第19話 長友
こちらの世界に来ておそらく二週間ほどたっただろうか。
他の人たちと違う時間の流れのなかで生活しているせいかその辺りのことはすでにあやふやになっている。
あれからも度々暗殺者はやってきていたが、最近はすっかり見かけなくなった。
ちなみにドレーク商会の会頭は夜逃げしたことになっている。
商館にあった家財道具一式すべて収納したのでそう思われたのかもしれない。
俺はというとすでに一億円を貯めて再生を購入済みだ。
右腕も無事に生えてきた。
スキル再生は金額に見合っただけの性能をしていた。
裂傷程度なら一瞬で傷は塞がってしまう。
あとは転移を購入して日本へ帰るだけである。
「イルマさーん!」
「おう長友!ほれいつものだ」
長友から銀貨一枚(千円)を受け取りハンバーガーセットを渡す。
最近は鬼人に進化してコロンドの街にきた長友とつるんでいる。
あの時は逃げてしまったがよくよく話を聞いてみると魔物からしかスキルの強奪はできないらしい。鑑定でも確認した。
現在の長友の所持スキルは「強奪」「剣術」「槍術」「棒術」「斧術」「弓術」「身体強化」「身体制御」「敏捷強化」「消化」「再生」「脱兎」「毒液」「赤外線感知」「突進」「剛腕」「性豪」である。
俺が苦労の末に購入した再生を、こいつはスライムを食べただけで修得した。
さすが強奪チート野郎である。
しかも言語翻訳と収納は標準仕様らしく鑑定を使っても表示されない。
同じ迷い人でこの差は何なのだろうか。
「ご馳走様!」
「んじゃ行くかー」
今日は迷い人の森にあるダンジョンに初めて行く予定である。
長友はこの辺りにいる魔物から覚えることができるスキルはすべて修得してしまったらしい。
新しいスキルを覚えたいからと長友から誘われたのだ。
日本へ帰る前に一度くらいダンジョンに潜るのも悪くないと思い一緒に行くことにしたのである。
俺たちは気づかなかったがダンジョン(名無し)はゴブリンの集落の近くにあるとのことだった。
ただ狩猟ギルドのエマさんから聞いた話と、俺たちの記憶にある地形などから判断したのではっきりとした場所はわからない。
とにもかくにも俺たちは迷い人の森へと足を踏み入れた。
長友がいたので時空干渉は使えなかったが、ステータスやスキルのレベルも上がっていたのでほんの数時間で着いてしまった。
道中は長友が俺の移動速度に合わせていたようだ。
長友の強さはスキルだけでなく鬼人という種族の特性も影響していると思われる。
おそらく勇者くん(小野)でも勝てないだろう。
「しかしあれだな、長友はゴブリンを殺すことに躊躇ないのな」
「僕は人間ですよ!角だって出し入れ自由ですしね!もうゴブリン長友とか言わないでくださいよ!」
「お!見えてきたぞ」
「おお!懐かしの我が家がすぐそこに!」
ゴブリンの元集落に入る。
どうやらゴブリンたちはいないようだ。
長友が起居していた大きめの掘立小屋に入る。
毛皮を敷いただけの地面の上で人間の女が寝息をたてていた。
迷い人、日本人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます