第336話
まあどんなやべえ一家だろうと、俺もそこに加わるのだ。
今のうちに慣れておくのが吉である。
「……思っていたより人いますね」
扉を潜った先は……そうだね、剣道の試合とかやる二階建ての会場に近いかな。それもかなりでかい試合をやるところ。
あれの二階部分の観客席がない代わりに、そこそこ動けるぐらいのスペースがある感じで、ぱっと見でだけど200人以上は居るんじゃないかな? 入ってすぐのところからは見えない一階部分は、何やら音が聞こえてきているので稽古に使ってるんだと思う。なので実際には200人よりもっと多いだろう。
二階ではそれぞれ準備運動だったり、何か話あっていたり、中には座り込んでぐったりしている人なかもいる。
端のほうに更衣室もあるんで着替えている人もそこそこ居そうだ。
しっかし、ほんと人多いな。
いても十人、二十人程度かなーって思っていたんだけど……。
「うちと同様に困っている道場はそれなりにある。ということだな」
「なるほど……あ、そうか全国共通の施設か」
お義父さんの言葉を聞いて、普段使っている施設とは違うことに思い至る。
BBQ広場とか隊員さんしかおらんけど、他のダンジョン潜っている人はそうじゃないもんな。
「……? ああ、そういうことです。時々聞きなれない方言の集団もいますしね」
一瞬首を傾げたお義兄さんだったが、俺や遥さんが普段潜っているダンジョンは自衛隊専用だと思い至ったのだろう。すぐに納得したように言葉を続ける。
……しかし聞きなれない方言の集団ね。
本家島津の人たちとかじゃないだろうな? いきなりチェストされたらどうしよう……とりあえず耳を澄ませて聞ける範囲の会話を盗み聞きしてみる……とりあえず何言ってるか分からないレベルの方言は聞こえてこなかった。
ただ、ちょっと気になる会話が聞こえちゃったんだよな。
「……もしかしてよその道場と交流試合とかもやってるんです?」
「なに?」
「あそこの集団、なんか試合するようですよ」
まあ集団といっても、合計で10人ちょいしかおらんのだけど。
どうも代表5人だして試合しようぜ、真剣でな! と一方の集団がもう一方に持ち掛けているようだ。
持ち掛けられたほうはあまり乗り気では無く断ろうとしているみたいだけど、妙に粘られて困ってそうな雰囲気だ。
「……ああ、またあの連中か」
「有名なので?」
俺が示した集団にちらっと視線を向けたお義父さんだったが、すぐに興味を失ったように視線を戻す。
なんじゃろね。若い人しかおらんっぽいしお義父さんの食指が動かないとかだろうか……この言い方だと変な意味に聞こえそうだが。
「詳しくは知らんが、ああやって交流試合を持ち掛けてるのをよく見かけるな」
「うちに来たことはないですけどね」
「ふん」
ちょっと苦笑気味のお義兄さんと、詰まらなさそうに鼻を鳴らすお義父さん。
なんだろうね。この二人のやべえ雰囲気を察して近寄ってこないとかなんだろうか。
「……まあ、気にすることはないですよ。はい、これ使ってください」
「ありがとうございます」
ちょっと気になっていたけれど、お義兄さんから脇差を渡されたのでそちらに意識を移す。
俺が普段使っている剣鉈は鍔がない……訳ではないけれど、指が滑って怪我するのを防止する程度のものなので、斬り合いには向かないのだ。
攻撃受け止めても、滑ってそのまま斬られちゃう。
「怪我しないようにねー」
……そう着々と準備を進める俺たちに向かって、暢気な感じで声をかけてきたのは遥さんである。
父親と兄、そして付き合っている人の斬り合いを見に来るとか、それはどうなの……? と思わなくもないけど……ま、まあ実際にはそこまでがっつり斬り合いにはならない可能性もわずかに存在するわけですし?
「無理にきまっとる」
「ですね」
「せめて善処してください」
あ、ダメですねこれ。
希望も何もあったもんじゃねえ。
「何か違和感がありますか?」
「いえ、特にはないですね」
借りた道着に着替え、一階で実際に軽く脇差を振ってみたけれど、違和感はない……普段ダンジョンで振るっている鉈剣よりずっと重く感じているはずなのに不思議だ。
これもダンジョン側でうまい具合に調整してくれた結果なのだろうけど……ああ、ちなみにレベル差を解決する云々だけど、単純にダンジョンでレベル上がった際の補正なんかを0にするってのと、カード類の効果も無効にするってのだったよ。
どちらかだけを選ぶこともできるし、両方を選ぶこともできて今回は両方を選んだようだ。
なので動体視力だったり脳の処理速度なんかも普通の人間に戻っているはず……そういやクロとか連れてきたらどうなっちゃうんだろうな。おそらく賢くなったところはそのままで、それ以外の補正をどうにかするんだと思うけど。
……クロを連れてくることはおそらく無いだろうけど、もし連れてくることになったら事前にアマツに聞いておいたほうが良いだろうね。
「さて、ではまず私からいこう」
俺が脇差を振っている間に、お義父さんのアップも終わったようだ。
まずはお義父さんを相手して、次はお義兄さんか……緊張してきたなあ。せめて腕の一本ぐらいは貰って良いところを見せたいけど……どうなるかな。
「知っているとは思うが、ここでは怪我を負っても……例えそれが致命傷だとしても、死亡判定がでた時点で初期位置に戻されるだけで実際に死ぬことはない」
ふむ。
このへんは普通にダンジョン潜っているのと同じだね。
死亡判定がどこで出るかが今一分からないのが問題っちゃ問題だ……自分はまだまだいけるつもりでも、死亡判定受けて戻されてしまうかも知れない。
とはいえやはり首とか撥ねられたら一発でアウトだろうし……どうにか首とか頭部への一撃は防いで、それ以外は斬られてもしゃーないぐらいでいくっきゃないか。
「それに鍛錬の場だから当然だろうが、死亡判定が出ても何かしらペナルティを負うこともない」
そこまで話すとお義父さんは刀を抜いて構える。
俺も脇差を抜いて構えるが……やっぱ隙がない。
向こうの方がリーチもあるし、懐に潜り込むのが大変そうだ。
腰に脇差もさしてるんだから、そっち使ってくれれば良いのに……と思わなくもないが、仮に脇差使ってくれても隙はなさそう。
うーん。向こうから仕掛けてくれるとやりやすいんだけどなあ……いや、やっぱあれだな。積極的にこちらから仕掛けるべきだろう。
相手のほうが剣の腕は上なんだ、意表をつくぐらいで無いとどうにもならん気がする。
始まると同時に頭かち割るつもりで全力で斬りかかろう。防がれたらその時はその時だ。
「……さて、理解したところで始めよう。好きに仕掛けてくると良い」
お義父さんが言い終えると同時に返事をしながら斬り掛かろう。
そう思い、俺は口を開く。
「は―――
が……動く前に胸元に切っ先が伸びてきていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます