第6話 殺生
たれ耳の森兎は成犬のゴールデンレトリバーほどの大きさがあり全身が茶色のふわっふわの毛で覆われている。
『今のうちに狩ってしまいましょう!』
「あんなに可愛いやつを殺せるわけないだろ……」
(警戒されてないっぽいし触っても怒らないかな)
『一応魔物ですからやめましょう!今は草を食べていますが森兎は雑食です!』
(あのふわっふわに顔を埋めたらさぞかし気持ちよさそうだ)
おもむろに近づき手を伸ばす。
指先が触れる直前で森兎は後方へ跳躍した。
「あ!ごめんごめん、だめだった?」
森兎は前足で地面を搔きすでに臨戦態勢だ。
「え、ちょっ!ちぇ、チェンジザワールド!」
今にも飛び掛かってきそうな勢いだったので時を引き延ばし森兎から距離をとった。
森兎は警戒を解かずにこちらを見据えている。
ふとマップに目をやると先ほどまで緑色だった点が赤色に変わっていた。
この状況から判断すると点の色は俺にとって害があるかないかで変わるようだ。
赤なら俺に対して害意や悪意があり緑なら無害ということだろう。
そして、さっきまでマップの端のほうにあった赤い点は森兎の近くまで移動していた。
マップから目を離すと前方でゴブリンが小剣を上段に構えていた。
森兎は俺に注意を向けているため気づいていない。
直後森兎の頭部にゴブリンの小剣が叩きつけられた。
ゴブリンは何度も小剣振りかざしているが止めを刺せずにいる。
森兎は頭部が原形を留めなくなったころになってようやく動かなくなった。
俺にグロ耐性はなかったようだ。
胃液が逆流しそうになるのをぐっと堪える。
ゴブリンが血走った眼をこちらに向けていた。
鑑定してみると
おそらく俺でも対処可能だろう。
ただし俺がゴブリンを殺せるかといったらそう簡単な話ではない。
ゴブリンは醜悪な面構えで下卑た笑みを浮かべており正直不快である。
しかし想像していた以上に人の姿に近いのだ。
角や牙は生えてはいるがそれを除けば緑色の肌をした悪人面の子供といった感じである。
ゴキブリを殺すことさえ恐々とする自分が人型の生物など手にかけるなど想像もつかない。
逃げるという選択肢もある。が、それを選んでしまったら二度と魔物に立ち向かえなくなる予感がする。
この世界を生き抜いて日本へ帰るためにはすでに目前まで迫っているゴブリンを殺さなければならない。
時空干渉を発動して小剣を振り上げたゴブリンを見つめる。
こいつは俺を殺そうとしているのだから自分が殺されても文句はないだろう。
これは正当防衛だと自身に言い聞かせる。
俺の持っている武器はただの木の枝だ。
柔らかいところにしか刺さらないだろう。
だからゴブリンの見開かれた目玉に深く突き刺して入念に脳みそをかき混ぜた。
ゴブリンから離れて時の流れを元に戻す。
胃の腑の中身をすべてぶちまけてから森兎とゴブリンの死骸を収納した。
まだ手のなかにはゴブリンを殺めたときの感触が残っている。
(触れずに殺す方法をなにか考えないと……)
日本生まれ日本育ちの俺には耐えられそうにない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます