第310話

「おいしいねー」


「見た目あれなのに……」


報告だけのはずが食べることになりもうした。

美味しいから良いんだけどね……ホタテと牡蠣のいいとこどり見たいなやつで、ほんと味は良い。

焼いて醤油とか垂らして食べてるけど、お酒にすごく合いそう。


「んー。おいしっ」


なんでそんなこと分かるかというと、目の前で遥さんが焼いた貝を肴にお酒をパカパカ飲んでるからだ。

既に瓶やら缶が5~6本空になっている。


「遥さんお酒強いっすよね」


飲んでるのビールじゃないんだよ。

たぶん日本酒とか焼酎のアルコール度数高いやつ……普通はあんだけ飲んだら顔色変わるよね? まったく変化がないぞ。


「んふふ。まあそこそこねー。島津くんも飲む? って、まだ二十歳じゃなかったかー」


「ですねえ」


一応まだお酒飲める年齢じゃないし……むかしちょろっと舐めたビールが苦くてそれ以来一切飲んでない。

まったく興味がないわけじゃないんだけどね。無理して飲もうとは思わない。




「ちょっと飲みすぎなような……」


それはそうと、遥さんの飲むペースやばい気がするんですが……どうもアルコールに関してはアメちゃんがべろんべろんに酔っぱらってたことからして、レベル上がって丈夫になったであろう肝臓くんとかの守りを突破している気がする。

お酒飲んでも酔えなかったら楽しめないだろう? というダンジョン側の配慮だろうか。


だから遥さんもこのペースで飲んでいけば、すぐにべろんべろんになる……はずなんだけどなあ?



なんて心配をしていると……瓶の中身をぐいっと仰いだ遥さんが、こちらへと顔を向けた。

……あれ? なんか目が、あれ?



「島津くんさー、うちら付き合ってから結構たつよねー」


「え、あ、はい」


なんか遥さんの様子がおかしい……酔ってはなさそうに見えるけど、絡み酒というかなんというか……。

座ったまま、ずずいとそばに寄ってくる……な、なんで近寄ってくるんでしょうか? いやじゃないけど、いやじゃないけど!


てか、これ絶対酔ってる!


「だったらさーもっとこう、あるじゃないー? せっかく水着きた彼女と二人っきりなんだよー

? あんま見てくれてないみたいだしー。ほらあ」


「え、あ、その……」


そういって、水着の紐をつまんで、ぴんと弾いてみせる遥さん。すごい揺れた。



てか実はバレないようにみていたのだけど、本当にバレていなかったらしい。


あまりジロジロみるのは失礼だろうとか、恥ずかしいとか幻滅されたくないとか……色々あって、悩んだ結果その方法をとったのだけれど、それが遥さん的には不満だったようだ。


せっかく用意した水着なんだからもっと見てよと……まあ、見たいのは事実だし、何しろ着ている本人が水着を見せつけにきているんだ。幻滅されることもあるまい。


そう思い、改めて水着に視線を向けた俺であったが……なんか背中にじわっと汗が浮かんできて……思わず距離をとってしまった。眼福なはずなのに。



「まだ腕組んだことしかないし」


「は、遥さんお酒はそのへんで……」


俺が距離をとったのを見た遥さんは、ユラリと立ち上がりこちらへと歩を進める。

砂を踏み締める音が心なしか大きく聴こえ、地面すら揺れるように感じるのは、遥さんから感じる圧のせいだろうか。


遥さんが歩を進める分だけ、ずりずりと後ずさり……背中にポスッと軽い感触があたる。

バッと後ろを振り返ると、そこにあったのはテントだ。いつの間にか寝床も用意してある。


やべえ。



「もう下がれないねー」


ザスッと音を立てて、遥さんが砂浜に膝を立てる。

後ろを振り返った隙に距離を詰められていた……もう手を伸ばせば届きそうな距離に遥さんの体がある。


「据え膳食わぬは男の恥っていうじゃーん。……ね?」


「そ、そんな昭和な……」


俺をじっと見つめたままチロリと唇を舐める遥さん。

俺は両手を胸の前にだしてどうにか宥めようとするが……逆効果だったらしい。



「やかましーっ、いい加減観念しろーい!!」


「ぎゃああぁぁっ!?」


叫ぶように声を上げ、直後にガバッと覆いかぶさるように、倒れこんできた遥さん。

俺は慌てて肩のあたりを必死に押さえた。


このままでは俺の貞操がピンチだ……いやっ、そもそも貞操まもる必要あるかって話だけど! でも、酔った勢いでってのはなんか嫌だ。後で絶対後悔しそう。

せめて素面でお願いします!!



「むううううっ!」


「ち、力強っ!??」


俺が防いだことが気に障ったのか、頬を膨らませた遥さんが俺の腕をはがしに掛かる。

予想以上に力が強い。掴まれた腕の骨がギシギシと悲鳴を上げている……これ、酔ってリミッター外れてねえかなあっ!?


てかねっ、上半身はどうにか押さえているんだけどさっ、下半身はそうもいかない……俺に馬乗りになった状態で暴れられるのはとてもまずい。なにがとは言わないがとてもまずい。

なにがとは言わんけどな!



このまま流れでくわれてしまうのか……そう思った瞬間、助けは現れた。



「へ?」


「むうううっ!!」


森の中からぬっと顔をだしたそいつ……いや、そいつらと目があった。



大きさは様々だ。小さいのは人の背丈ほど、大きいのはそれこそ像よりでかいだろう……共通するのは全身に鱗を持ち、鋭い牙をもっていること。


……助け?



「どういうことなの」


急な展開に理解が追いつかない。


ええと……ようは、天の助けが現れたと思ったら恐竜でしたと言うことだ。


うん。自分でも何を言っているのか分からない。


でも、現れてしまったものは仕方がない。

あと助けなのかどうかは微妙だ。


何しろこいつらは今から俺たちを襲う気満々なのは明白だから。

俺の貞操は守れるかも知れないが、命の危険があるぞっ。



てか、遥さんそろそろ腕はなしてっ!?



「遥さん! 後ろ、後ろおおお!?」


「じゃまっ」


後ろに恐竜の群れが迫っているにも関わらず、俺の腕をがっちりつかんでいた遥さんであったが、さすがに俺が焦ったのをみて対処しないと不味いと理解したのだろう。

椅子代わりにしていた丸太をガシッと掴むと恐竜に向かい思いっきり投げつけた。



「割と弱い? でも数が多いなっ」


「むーーーーっ!」


丸太はでっかいティラノサウルスみたいなやつの口に飛び込み、後ろから突き抜けた。

ただの丸太でそれってことは、耐久力はあまりなさそうだ。おそらく素手でも難なく対処できるはず。


問題は数だけど、まあ俺たちがやられることは恐らくない……しかしアマツの野郎は何を考えて観光地? デートスポット? にこんなの配置したんだ。

理解できなさ過ぎて一度あやつの頭の中を覗いてみたい。鉈でぱかっとやればきっと覗けることだろう。ハハッ。


……とりあえず今はこいつらをどうにかするとしよう。

遥さんの語彙力が無くなってるのが気になるが……倒した瞬間また襲ってこないよね? さすがにないよね??






日和った作者をお許しください(っ´ω`c)IFルートは封印するしかない……。

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