第311話
結局あれから一晩中がんばった。
朝日が眩しい。森からは鳥の囀りが、赤く染まった海からは波の音が聞こえ、朝日に照らされた砂浜は赤を通り越してドス黒く染まっている。
こんな朝チュン味わいとうなかった。
「打ち止めかな」
「……ん」
俺の独り言に膝を抱えた遥さんが遅れて反応する。
……戦い始めはそれこそどこの戦闘民族だ? と言いたくなるような戦いっぷりを見せていた遥さんであるが、途中で酔いが醒めてきたのか次第に表情が消え、眼の光も消えていった。
そして戦闘が終わると膝を抱えたまま動かなくなってしまったのだ。
明らかに凹んでいる……そんな訳で、成人指定になるような展開にはならなかったよ。
お互い返り血でドロドロだし、辺りは血みどろだしで、こんな状態でおっぱじめる気には普通はならないだろう……酔ったままだと危なかったかもだが。
「とりあえず、血を落としたいっすね……向こうの海はまだ綺麗なんでいきましょか」
「ん」
足元が死体で埋まると身動きが取れなくなる。なので移動しながら戦っていたのだけど、全ての海岸線が血みどろになっている訳ではない。
遥さんの手を引いて歩くこと数分。まだ綺麗な海へとたどり着いた俺たちは全身についた血……あと肉片とかいろいろを洗い落とすことにする。
「こんなもんかな……」
「……」
何度か場所を移動して、ようやく汚れが落ちた。
遥さんも……髪についた汚れを落とすのに苦労していたようだけど、それも綺麗に落とせたようだ。
今は無言で拾った貝殻を眺めている。
これは再起するまで時間掛かりそうだ。
こうなったのは俺にも責任の一端はあるだろう。結果的に遥さんを拒否してしまった訳だし。
どうにか元気になるよう声を掛けたいが……気にしてないですよとか? ダメだな、逆に凹ませそうだ。
決して嫌だった訳じゃないんだ、むしろ時と場所さえ……ようはそれを伝えれば良いってことか。
変にうだうだ考えるよりストレートに伝えてしまおう。うん、それが良い。
「あー……遥さん」
「ん」
「次は素面のときでお願いします」
「ん……うん??」
最初は俺の言葉を聞いても上の空だった遥さんであるが、脳が言葉の意味を理解するとガバっと顔をあげる。
「え、つまりそれって、そういう……こと?」
そうです。と頷いて見せると遥さんの表情が驚きから……笑みにかわる。
ニコニコというかにまにま……ニヤニヤ? とにかくとても嬉しそうでなによりです。
「飛行艇は犠牲になったのだ」
「ほんとになってるねー」
今は素面だからと襲われることもなく、ご機嫌になった遥さんと腕を組みながらキャンプ地へと戻ってきた俺たちであるが、そこで目にしたのは恐竜の生首がぶっ刺さった飛行艇の姿であった。
なんでピンポイントでエンジンに3つも刺さってるんですかねえ……? さすがに残りのエンジン1発だけじゃ離水できんぞ。
このままじゃ救助がくるまで無人島で過ごすことに……はならない。
俺、飛べるもん。
「荷物はこれで全部かな」
「んっ」
テントを片付けて、荷物を手にして龍化する。
あとは遥さんを抱えて飛べば……と、遥さんへと視線を向けると何故か両手を広げて待ち構えていた。
ハグでもしろと申すか。
「わっと」
ススッと近寄ると……ガバッと遥さんが飛び掛かってくる。
まじでハグされるとは……なんて考えている間に、腕は俺の首元へ、足は俺の腰へと回され……ガシッとがっちり固定される。
ええと……つまりこのまま運べと。
色々とまずい気がするんですがこれは。
「……それじゃ落ちないでくださいね」
「んっ」
体勢的に色々と問題がある気はするが、遥さんは抱き着いたまま離れる気はないようだ。
無理やり引きはがす訳にもいかず、数秒悩んでそのまま飛び立つことにした。
最初はこう、お姫様抱っこ見たいので運ぼうかと思っていたんだけどね。
……BBQ広場で誰かに見られるとまずいし、ちょい手前で降りるとしよう。遥さんに服を着せないといかんし。今の遥さんの恰好をほかの野郎に見せる気はさらさらない。出くわしたら目つぶししなきゃ。
着替えてから出発すれば? ……まあ、そこはあれですよあれ。
俺も健全な男子だったってことでどうかここはひとつ。
「無事到着っと」
特に何事もなく無事帰ってこれた。
空中でサメに襲われるとか、着地したところで誰かにでくわすなんてこともなかった。
「それじゃーまったねー」
「はい、おつかれさまでっす。また……次は別のとこ行ってみましょうか」
「そだねえ」
お互いに苦笑するのも仕方のないことだろう。何せたった一泊なのにいろんなことがあったからね。
無人島は今回いったところの他にもいくつかあるらしい。
次に行くとすれば夜中に恐竜がでないところ……というか邪魔が入らないところだな。
それを確かめるためにも、今回いろいろあったことも含めて一度アマツに話を聞いておきたい。
アマツのことだから悪気があってやったとは思わないけれど、理由によっては生首を巣に放り込む所存なり。
「アマツさんいます?」
荷物をとりあえず個室に放り込み、セーフルームに向かうとアマツに向かい声をかける。
もちろん姿が見えている訳ではないけれど、ここで声を掛ければ多分何かしら反応があるだろう。
「いふおー」
返事はすぐ返ってきた。
それと同時に景色が変わり……俺の前には寝っ転がって本を読むアマツの姿が現れる。
「……ずいぶん優雅に過ごしてますね?」
「……いやあ、読みだしたら止まらなくてね!!」
なんか変な返事だなと思ったら、煎餅食べながら本読んでるし。
人が色々と大変な目にあったというのにこやつは……まあ、とりあえずは話を聞くとしよう。
どうするかは話を聞いて考えるっ。
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