第21話 来訪者
ダンジョンの入り口は岩場の窪みに隠れるようにして設けられていた。
日の入らない場所まで進んだが岩肌がほんのりと発光しているため灯りを用意する必要はなさそうだ。
「もっとジメジメしてると思ったけどそうでもないな」
『外よりも魔素が濃いですね』
(魔素?)
『大気中に含まれる魔力の素となるものです。それを呼吸とともに体内に取り入れたものが魔力となります』
ということは日本へ帰ったらスキルも魔法も使えなくなるのだろうか。
『前方から魔力の反応を確認』
「長友、正面から何かくるぞ。マコトさんは俺の背後へ」
「はい!」
「ゴブリンですね。あ!魔法使ってきましたよ!」
嬉しそうな長友はゴブリンが放ってきた火の玉を躱すと突っ込んでいった。
「躱すんじゃねー!マコトさんもいるんだぞ!」
触手で火の玉を叩き落とす。
どうやら無属性魔法である俺の触手は魔法に干渉できるようだ。
(触手意外と使えるな)
ゴブリンを瞬殺した長友のもとまで行く。
ゴブリンは二体いたようだ。
「小柄なほうが火属性魔法をもっているな」
「それでは小さい方はもらいますね」
長友は液化した手を伸ばしゴブリンの死体を捕食してしまった。
「なんだスライムのスキルで消化するだけかよ、実際に食べるのかと思ったのに」
「さすがにゴブリンなんて食べませんよ!」
みなで大きい方のゴブリンを観察する。
テンプレだとダンジョンで死んだ魔物はダンジョンに返るのだが。
しばらくするとゴブリンの死体は砂のように崩れてゆき後には魔石だけが残されていた。
「消えましたね」
「消えたな」
「ファンタジーですね」
俺とマコトさんは長友と別れてダンジョンを後にした。
さすがにマコトさんを連れてダンジョンに潜るわけにはいかない。
というのは名目で、実はゴブリンの棲み処(勝手に名付けた)は相当深いのだ。
百階層以上もある。
長友には内緒にしていたが奴なら踏破して戻ってくるだろう。
もっともその時分に俺は転移を使って日本に帰っているかもしれないが。
俺は恥ずかしがるマコトさんを負ぶさりコロンドへ向かって迷い人の森を駆け出した。
途中で開けた場所に出たので休憩することにした。
「ここでお昼にしよう」
コンビニのお握りとサンドウィッチ、それからお茶を購入してマコトさんに渡す。
「え!?これもイルマくんのスキルなの?」
敬語はやめてもらった。ようやく慣れてきたようだ。
「何でも買えるよ。食べたいものがあったら言ってね」
「すごいね。でもお金ないから……」
「あー、金はいいや。実はさもう少しで日本に帰れるかもしれないからね」
すでに
これをすべて売却するだけで転移を購入する資金は貯まるのだ。
「そうなの?でも向こうは今たいへんなことになってるよ?」
「まあ、もうしばらくかかるしその頃には収束しているんじゃないかな」
『誰か来ます』
マップで確認すると緑色の点がこちらに近づいてきていた。
俺に敵意を向けていないことから暗殺者ではないようだが一応鉄の棍棒を取り出しておく。
息を切らしながら姿を現したのは日本人の女の子だった。
「あ、あの!川越さんですか?」
「そうだけど?」
俺を知っているということは小野の仲間かもしれない。
「一緒に帝都まで来てください!」
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