第333話
「ついでだからアップグレードもしておこう」
どうせなら美味しいほうが良いよね。
喫茶ルームもケーキとかむっちゃ美味しくなったし、茶屋も同じだろう。
クロも新しい施設はちょっと気になるのか割と行く気っぽいし、ささっといじって食べにいくとしよう。
「……なんか結構高い?」
施設追加したのに対して、桁が3つほど違う気がしなくもない。
手持ちのポイントから見れば微々たるもんだけどさ。
「ほかの施設いくらだったかな……忘れた」
過去にアップグレードしたものとして、喫茶ルームだったりBBQ広場だったりと色々あるけれど、ちょっと昔……って程じゃないけど、時間経ってるもんですでに記憶の彼方へといってしまったようだ。
「ま、いっか」
ポイントがいくらだったとか分かったからと言って何かある訳じゃない。
ダンジョン人口も増えてきているし、当初と必要ポイント変わってる可能性だってあるしね。
俺がいま気にすべきは購入できるメニューと味だ。お土産に適さない品物ばかりだったら戻ってよさげな店をピックアップしないといけなくなる。
「おつかれさまです」
よっしゃ行くぞーと、クロを抱えてダンジョンに入ったらまだ何人か隊員さん達がいた。
残業ってやつだろうか?
「こんな時間に珍しい。これから潜るのか?」
「いえ、ちょっと小腹が空いたんで夜食でもと」
「ああ、なるほど。食い過ぎんなよー」
「うっす」
と、隊員さんと軽く言葉を交わし、目当ての茶屋へと向かう。
……あの感じだとまだ施設が追加されたことに気が付いてなさそうだ。
ということは俺とクロが一番乗りってことになるな。
なんかちょっとうれしい。
「んお」
施設に入り、目に飛び込んだ景色に思わず声が出る。
喫茶ルームと同じように室内タイプかな? とも考えていたが、茶屋はBBQ広場と同じように室内ではなく屋外タイプだった。
今は夜ということもあって空には星が煌めき、周囲は暗く……なんてことはなく、入口からまっすぐに伸びた広い道の左右には、様々な建物や屋台、それに目当ての茶屋などが並んでおり、建物から漏れた明かりや行灯に照らされ、それこそ繁華街のように明るくなっている。
……行灯ってあんなに明るかったっけ? という気がしなくもないが、暗すぎると動き回るのも大変なのでダンジョン側の配慮といったところか。
奥行きは……300mぐらい? 突き当りに建物が見えるのでおそらくそこで行き止まりだろう。もしかすると左右にまがる道があるかも知れないが、そちらには光源がないように見えるので、入れる建物などは無いと思う。
「……まじで時代劇にでてきそうな光景だな」
見える範囲にある建物はどれも古く、いわゆる古き良き日本家屋といったものばかりだ。
屋台も今の時代のではなく、それこそ浮世絵などに出てくるようなものが並んでいる。茶屋も建物の前に縁台と傘が置いてあって、いかにもって感じだ。
かなり心躍る光景ではあるのだが……残念なことにこの場にいるのは俺とクロだけなので、やべえところに迷い込んだような、これ以上進んじゃいけないようなそんな気分にさせられる。
……あとで隊員さんにも声かけておくかな? 人がいればだいぶ違うと思う。
「お待たせしました。お茶しばきセットとアマツぼーろです」
「ひでえ名前だ(ありがとう)」
まあ、実際店に入っちゃえばマーシー(江戸風)みたいのがこんにちわするので、慣れれば人がおらんくても大丈夫だろうけど。
茶屋は名前の通り、お茶とお茶請けメインのお店だった。
目当てのお団子や和菓子などもあり、持ち帰りにも対応しているとのことでいくつか味見をして、明日の朝に改めて買いにくることにしたよ。
ああ、そうそう。グレード上げた為なのかは分からないけれど、普通の和菓子系以外にも色々メニューあるんだよね。ところてんとか、あんみつとかカキ氷なんかもある……茶屋というか甘味処みたいなメニューだ。
それにしょっぱい系だとおにぎりとか煎餅とか……お茶漬けなんかもあった。
夜食とし魅力的だけど、お土産にするにはちょっと適さないので、どうしようかなと悩んでセットに煎餅もついてたのでそれにしてみたよ。
アマツぼーろはクロ用ね。
「磯辺巻きうめえ」
焼きたてだから余計に美味しい。
餅自体の味も良いのと海苔と醤油の香りがすごく良い。
何本でも食えそうだけど、さすがに寝る前なのでお代わりは自重しておこう……。
ちなみにお団子は餡子、みたらし、磯辺巻きの3種だったよ。
どれも抜群に美味しかったけれど、特に気に入ったのは磯辺巻きかな。
他にも種類あるそうなので、残りもいつか食べてみたい。
「煎餅もお茶もまじでうまいなこれ……ちょいちょい利用しよ」
あっという間に団子を食べ終え、小ぶりな煎餅ぼりぼり……そしてお茶を一口。
全部うまいわここ。
お茶は甘味と渋みのバランスがちょうどよくて、すごく香りが良い。
普段飲んでるお茶を全部これに変えたいぐらいだ……お茶も持ち帰りできないかな?
あとでマーシー(江戸風)に聞いてみるか。
ま、それはさておき。
とりあえず味はとても良いし、お土産にするには問題ないだろう。
あとはクロの反応がどうか。
「クロもおいしい? ……え、くれるの? ありがと」
おいしいかと聞いたら最後の一粒分けてくれた。
俺が団子とか食っている間にほぼ食い終わっていたあたり、クロとしても結構おいしかったんだと思う。
美味しくないと喰わないわけじゃないけれど、すっごい食べるペースは落ちるからね。
「お……いけるねこれ」
クロからもらったアマツぼーろ……見た目はよくお菓子コーナーでみかける何とかボーロそっくりのそれをぽいっと口に放り込む。
まずサクっとした歯ごたえがあり、中はホロホロとくずれていく。
味は猫用ということもあってか甘味は控えめだ。ただバターや小麦の香りや味がよく……うん、シンプルに美味しい。……猫にバターはあまりよろしく無かったはずなので、バター風味の何かなんだろうけど。
おいしければ良いのだ。
人用のもあればお土産候補にしても良いね。
「餅……いる? あ、いらない? だよねえ」
最後にクロにお餅食べるか聞いてみたけれど、毛につきそうだからいらないだそうだ。
これでとりあえず目的は達成したけれど……どうしようかな。屋台とか他の建物も気になるんだよなあ……特に屋台がさ、焼き鳥とかよくあるやつだけじゃなくて、寿司とか天ぷらとかもあるんだよ。
昔はその手の屋台もあったって聞いたことあるから、おかしくは無いんだろうけど……気になる。
でも寝る前に寿司とか天ぷらはさすがにないよな。
……悩ましい。
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