第328話

オークションの開始時刻となり、会場内に入った俺たちは……席に向かおうとしたところを呼び止められ、ちょっとした個室へと案内されていた。


以前のVIP席ほどではないが、上から会場を見渡せるなかなか良い席だと思う。

案内してくれた人に聞いたところ、どうも事前に動物連れの参加者がきた場合は個室を用意することになっていたらしい。


……この会場に入れるのはダンジョンに潜っている者に限定されるので、ようは俺たちように用意してくれていたのだろう。

少なくとも国内で動物連れでダンジョンに潜っているのは俺たち以外には居ないはずだ。ていうか筆記試験突破できる動物なんぞ普通はおらんから、俺たち以外に増える訳もない。


実質国内ではダンジョンには動物連れていけない事になってるんだよな、これ。

そのうち緩和されたりするのだろうか。



「おっしゃ!」


てなことを取り留めもなく考えていると、不意に中村が両手を挙げガッツポーズをとり立ち上がる。


実はとうにオークションは開始してたりする。

俺の出品はまだ先なのと、前半部分では特に欲しいものは無かったので色々考え事をしていたが……その横で中村は真剣な顔で端末をいじっていた。

おそらく出品したカードに好条件で入札があったのだろう。



「お? なんか良いのきたん?」


「よかったねー」


「ありがとう! 古空穂ってやつのカードだって」


「へー……魚?」


あまり聞いたことのない名前だ。

名前の響き的に日本のダンジョンに出る敵だと思うけど……海の階層とかあったりするんだろうか?

シーサーペントとか、ワームの出てくる地形を思えばあってもおかしくは無いけれど、聞いたことはない。


「いや、なんか違うっぽい……矢を入れておく道具が妖怪になったやつだってよ。効果は矢の速度が2割増し」


魚と全然違った。

妖怪か……生首ダンジョンは置いといて、他にも日本の妖怪とかモチーフにした敵が出るダンジョンあるんだね。

庭のダンジョンはどちらかというとファンタジーな敵だったからちょっと興味ある。


他国もそんな感じなんだろうか? 今のところアメリカのダンジョンぐらいしか知らないけれど……イギリスとかファンシーなことになってそうだな。


「他にも色々きてたけど、俺が有効活用できそうなのそんぐらいでさ」


「へえ……まあ確かに弓とか短剣用って意外と少ないよな」


ゴブリンとかぐらい?

弓とか今回が初見な気がするよ。

てか、よくよく効果考えるとかなり有用なカードじゃないかこれ。

中村の使う矢は普通のとは違うけれど、かなり威力上がりそうな予感がする。


速度だけ変わって、ダメージ変わらずだったらドンマイ! としか言えんけど。



「他に来たのだと……重量軽減とか効果詳しくみると結構よさげだけど、短剣じゃ意味ねえし……これ、パワードアーマーとか使ってる連中向けっしょ」


「そうだねえ……そうだねえ?」


中村の説明をふんふんと頷いて聞いていたけれど、ちょっと待てよ? と思い首をかしげる。


……よくよく効果を見てみると、まずカードの対象は武器。でもって武器を振るう際に武器の重量の1割を慣性とか諸々含めて無視できるらしい。

ただ攻撃対象にはその効果はなく……ようは100kgの物体でぶん殴ると、使い手は90kgの物体を振る感覚で使える。でも攻撃対象は100kgでぶん殴られたダメージが入る感じ?


この効果を極限まで高めると、俺やクロが使う土蜘蛛みたいになるんじゃなかろうか。

枚数制限によってはかなり強力だけど……あ、一枚までですか、そうですか。


ちょっと微妙だね。

上位版のカードが出て、それと組み合わせ使うなら良さそうだけど、これなら古空穂のほうが良さそうだ。


「どうした? このカード欲しかった?」


「うんや、ちょっと効果が気になっただけよ」


「ふーん」


俺の返事にしばらく端末を眺めていた中村であったが、一枚だけじゃなあ……とボソッと呟いて、再び会場のほうへと視線を向ける。俺と同じ結論に至ったようである。



さて、そろそろ俺たちの目当ての品の順番が近づいてきた。

クロは香箱座りしたまま動かない……てか寝てる。これがあるとないとで、攻略の難易度がぐっと変わってくるし気合いれて落とさないとだ。




「うっし、こっちも無事落とせた」


あっさりいけた。


ライバル一杯いたらキツイなあって思っていたけれど、どうも俺が出品した飛竜が今回もシークレット扱いになっているようで、それに備えて控えた人がそれなりに居たようだ。

やったね! 今後もオークション参加する時はこの方法で行くとよさげな気がする。


「よかったじゃん。あとは北上さんだけか?」


「ん、こっちもそろそろ決まりそう。宝石はどうにか確保は出来るけど、なかなか競り合ってて決まらないー……」


お、遥さんは宝石ゲット確定か。

これで全員が目当てのものを入手出来ることになるな。


落とせなかったらどうしようかと心配していたが、そんなことにならずに済んで良かったよ。

あとは残りのてきとーに出品したやつがどうなるかだけど……カードとかなるべく良い条件で入札あるといいな! 宝石とかね!




「ポーションにえらい時間が……さすがに多すぎた?」


「物自体もだけど欲しがる人も多いし、今頃入札でパンクしてんじゃねーの」


俺のばか!


せめて100個程度に抑えておくべきだったか……?


でもなあ、ポーションに関してはある程度数ぶっこんでおかないと欲しがる人は減らないだろうし、価格が下がることもないだろうし……もう貯金額の桁がやべえことになってるから、俺としてはそこまで高くなくても良いんだよねえ。

買えなかった人から変に恨みを買いたくないし……うーん。




「……お腹すいてきた」


うんうん唸ってたら、お腹が鳴った。

飲み物は適当に頂いていたけれど、固形物は口にしてなかったからなあ。


「ん、もうお昼過ぎだねー」


「クロも太郎も腹減ったってよ」


俺と同じく皆もお腹が空いたようだ……ていうかクロさんや。俺の体に登ってお腹が空いたアピールするのは良いんだけど、前足で鼻をぺちぺちするのはちょっとこの場ではやめてほしいぞっ。

ほら、遥さん笑ってるじゃん!


あと、太郎はよだれを床に垂らさないっ。

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