第2話 離島の記憶

文木:

「ねえねえところでさ、石和さんはいつまで軍艦島にいたの・・・・・・?」


石和:

「島に居たのは小学二年生の二学期までです。小学二年生だから八歳ということになりますね。その時、兄が小学六年生で妹は幼稚園生でした」

「三学期から転校先の小学校に通った記憶がありまが、二学期いっぱいまで島の学校に居たのかは定かではないです。島民が離島し、閉山したのが年が明けた一九七四年(昭和四十九年)の一月十五日ということだし、年の瀬の十二月末ぎりぎりまで島に居たとも思えないので二学期の途中までということだと思います」


早良:

「そっか~。小学校二年生だったら島に住んでいた記憶はありますよね」


石和:

「ん~とは言ってもね・・・・・・。これから色々と島の思い出をお話ししますけど四十年以上も昔の話ですし、記憶が曖昧なところや子供では分からないことなども沢山あると思いますので、そこは勘弁してくださいね」


文木:

「まあ、それはね。でもね、我々にとっては全てが貴重でワクワクする情報になりますよ」


石和:

「炭鉱の島だった軍艦島の閉山が決定され、島民の離島が順次行われて行きました。クラスの友達数名をお別れ会で送り出し、島の中はあちらこちらで引越しが行われていて、あの時は人がいなくなっていることを肌で感じました。軍艦島は狭い島内に背の高い建物が乱立していることで有名ですが、エレベーターはなかったので引越しの大きな荷物がいくつもベランダ越しにロープでブラブラと釣り降ろされている風景はとても印象的で目に焼き付いています」

「いよいよ自分のお別れ会になった時はクラスの友達は半分くらいになっていました。仲の良かった友達のお別れ会の時は挨拶の言葉も出なくなるくらい泣きましたが、自分の時は意外と冷静でした。変なもので自分が主役になっていることへの妙な高揚感がありました。でもね、実際に船に乗って皆んなとお別れする時はやっぱり泣けました。船に乗り込んで汽笛が鳴っても船の進みは遅く、いつまで経っても先生や友達の姿は桟橋に見えているし・・・・・・」


文木:

「なるほどね。船の別れは辛いものがある」


石和:

「はい。船の別れは二度と嫌だと幼心に感じたものです・・・・・・とか言って、まぁ、大人達が口にした言葉が記憶に擦り込まれた感じもありますけどね」


「一旦立ち寄った隣の高島には、先に離島していた友達がお見送りに来ていたりして泣きっぱなしだった様な気がします。その高島には沢山の島民が移り住んだと聞いています。軍艦島よりは全然大きな島です。やはり炭鉱の島ですが、ここも一九八六年(昭和六十一年)には閉山しちゃいました」


早良:

「友達との別れか・・・・・・ところで、クラスに生徒って何人いたんですか?」

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