第16話 狙撃手

 奴隷商館の三階の窓から魔導銃を構える。


 望遠を発動して標的を確認した。


 「っち、まだガキじゃねーか……」


 金のためとはいえ嫌な稼業だ。


 だが仕事を断れば口封じのために消されるのは自分である。


 そのことに気づいた時にはすでに後戻りできないところまできていた。


 (若かった頃の自分をぶん殴ってやりてーな!)


 大人しく猟師を続けているべきだった。


 サイトで標的の眉間に狙いを定めて魔力を込める。


 俺は引き金を引いた。


 



 「は!?き、消えた!?」


 魔力で形成された弾丸は少年が座っていたベンチの背後の壁にめり込んだ。





 緩やかに流れる時のなかを奴隷商館の三階まで一気に駆け上がる。


 ソラによる風遁の術のサポートのおかげで以前とは比べられないほどの速度で移動できるようになった。


 部屋の中に入ると銃?を手にしたおじさんが佇んでいた。


 後頭部を殴りつける。


 (あ、あれ!?いつもより威力が……)


 『風遁の術は行動のすべてに効果を及ぼします。殴打するスピードが速くなれば当然威力も上がります』


 その場に崩れ落ちたおじさんの頭は歪んでいた。


 「とりあえず話を聞くつもりだったけど……、まあ仕方ないか」


 おじさんの遺体を回収する。


 ちなみに人の死体は買い取ってはもらえない。





 何の部屋かわからないがベッドがあったので腰かけた。


 (うーん)


 『どうしました?』


 (奴隷商人ってのは悪人だよね?)


 『そうとは限りません。この国では犯罪を犯した者や借金を返済できなかった者は奴隷に落とされます。もちろん不当に攫われたり親に売られて奴隷落ちする者もいるので、そういった者たちを扱う奴隷商人は悪人と言えるかもしれませんが』


 日本人の感覚からいえば人身売買は当然犯罪である。


 つまり奴隷を売っている商人は悪だ。


 (んー、たとえ国から認められていようと人身売買をしている時点でアウトなんだよなー)


 『では奴隷を解放すると?』


 (うん。そして金目の物はいただく)


 そもそも商人ギルドと奴隷商は、俺に暗殺者を送り込んできた組織となんらかの関係があるのは間違いないのだ。


 自分を殺そうとしている連中に手心を加える必要などない。


 『奴隷は地下に監禁されているようですね』


 マップで確認してみると確かに地下室があるようだ。


 奴隷を解放する前に大掃除をしておかなければならない。


 これは世直しである。たぶん。





 スキル隠形を発動してこの商館に侵入していたのでまだ誰にも気づかれていない。


 そのおかげで作業が捗る。


 部屋にあるものは収納し、人がいれば殺す。


 躊躇はしない。


 この商館内部にいる俺と奴隷を除いたすべての者は犯罪者だ。


 この館の主の執務室はすぐに見つかったがあいにくと留守であった。


 だが金庫をゲットしたのでよしとする。


 掃除が終了したので地下へ向かった。





 看守がいたのでさくっと殺る。


 奴隷は鉄格子のなかに監禁されていたが想像していたよりも健康そうで衛生状態も悪くなさそうだ。


 ただ一人を除いてではあるが。


 そいつは最奥にある独房でちょうど拷問を受けている最中だった。


 看守の背後から衝撃波を放つ。


 その大男は吹っ飛ばされて壁に叩きつけられるとそのまま動かなくなった。


 衝撃波の威力も上がっているようだ。


 ソラが俺のスキルをいじくったからだろうか。


 逃げられないよう足枷をめられて倒れている奴隷を鑑定する。


 小野俊輔おのしゅんすけ。日本人だった。


 こっちの世界へ来て二人目の同郷人だ。


 いや、長友はゴブリンだから数に入れるのはやめよう。


 俺の行いは間違っていなかったようである。




 


 

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