第321話

「なんというか、まじでごめん」


爆散し床に散らばったドローンを前に、項垂れよよと泣く中村に詫びを入れる。


……言っておくと、俺が壊したわけじゃないし、もちろんドローンの不良とかでもない。

やったのはクロだ。

ドローンが飛び上がると同時に近寄り、すぱーんっと猫パンチを加えたのである。

ていうか、絶対待ち構えてたよね? 飛ぶの。


「ほら、クロもあやまって! 中村泣いてるよ?」


そうクロにも謝るよう促すと、クロはそれはもう申し訳なさそうな表情を浮かべ、小さく「にゃあ」と鳴いた。



『そこにドローンがいたから』



違う。違うよクロ。

そんな犯行動機聞きたかったんじゃないよ。


「……うぅ」


ほら、余計に中村落ち込んじゃったじゃん。

こりゃしばらく出発出来そうにないぞ。ドローンも新しいの用意せんとだし……。


「…………まあ、この程度のことは想定の内さ!」


と思ったら急に復活しおった。

大丈夫? ちょっと精神不安定になってない?



「みろ、こいつを!」


「? ポーションがどうかした?」


急にがばっと起き上がった中村は、ごそごそと懐を漁るとさっと治療用のポーションを取り出した。


ポーション飲んでも心の傷は癒えないと思うけどなーと、首をかしげながらその光景を見ていると……中村は取り出したポーションの中身を躊躇することなく爆散したドローンへと掛けた。どぷどぷと。



「えぇ……? どうしよ、ついに頭おかしくなった?」


「聞こえてんぞぉ!?」


思わず声に出してしまっていたようだ。


だってしょうがないじゃん。

ポーションは傷とかを癒すのに使ったりするものであって、爆散したドローンに掛けるものではない……んんん??



「は? ……ポーションで復活した??」


「どーよ!」


中村がドローンにポーションを掛けると……バラバラになった部品がググっと震えたかと思うと、磁石がくっつくかのように集まりだし、やがて元の姿へと戻っていった。


その様子は機械的なもの同士がくっついたというよりは……そう、スライムか何かがくっついたように俺には見えた。

いま絶賛苦戦中のワームがそれに近いだろう。


……ポーションは傷を癒すもの。そしてスライムのような挙動を見せたドローン。

それらから考えられるのは……このドローンはスライムのような生き物をベースに造られたモノではないか?



「なんて惨いことを……」


「なんでそうなる!?」


そう思い至ってしまった俺は思わず中村とドローンから目を背けていた。






「何か生き物を加工して作ったドローンとかこわっ……て思ったけど、ゴーレムだったんね。それなら納得だわ」


「その発想がこえーよ」


その後、中村の説明やらメーカーのHPをみたりで俺の誤解は解けた。

そうだよね、さすがにそんな冒涜的なことはせんよね。


してたらさすがにドン引きですわ。




「そんじゃそろそろ狩っていくかー」


とりあえずドローンは復活し、クロも一度撃墜したことで気が済んだようなので狩りを開始することにした。

気が済んでるよね?


「それもう撮影しとんの? てかスマホもセットなんだ」


ダンジョンにスマホ持ち込むとかチャンレンジャーだなーって思っていたけど、どうやらドローンとセットになっているようで壊れても大丈夫らしい。スマホをはめる窪みがあるので、普段はそこに収めておくのだろう。


「セットじゃないと壊れたら困るべ。撮影は……ほれ、できてるよ」


「おう?」


中村がスマホの画面をこちらに向けてきたので見てみると、そこにはドローンが撮影した俺たちの映像と、チャット欄にいくつかコメントが流れているのが確認できた。



"おはよー"

"まさかのライブ"

"クロの目がこわい"

"今日は島津達と一緒か"

"太郎は相変わらず元気だなw"


などなど。

……なんか不穏なコメントが見えたぞ?



「……」


ちらっとクロに視線を向けると、何時もは細いその瞳孔が真ん丸に開いていた。

これどうみてもドローン狙ってんなあ!?



「クロ、もう壊しちゃダメだからね? 振りじゃないよ? ほんとダメよ??」


念には念をと何度もクロに注意するが、かえってきたのは「にゃ」と小さな鳴き声のみであった。

そんなことするわけないだろう? との事だが、つい先ほどドローンを壊したの誰だったかなあ??


……まあ、ポーションは手持ちが結構余っているし、最悪壊しちゃったら治すという手はあるけど。


「中村ごめん先に謝っとく」


「お、おう?」


急に頭を下げた俺をみて頭に?マークを浮かべる中村であったが、そう遠くない未来にその理由を知ることになるだろう。

まじごめん。




「羊が1000匹、羊が1002匹、羊が1003匹……カードでねえなあ」


「そりゃ1000やそこらじゃ出ねえべ」


狩り始めてからおよそ2時間。

やはりというかまだカードは出ていない。

さらにいうと種もまだその姿を見せてはいない……どちらもドロップしたら分かるようにと修正が入っているので見落としたということはないだろう。


カードはともかく種がまだ出ていないのは、ちょっと運が悪いのかも知れない。

そろそろ出てもいいころだとは思うんだけどね。


種でもよいからドロップするとモチベアップにつながるんだけど、なかなか難しいね。



「そういやひたすら喋りながら狩りまくってるけど、これちゃんと見てる人おるん?」


「お、そういや同接いくらになったかな」


少なくとも開始時点では10人ぐらいは居た気がする。

ただ狩り始めてから2時間、ひたすら喋りながら羊を屠るという……かなりきっつい映像を流し続けているわけで、果たして何人が生き残っているだろうか。

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