第318話



「みなさんお揃いで」


とりあえず挨拶しておこうと近づくが、誰も俺とクロに気がついた様子がないのでこちらから声を掛ける。

……まあ太郎は俺らに気が付いていたけど、尻尾の勢いが増しただけだったからなあ。


「む、島津か……」


「何かあったので? 何となく予想は付きますが」


どーもと軽く皆に会釈して、たぶん種を太郎が食ったんだろうなーと思いながら訊ねてみる。

みんなのため息が重なり、軽い苦笑を浮かべ……まず口を開いたのは田浦さんだった。


眉間に出来たクレバスがただでさえ怖い顔をより強調している。



「ついさっきダンジョンに機能が追加されたのは知っているよな?」


「ええ、知ってます」


「そうか」


それなら話は早いと、田浦さんがダンジョンで何が起きたのかをかいつまんで説明してくれた。


内容は大体予想通りであった。ダンジョンで狩りに精を出していた彼らのもとに昨日の今日で実装された種がコロンとドロップし、それを太郎が食べましたと……ただ予想と違ったところもあってね。



「まさか3つも食ったとは……すごいな太郎」


ほめてないぞ、だから嬉しそうに尻尾を振るんじゃありません。



「ああでも3つも出たってことは、ドロップ率はそんな悪くないのかな」


「それがな、畑に気が付いたあとしばらく潜っていたんだが……ドロップ0なんだ」


「あー」


太郎を若干フォローしつつ、隊員さん達を慰めようとしたが逆効果だったか。

みんなの顔がさらに渋いものになっていく。


……まあ、話を聞いた限り完全に太郎だけが悪い訳じゃないんよね。レアドロップ3つも平らげて渋い顔だけで済んでるのはその為だったりする。



一体何があったかというと、種をドロップしたときに真っ先に太郎が食いついたんだけど……隊員の誰かが敵を倒した褒美におやつでも上げたんだろう、皆が皆そう思ってしまったらしい。

そして2つ目も同様に見過ごされ……3つ目になって中村が誰もおやつを上げていないのに、太郎が何かを食べていることに気が付いたんだそうな。


あとはダンジョンからのお知らせに気付き、再度ダンジョンへと向かい……今に至るって話である。

うん、よく考えると割と太郎が悪い気がしなくもないな!?



なんというかドンマイ! としか言えない。

まじドンマイ。



まあ、これでアマツが何もしてくれなかったらあれだけど、対策してくれる以上はこの話もいずれただの笑い話になるだろう。


……そういやその辺の話は皆知ってるのかな? 渋い顔してるし知らんか。


とりあえず伝えておこう。

情報共有大事。


「まあ、アマツが対策するって言ってたんで、たぶん何とかなるとは思います」


ただし斜め上の方向でかも知れない。


「それは助かる……のか?」


「どうだろうな」


「皆なに言ってるんすか、アマツさんなら何とかしてくれるに決まってるっすよ!」


「お前のアマツさんに対するその信頼感はどこからくるんだよ……」


アマツが対策すると聞いて懐疑的な隊員さんたち、ただその中で大野さんだけはアマツへの謎な信頼感があるらしい。

なんでだろう? 何かアマツと信頼関係を生む事でもあったのだろうか……俺が知っている限りそんなことは無かったと思うけれど。

まじで謎だ。


「どんな対策するんすかねー? ……まさかう〇こを!?」


「それはさすがにマーシーが不憫ってアマツが真顔で言ってたんで無いと思います」


俺と同じ考えの人がおったよここに。


良かったねアマツも同じ思考回路していなくて。

危うく猫と犬のうんこ渡され佇むマーシーが生産されるところだった。



「ちなみに何匹ぐらいで出ました? こっちは30匹目ぐらいでしたけど」


「こっちは……200前後に一つと1000前後に二つだな。その後は追加で1000ぐらい気合で狩ったが出ていない」


とりあえずそっちの話題から離れるとしよう。

2200匹で種3つとなると割とドロップ率悪くないんじゃなかろうか。


もっとも俺とクロとか隊員さん達の感覚で言うとだけどね。

世間一般だとふざけんじゃねえと言いたくなるようなドロップ率の可能性もある。




「どんな種が……まさかそっちも食ったのか?」


「ええ、まあ……はい」


「そうか……まあ、そんなこともあるさ」


クロも種を食ったことを隊員さん達にばらすと、みんなの視線がクロへと向かうが……寝転がったまま微動だにせんな。サッと目を反らすようなことすら無い……さすがクロだぜ。



「他の隊員からもぼちぼちドロップ報告が上がってるな。500やら1500……10ってのも……何匹で出たかはどれもバラバラのようだ」


「ある程度数が出そろうまで正確には言えんが、カードよりは確率高いだろう。明らかに報告数が違う」


「なるほど。0.1%とかそんなんかなー……」


カードみたいな鬼畜ドロップ率ではなさそうってのは重要な情報だ。

仮に0.1%だとすればちょいと浅い階層でRTAするつもりで狩ればすぐ出るだろう。

カードを狙った時を思えば大分楽である。


あとは階層によってドロップ率が変わるとか、レベル差あり過ぎるとドロップ率が……とかあるかどうかだ。

適正な階層じゃないと出ないよ! とかアマツが設定していると結構大変かも知れない……ま、そのへんは落ち着いた時にでも試してみようかな。オークション用のカードを用意する必要もあるしね。

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