第337話
―――イ゛ッ!?」
脳は意識を返事をすることに持っていかれていたが、体は無意識に動いていた。
とっさに構えた左腕にずぶりと切っ先が沈んでいく。
「っ!」
そのまま腕を構えていれば、やがて腕を突き抜けて胸と到達していただろう。
だが腕に刺さった刀を見て、俺は反射的に体を捻るようにして外側へと腕を払っていた。
刺さりどころが良かったのだろう。丁度骨の間に刃が通ったことで、骨で絡めとる結果となった。
想定外の力が横に加わり、お義父さんの体勢が少し崩れる。
俺は体を捻った動きを利用し、右手にもった脇差をお義父さんの頭部へと向かい水平に振るった。
ここまで半ば無意識での行動だったが、うまい具合にお義父さんの体勢が崩れたことでこちらの攻撃は入るだろう。
その頭かち割ってやる……そんな気持ちで力を込めるが、返ってきたのは軽い手ごたえと、肘への激痛だった。
軽い手ごたえは何なのかについてはすぐ分かった。
あたると思った攻撃をお義父さんは咄嗟に頭を下げて回避したのだ。
結果、俺の攻撃は骨を滑るに終わる。
そして肘の激痛は……いつの間に抜いたのだろうか、脇差によるものであった。
避けると同時に左手で、しかも逆手で持った状態で俺の肘に斬り付けたのだ。
お義父さんとしても咄嗟の一撃だったのだろうか、幸いなことに両断されるまではいかなかったが……握ることができず、脇差が手を離れてしまった。
「ゲヴッ」
利き手が使えず、武器を手放してしまっても蹴りを放つことはできる。
突き刺すような前蹴りが腹にめり込み、お義父さんは後方に盛大に吹っ飛んだ……いや、あれは自分で飛んだな。
骨を砕いた感触があったから、ダメージは小さくないだろうが……さてどうするか。
……脇差はかなり遠くまで飛んでいってしまった。手持ちの武器は左腕に刺さったままのお義父さんの刀のみ。
使い慣れてはいないが、素手で立ち向かうよりは大分ましだろう。
抜けかけの刀を咥えて引っこ抜き、左手に持つ。
お義父さんが体勢を整える前に距離を詰めようと足に力を籠めるが、生じた痛みに顔が歪む。
……蹴りをくらって吹っ飛ばされながら斬り付けていた? まじかよ。
物の怪か何かかな?
まあ、物の怪だろうが何だろうが蹴れば骨は折れるし、斬れば傷付く。
地面を転がるお義父さんの片目は流れた血で塞がっていた。
「ふっ!!」
痛みを無視して距離を詰め、例え防がれても押し斬るつもりで全力で脇差を叩きつける。
肩にガツンッと衝撃がきた。
「ごぽ」
口から血が零れ落ちる。
脇差は受け流され地面を叩き、逆にお義父さんの振るった刃が下腹部から右肩へと抜けていった。
狭くなる視界の中、一歩下がろうとするお義父さんの足が見え……俺は反射的にそれを踏みつけていた。
「っ」
はっと息を飲んだのがわかる。
ここで初めてお義父さんに焦りが見えた。
頭部への一撃を避ければ、あと少しは動けるだろう。
俺は半ば切断された右腕を頭上に掲げ、左手に持つ脇差をお義父さんの腹部に突き立て……捻ろうとしたが、途中で脇差を握っている感覚が消える。
割と密着した状態なのに、よく刀が振るえるものだと思わず感心してしまった。
右腕も左腕も使えない。
残るは……ちらりと見えた首筋に歯を突き立てようとして。
ガチンッと歯が合わさる音が響く。
ああ、躱されてしまったか……と思うが、そこで周りの景色が変わっていることに気が付いた。
「んお?」
どうやら死亡判定を食らってしまったらしく、俺は無傷の状態で壁際へと戻されていた。
……おしいな。あと少し動けていれば少なくとも相打ちには持って行けたのに。
そう思い、一人残されたお義父さんへと視線を向けるが、ガクリと膝をつき……一拍おいてスッとその姿が消え、俺の隣に無傷のお義父さんが現れた。
「……やるのう!」
「あ、ありがとうございます」
ギラギラとした視線をこちらに向け、歯を剥くように笑みを浮かべるお義父さん……え、まさかこのまま斬りかかってこないよな? と思ったらとバシバシと背中を叩かれた。
よくよく考えると蹴りに噛み付きと、一応剣の特訓でそれはありなのだろうか? というようなことをやってしまったが、お義父さん的には一切問題ないらしい。
「まさか斬られても一切怯まないとはな……」
「普通は致命傷負うと動けなくなるものですが、よく動けましたね?」
「……その辺は慣れかなと思います」
そこそこ怪我は負ってるし、死に掛けてもいるからねえ。
お義父さんとしては最後の一撃が割と致命傷だったもんで、怯んでる隙に首を落とそうとしたんだそうな。
それが間髪おかずに俺が動き出したもんで焦ったということらしい。
あれだ、ゲームとかで普通の敵と同じ感じで攻撃したら、一切怯みモーション発生せずに距離詰めて攻撃してくるようなそんな奴だ。
我ながらめちゃくちゃ嫌な敵だな、おい。
まあそれはさて置きですね。
「……」
さっきからお義兄さんの視線がなんか怖い。
ずっと糸目なんだろうかと思っていたら、開けることもできたらしい。
ただちょっと黒目がちで、開いたとはいえまだ薄目なもんで……なんか黒い。それでいてギラギラしてるもんだから、視線合わせちゃいけな感じになってる。昼間でも職質されそう。
こりゃお義兄さんともやらんとダメだろなあ。
「さて……もう一本いくかの」
とか思っていたら、お義父さんがそんなことを言いながら徐に立ち上がった。
天の助けっ……では、ないな!
でも、一戦やってちょっと落ち着いてはいそうだし、まだましかも知れない。
再び脇差しを持ってお義父さんの後ろをついていこうとすると……にゅっと背後から手が伸びて、お義父さんの肩をがしっとつかむ。
「……次は私の番では?」
「……だめか?」
「だめです」
たすけて。
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