第320話

「そそ、手で持って撮影すんの面倒だべ? ダンジョンで配信やってる人はみんなこれ使ってんだぜ」


そんな俺の心配をよそに中村はそう得意そうに答えるとドローンの用意を進める。


近頃増えてきたダンジョンで配信し、投げ銭で収益を得ている人たち……どう考えてもダンジョンの素材やらポーションを売ったほうが儲かるし、たぶん自己満足だったりモチベの為だったりするんだろうけど……とにかくそういった人たちがみんな使っているというのであれば、攻撃の余波だったりそういったものでは早々壊れないぐらい丈夫なのかもね。


普通のカメラだと中村がいったように手で持って撮影しないといけない、そうなるとまともに戦闘はできないのでPTで一人撮影に専念しなきゃならなくなる。

そうなると戦力的に大幅にダウンするし……いやまて、結局操縦する人が必要になんじゃね?


「俺、操縦とかやったことないぞ?」


「いや、こいつ勝手に撮影してくれるから心配せんでいいよ」


「……勝手に? 後ろついてくんの?」


「ついてくるし、撮りたいところを自動で撮ってくれるぞ。バッテリーも丸1日なら余裕で持つしまじ便利」


「ほー……ってそれ凄すぎじゃね?」


自動で追尾ぐらいなら分かるけど、撮りたいところを自動で撮るってのがどうやるのかさっぱり分からない。

人の向きとか、敵の動きから予測して撮影……それだと撮りたいところと一致するとは限らないから恐らく違うだろうし、何か未知の技術がダンジョン側から流れてきたとか?



「ダンジョン素材使ってどうにかしたんだってよ。詳しくはさっぱりだけどな!」


「ほーん。まあ使えるならええか」


「おう」


とりあえず企業があれこれ頑張ってどうにかしたんだろう。

人によってはすごい食いつくんだろうけどね……あいにく俺と中村はあまり興味ないのであった。


ダンジョン素材使って個人でも宇宙船を! とかそんなんだったら食いついたかもだけど。



「そういや今日はどの階層いくん?」


撮影のほうはとりあえず気にしなくてOKと言う事で、あとは何を狩るかだ。

できればカードが有用で、強さも程々だといいなあ……あまり強いとさすがに余波でドローンが壊れそうだし、かといって弱すぎるとたぶんクロとか早々に飽きると思う。むずかしいね。


「羊行きたいんだけど良い? あいつのカード欲しくてさ」


「いいよー」


攻撃するとバチッくるあやつか。

ゴブリンよりは強いし、見た目も良いし、カードは必須といって良いレベルで有用だし、いいと思います!

一人当たり3枚必要ってのもいいね。そんだけ需要が高まるってことだし欲しい人はいっぱいいるだろう。


中村も結構潜っているから何枚か出てはいるだろうけど、PTで潜っていることもあってまだ全部そろってはいないのだろう。


「丸一日狩ってればたぶんでるっしょ」


「何匹狩るつもりんですかねえ……?」


それは秘密ダゾッ。



冗談はさておき、とりあえず5000匹は狩りたいねえ。

ソロだとゲロ吐きそうなぐらいきついけど、4人でいけば割といけると思う。


ただ正直にいうと中村が逃げ出しそうなので、フフッと笑ってごまかしておいた。

中村の顔がちょっと引き攣っていたけどきっと気のせいだろう。

逃がさんぞ。



「あ、どうせならライブにするつもりだけど大丈夫か?」


ダンジョンに入るとスマホを操作しながら中村がそんなことをいってきた。


「顔は見えないし別に良いよ」


身バレ怖い。


……いや、まあたぶんある程度ばれてはいるとは思うけどね。自宅の庭にあんなのできてるわけだし、自衛隊さんの車両がむっちゃ停まってたり、てか出入りしまくってますし? 近所の人の間では「あそこの家の人、庭のダンジョン潜ってるんですって」とか「島津さんのお子さん……お子さん? あんなゴツかったかしら……?」とか噂になっているかも知れない。


なんなら世界で一番ダンジョン攻略進めている人物。とかバレるところにはバレているだろう。


ただそれで何かこちらが不利益を被るようなことにはなっていない。

みんな恐れているんだよ。アマツの怒りに触れるのを。


ダンジョンに入れなくぐらいならまだましで、下手すりゃポーションの効果が出ないようにしたりとか……アマツならほかにも色々できちゃうだろうし。色々ね。


ま、それもあって好きにダンジョン潜っていられてるんだから感謝しかないけどね。俺は。



っと、変なこと考えちゃった。

ええと……なんだっけ、ライブの話だったね。


「でも気の利いた事とか言えんぞ?」


ウィットに富んだジョークとかむりむり。

俺にできることなんぞ迷える子羊の首をはねてあげるぐらいだ。

ほら、これでもう迷わなくてすむだろう? とか。



ただのヤベー奴だこれ。


「その辺は俺が適当に喋っとくから島津は気にせんでも良いよ」


中村がそういうならお言葉に甘えるとしよう。


「よっしゃ、じゃあ出発だ!!」


いろいろ話している間に、ライブの準備がととのったようだ。

中村がスマホを操作すると4つあるドローンのプロペラが音を立て機体が垂直に飛び上がり……真横にすっ飛んで壁にぶち当たって爆散した。



「ああああああ!?」


「動いて1秒でおしゃかだぜ」


攻撃の余波には耐えられたかもしれないが、直撃はだめだったらしい。

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