第11話 入街
広い草原の向こうには城壁が聳え立っている。
どうやら街全体を囲みこんでいるようだ。
魔物が多数生息する大森林と接しているからだろうか。
とにもかくにもここから先は人の住む領域だ。
この世界へきてゴブリン長友以外の人?には会っていないので楽しみである。
エルフとかいるのだろうか。
守衛が城門の両脇に立っているが兵士というより冒険者然とした風体をしている。
もしかすると街の守護は傭兵ギルドが担っているのかもしれない。
そのまま素通りしようとしたところ当然誰何された。
「待て、おい!そこの珍妙な格好をしたお前だ!」
(ですよねー)
「あ、俺ですか?」
「お前以外にここには誰もいないだろ!」
「あ、ほんとだ」
「ったく、お前は、迷い人だな?」
詰所で入国審査?のようなものを受けることになった。
守衛とは別の年配の人物が対応してくれるようだ。
まだ三人にしか会っていないが皆欧米人のような顔つきをしている。
「迷い人というのは何ですか?」
「ああ、そこからか。迷い人とはこことは別の世界から迷い込んでしまった者たちの総称だ。昔からなぜかこの辺りは多くてな」
(なるほど、それで迷い人の森というのね)
「ではこの白い玉に手を置いて」
これが有名な犯罪歴等調べることができるという魔導具だろう。
「えー、イルマ・カワゴエ……、スキル無し、……無し!?」
(え!?どういうこと!?)
『イルマのスキルはイルマだけのために創られた特別なもので、この世界の既存のものとは別物なので鑑定や魔導具を使っても判定されません』
ここは何も知らないふりをしたほうが自然かもしれない。
「あのー、スキルって何ですか?」
「え、ああ、スキルとはこの世界に生まれ落ちたときに神から与えられるもので、齢十歳で行われる洗礼の儀によって発現するものだよ」
「ということは俺もその洗礼の儀を受ければスキルを得られるのですか?」
「わからん。普通迷い人は別の世界から渡ってくるとき、神に直截謁見を許されてスキルを授かるといわれている」
「神様になんて会っていないのですが……」
「……そうか、とりあえずどこかのギルドに加入して身分証を作るといい。教会とギルドへの紹介状を用意しよう」
「はあ……」
「入りやすいのは傭兵ギルドか狩猟ギルドあたりか。私は傭兵ギルドのハンスという。何か困ったことがあればいつでも相談に乗ろう」
「ありがとうございます……」
哀れな少年役をこなした俺の名演技によってハンスさんという味方ができた。
ギルドは後回しにして、スキルをもらいに教会へ向かうことにする。
この街はセイロン辺境伯領のコロンドというらしい。
穀倉地帯が広がり資源の豊富な大森林と接していることから、僻地にあるにもかかわらずたいそう豊かで賑わっている街だ。
大通りをまっすぐに進めば協会がある。
マップがあるので道に迷うことはない。
観光気分で行き交う人たちを眺める。
エルフはいないが獣人はちらほら見かける。
(あの子のしっぽをもふったら怒られるかな)
『それ普通に痴漢ですから』
それにしても想像していたよりずっと小ぎれいな街並みである。
透明度の高いガラスが普及しており、地面も石畳ではなくコンクリートのようだ。ただ若干弾力性がある。
迷い人もとい転移者がこちらにある資源だけで再現したのだろう。
教会の入り口は開け放たれていた。
参拝しているのは自分だけのようで辺りは静寂で満ちている。
教会の中に入ると神官がいたので紹介状を渡して来訪の目的を告げた。
「ハンスさんの紹介ですか、……なるほど、初めて聞くケースですが主は寛容ですから何とかなるかもしれません」
話によるとスキルは確認されているなかでは多い人で五つ、最低でも一つは発現するらしい。
「それでは祭壇の前まで進み主に祈りを捧げてください」
やり方がわからないのでとりあえず合掌してみた。
(スキルをください!)
……。
『イルマ!この神様居留守使ってますよ!』
(おい!何で俺だけ他の転移者と扱いが違うのか説明しろ!)
……ちっ。
(こいつ舌打ちしやがった!)
『この教会燃やしますか』
(金もあるし火属性魔法を覚えるのも悪くないな)
ま、待て待てー!わかったからやめるのじゃ!
(あれ?こいつジジイだぞ?ゴブリン長友は女神と言っていたんだが)
なんと無礼な奴じゃ! そもそもお前はわしの担当ではない!
(それはそっちの問題で俺には関係のない話しだろ)
『そーだそーだ!』
くっ、スキルをやったら大人しく帰ると約束できるか?
(え!?いいんですか!?)
『やはり神様は寛容なお方でしたね』
現金な奴らじゃの……。一つだけスキルをランダムで授けよう。
直後、俺の中に何かが流れ込んできた。
(お、さんきゅー神様。また来るよ)
『ばいばーい』
……なぜわしがこんな目に――
「その様子だと無事にスキルを賜ることができたようですね」
「はい、一つだけですがありがたいことです」
神官に礼を言い教会を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます