第326話

中村たちとカード集めを始めてしばらく経ち、どうにか数枚のカードを手に入れオークションの当日を迎えた俺はクロと共に会場へと車で向かう。


あいにく天気は荒れ模様で、前日から降り続いた雪が吹雪となり視界はあまりよろしくない。

いっそ歩くという手もあったが、除雪車が通った車道はともかく歩道は雪が積もったままで歩くのは大変……でもないが、靴やらズボンは無事では済まない。

ビル壁を走ることも可能だが、さすがに緊急時以外はやめておいた方が良いだろう……そして会場で着替えるのも面倒。


そんなわけで慎重に車を走らせ、どうにか会場に着いたのは開始10分前というざまである。


ただ雪の影響が出たのは俺だけではなかったようで会場には遥さんや中村たちの姿はなく、それはその他の参加者も同様だったらしく、開始時間は1時間ほど遅れることになった。

ありがたいことである。




雪を避けるため会場内で待つこと数分。

遥さんから到着したとメッセージが届いた。


出迎えようと外へ向かうと、ちょうど入り口前にきた遥さんとばったり出会う。


「おまたせー」


「こっちもさっき来たばっかですよ。雪ひどいっすねえ」


「ほんとだよー」


そう言いながら手で服についた雪をほろう遥さん。

おそらく俺と同じように車で来たのだろうが、駐車場から入口に来るまでの間でかなり雪に降られたようだ。


このまま室内に入ると付いた雪が解けて服が濡れてしまうが、今日の外気温は低いのでその心配はない。

現に雪さえ落とせば現れるのは乾いたままの服である。もちろん髪も同様だ。



もっとも髪が短い人や、薄着の人だと雪が解けることもあるだろうが……こんな真冬に薄着で出歩く人はそうそういない。

俺とか遥さんであれば別に薄着でもそんな寒いと感じる訳ではないが、周りの視線というものがあるからね。

俺はもちろん遥さんもきっちり冬服を着込んでいる。

上はもこもこしたジャケットで、下は厚手のスカートにブーツ……スカート?



「スカート珍しいっすね」


「でしょー。たまには良いかなーって」


「似合ってますよ」


水着ほどではないが中々レアなものを拝見させて頂いたようだ.。

褒めようとするが、ちょっと照れくさくて簡潔になってしまった……もっとも照れて少し顔を背けた俺に対し、にまにましならが顔を覗き込もうとしてきたので、気持ちは伝わっていると思う。



「ん? あれ、今日はクロ隠さないんだー?」


顔を覗き込もうとして気が付いたんだろう。

俺の上着から顔をだすクロをみて、そう尋ねる遥さん。


「規約みたらダンジョンに潜っていれば大丈夫ぽかったんで……猫は想定してない気がしなくもない。絶対してないなこれ」


「想定してないと思うなー」


「でも入れたんでよし!」


「よーし!」


別に規約破ったわけじゃないし、入り口で咎められなかったからきっと問題はないのだ。

ないったらないのだ。




「カタログ日本語のもあってよかった……」


「だねー。英語読めなくはないけど、やっぱ日本語のがらくだもん」


オークション開始までまだ時間はあるので、暇つぶしにと会場でもらったカタログにざっと目を通す。

いちおう俺も喋るのはともかく、読むだけならある程度は英語を読める……が、それでも日本語で書いてあるほうがやっぱ助かるよね。ちょっと怪しい日本語だけど。


ま、とにかく開始まで時間つぶせるのはいいことだ。

結構分厚いし眺めているうちに中村もくることだろう。



……と思っていたんだけど。


「……中村くん何かあったのかな?」


「車埋まってるんじゃないすかね」


開始15分前になっても中村がこない。

スマホみてもメッセージは入ってないし、俺が送ったのも既読になっていない。

中村の家は大通りからちょっと外れているので、除雪車がまだ通っていないか、通って再び雪に埋もれてしまった可能性がある。


そうなると車が出せないので今頃必死に雪かきをしているか、それとも必死こいて走って会場に向かっているかそんなところじゃないかなと思うのだけど……。



「……犬の鳴き声? 太郎かな」


不意に遠くから犬の嬉しそうな鳴き声が聞こえてきた。

こんなドカ雪の日に会場近くで聞こえるとなると、おそらく中村と一緒にきた太郎だろう。


とりあえず出迎えるかと、カタログをしまいこみ俺と遥さんは入口へと向かった。

……クロはカタログの上で丸まっているのでそのままである。




「よっおまたせ!」


「うわー」


「他人の振りして良い?」


「なんでだよ!」


全身雪まみれになりながら手をあげ挨拶する中村であったが、それに対する俺と遥さんの対応は塩であった。


なんでかというとだね。

こやつ太郎にそり牽かせて会場まで来やがりましてね。


なんでだよ! って言いたいのはこっちだよっ。




「街中で犬ぞり乗ってる人とか初めてみたー」


「普通にこれんかったの」


俺と遥さんの言葉に、ばっさばっさと服を仰いで雪を落としていた中村が、すねたように口をとがらせる。


「しゃーないべ。家まで除雪車きてねえから車だせんし、かといって普通にリード付けても引きずり回させるのが落ちだしよ」



やっぱりか。

俺の予想通り雪で車を出せなかったみたいだ……先ほどから雪上ではしゃぎまくっている太郎を見るに、リード付けて普通に徒歩で来るのは無理ってのも頷ける。


雪上で四足歩行に勝つとかまず無理だかんね。

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