第14話 暗殺者②

 ギルド内のモニターに外の景色を映し出す。


 暗殺者は全身黒尽くめの忍者然とした格好で覆面を被っている。


 俺の元居た場所まで来ると辺りを捜索しだした。


 「違う所には出られないんだよな?」


 「はい。入った場所と同じ座標にしか出口は開くことが出来ません」


 モニター越しにしばらくの間固唾を呑んで見守っていると、諦めたのか暗殺者は忽然と姿を消した。


 マップで確認するとコロンド方面へと帰っていったようだ。





 おそらく俺が狙われたのは転移者だからだろう。


 他に思い当たる理由などない。


 そして暗殺者はコロンドにいる。


 俺を転移者だと直截知っているのは守衛の三人と狩猟ギルドの職員だけだ。


 しかし彼らが他の者に話しているかもしれないし、俺はジャージ姿で街中をうろついていたので多くの人にバレているだろう。


 すでに暗殺者の特定など不可能だしそもそも個人とは限らない。


 迷い人もとい転移者や転生者を暗殺する組織でもあるのかもしれない。


 敵はどこかのギルドもしくはコロンドの街全体、最悪の場合この世界のすべてということもあり得るはなしだ。


 とにもかくにも自分の身を守るすべを身につけなければならない。





 手元にあるのは一千万。


 転移スキルを購入するために使うつもりはなかったが命あっての物種だ。


 スキルカタログと睨めっこをして以下のものを購入した。


空蝉うつせみの術・致死性のダメージを一度だけ無効化できる結界を張る。

     常時発動。リチャージまで24時間。五百万


風遁の術・気流を操作することによって空気抵抗を減じ行動速度を上げる。百万


自然治癒力上昇、魔力回復力上昇、魔力感知(ソラ用)・各五十万


身体制御、敏捷強化、魔力強化、魔力制御・各十万


無属性魔法・その効果は術者が初使用時に欲したものに構築される。十万


 合計八百万円。残りはもしもの時のために残しておく。


 「無属性魔法は使ってみないとわからないってことか、安いわけだ」


 『攻撃手段がないようですがよろしいのですか?』


 魔法や武器スキルはLvがある以上、今覚えたとしても付け焼刃にしかならない。


 「とりあえず死なないことが第一だからね」


 だいぶ時間も経過したので表に出る。





 「うん、もう平気そうだな」


 マップで安全確認する。


 『魔力感知にも大きな反応はありません』


 念のために時空干渉を使っておく。


 発動直前のその刹那にどこからか声がした。


 「やはり何かの感知系のスキルを使っていたか。隠密を発動しながら戻ってきて正解だったよおだああなあああーーーー」


 その声が間延びしてゆく。


 気づけば背後から心臓を一突きされていた。


 俺はとあるスキルを発動する。


 「ディープ……」


 『それを使用してはなりません!』


 「インパクト!」


 振り返りざま暗殺者の頭部に衝撃波を叩き込む。


 正確には相手の耳に張り手を喰らわせた。


 衝撃波で鼓膜を破りその間に逃走するつもりだったのだ。


 ところがその直後、乾いた大音響と共に暗殺者の頭部と俺の右手が爆散した。





 「あああああああああああああああああああ!」





 冒険者ギルドの自室で肘から先が無くなった右腕を見つめる。


 空蝉の術のおかげで一命は取り留めたが利き腕を失ってしまった。


 だが欠損した右腕にショックを受けているわけではない。


 右腕はスキルを購入すれば治せるのだ。


 そのスキルは再生。


 一億円である。


 俺はその金額に意気消沈しているのだ。


 まさか右腕を失ったまま日本へ帰るわけにはいかないので、転移よりも先に再生のスキルを買わなければならない。


 つまり二億円を貯めなければならなくなってしまったということだ。





 ちなみに衝撃波が暴発した原因の説明をソラから受けたが何かの専門用語だらけでよくわからなかった。


 俺の放った衝撃波が暗殺者に当たって反響したものと、俺の衝撃波をのせた拳が衝突したことによって生まれたエネルギーが、なんとかかんとかした結果暴発したとのことである。


 うん。わからない。


  








 


 

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