課
指揮車輛から無線で指示が飛ぶ。
「一番から三番は当該施設周辺を警戒。四番五番は突入準備。六番はバックアップ。七番以降は待機だ」
現場指揮官である特別衛生三課の山崎課長は指揮車輛――といってもバンタイプの乗用車に通信機材を積み込んだに過ぎない代物――の後部シートで身じろぎをした。
東京都衛生局が発症者発見の報を受けたのが十五分前。
三課から一課へシフト交代の直前、引継ぎ間際の連絡だった。
舌打ちしたくなる気持ちを抑えて部下三十名を率いて現場へ急行。
現場への展開を指示したのが、たった今。
現場は四階建ての古い雑居ビルだった。
通報も四階からだった。通報によると発症者の身元は四階オフィスに勤務する中年男性ということだった。今も四階にいてくれればいいが、窓を突き破ってビルから飛び降りてくる可能性もあれば別のフロアの住人に接触している可能性もある。予断を許さない状況だ。
『四番五番突入しました。一階クリア。無人です』
「了解。登録上の居住者は配布したリストの通りだが、ホームレスが住み着いている可能性もある。注意し、発見次第屋外へ誘導せよ。七番八番で居住者を保護、検査施設へ送れ」
各隊より了解の返事が雑音混じりに流れてくる。
一分後、二階クリアの報告。リスト通りの住人の数。避難も順調。ここまでは問題なく推移している。
山崎課長は両手を首の後ろに回し、腕で顔を挟みながら両肘をくっつけた。報告を待つだけの指揮者という身分がじれったい。小隊長――係長時代は隊長の無茶な要求に腹を立てながら早く命令する側になりたいと思っていたものだが。
『四番から各隊へ。三階にて負傷者発見。右腕上部に噛み傷と思われる裂傷あり。負傷者の意識は混濁。発症レベル3相当と判断します』
「了解。負傷者は厳重に保護した後、後送せよ。九番当該ビルに突入、支援に当たれ。十番は向かいのビルの屋上から狙撃準備。一番から三番は当該ビルの警戒を厳にせよ」
更に数分後――
『五番より各隊。四階、生存者無し。血の海です』
「了解。余計な修辞的表現は以後慎め。四階の簡易除染及び封鎖を行った後、三階に向かい四番と共に当たれ。発症者は三階だ」
『……了解。四階除染封鎖後、三階に向かいます』
「急いでくれよ」
無線通信ではなく、独り言だった。祈るような気持ちで報告を待つ。
『四番より各隊! 発症者に遭遇、レベル5! Zodiacや!!』
祈りは天に届かなかった。
元よりこの世界に神などいないと田所課長はこの十年で骨身に染みている。
人の手で抗う他は無いのだ、と。
「了解。隊長より各隊。これより発症者を目標
山崎課長の指示の直後、発砲音が響き渡った。
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