第18話 奴隷解放②
冒険者ギルドのなかで寛いでいると一時間ほど経ってからようやくマップに動きがあった。
どうやらこの商館へと向かっているようだ。
狙撃手からの連絡が途絶えたので様子を見に来たのかもしれない。
がらんどうになった商館に入って呆然としている小ぎれいな衣服に身を包んだ男を鑑定する。
エドモンド・ドレーク、奴隷商人。
男はこのドレーク商会の会頭その人であった。
ギルドから出てドレークの背後に立つが隠形状態なので気づかない。
「こんにちは!」
「!?」
いきなり声をかけられて驚いているドレークを触手(結局この名称で落ち着いた)で拘束する。
「くっ!動けん!?何だこれは!?」
特殊なスキル保持者でもないかぎり触手を見ることはできない。
「俺を殺そうとしたのはなぜだ?誰かに頼まれたのか?お前自身の意思か?」
「い、言っている意味がわからんな」
「あの狙撃手が街に入ってきてからの行動は把握している。商人ギルドで会っていたじゃないか」
「証拠でもあるのかね?」
「証拠なんて必要ないでしょ?喋らないなら殺すだけだし」
「私の財産を奪うだけでなく殺すだと!この野蛮人め!」
大声で喚き散らして人を呼ぶつもりだろうか。隠形の効果で外に声が漏れることはないのだが。
というかこいつは自分のことは棚に上げて何を言っているのか。
「人身売買をしている犯罪者に野蛮人呼ばわりされる筋合いはないよ」
「奴隷の売買は国から認められている!私は違法な取引などしたことはない!」
「それはどうでもいい。今お前が問われているのはなぜ俺を殺そうとしたかだ」
ドレークはしばしの沈黙の後で口を開いた。
「異世界人で構成されるテロ組織奴隷解放戦線に、新しくこの世界に来た迷い人を参画させないようにするためらしい」
「それで俺も殺そうとしたわけか」
「勘違いするな。迷い人を狙っているのは暗殺ギルドで、我々は資金提供をさせられているだけだ」
「我々?テロ組織の標的が奴隷商人だけなのに商人ギルドから金を出しているのか?」
他の職種の者たちは納得しているのだろうか。
「あー、商人ギルドは奴隷商人だけの組合で他の商売人が所属しているのは商業ギルドだからな」
ドレークは観念したようで今ならどんな質問にでも答えそうだ。
「奴隷解放戦線?そいつらの規模は?」
「お前のほうが詳しいんじゃないのか?地下室に監禁していたうちの商館を襲撃したテロリストに勧誘されただろ?」
確かに小野からは仲間になってくれと懇願された。
断った俺の判断は正しかったようである。まさかテロ組織だったとは。
(あれ?ということは……)
『ですね。彼らの行いのせいでイルマは命を狙われたことになります』
「あいつのせいかあああ!小野おおおお!」
怒りのあまりドレークを拘束していた触手につい力が入ってしまった。
圧し潰されてぐちゃぐちゃになった死体を収納する。
ドレークはすべて正直に話してくれた。
途中から彼を表示していたマップの点の色も緑に変わっていたので、殺さなくてもいいかと思っていたので気の毒である。
それにしても人の死に対して感情が動かなくなってきている。
早いとこお金を貯めて日本へ帰らなければならない。
これではただの殺人者だ。
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