第306話

出発してから30分ほど。

俺たちは無事無人島へと辿り着いていた。


懸念していた空飛ぶでかい生物には襲われることも、見かけることすらなかった。


「フラグ立ったかと思ったけど、何も出なかったすね」


バッキバキにへし折ってくれたわ。



「それこそフラグじゃないー? 下からくるかもよー」


「いやいや、まさかそんな……まさか、ねえ?」


遥さんに言われてちょっぴり不安になった俺は、そろりと水面へと目を向けた。


「とりあえず変なのはいないっぽい、かな」


「お魚ぐらいかなー、居るの」


みた限り無人島の周囲にはあまり大きな生物はいないようだ。遥さんの言う通り、いてもせいぜい普通の魚だろう……ちょっとでかいのも居るけれど、それはマグロ程度の大きさであくまで魚の範疇だ。


なんで上から見ただけで分かるかというと、水がおっそろしいぐらい透明度が高いんだよ。


日本にもかなり透明度の高い湖あるけれど、あれよりずっと凄いと思う。

おかげで結構な範囲を空中からみて確認できたのだ。


なので砂に潜んでいるとかでない限りは問題はないだろう……ないよね。




「何もなかった」


「なかったねー」


何事もなく、あっさり着水できたね!

ちょっと水の透明度高すぎて、目測誤りそうになったけどなんとかなった。

7隻犠牲にしたのは無駄じゃないぞっ。



「海とかすっごい綺麗だし、観光地みたいな扱いなのかもねー?」


「そっすねえ」


二人で荷物を降ろしながら、改めて海を眺めてみる。

上空からみたときも凄く透明度の高い水だなーとは思ったけれど、近くでみるともっとすごい。

入り江の比較的波が穏やかな……というより、波がほぼないところに停めたせいもあって、水面と地面の境界が曖昧になっている。


飛行艇とかこれ遠くからみたら水面じゃなくて、空中に浮いているように見えるんじゃないだろうか。



「荷物いったんここでいいかなー」


「そっすね」


飛行艇から降ろした荷物はいったん地面においておく。

予めコテージとかテントが用意されている訳じゃないからさ。


「んじゃまずはテントかな」


俺と遥さんしか居ないし、地面に荷物置いたままでもいいっちゃいいんだけど、やっぱ気分的にテントの中にいれておきたい。

それにこの後遊ぶことを考えると水着に着替える必要があるわけで……やっぱテントは先に建てておくべきだろう。

岸から100mも歩けば木とか生い茂っているから、そこで着替えることもできるけどちょっとねえ?


いや、しかし、水着か……何がとは言わんけど楽しみだね!何がとは言わんけどっ!

さ、テントたーてよっと。



「はい、おわりーっと」


「手際いいっすねえ」


組み立てはあっさりと終わった。

遥さんがだいぶ手馴れていたのと、ダンジョン内ってこともあって肉体的な負担はほぼ無いからね。



「めっちゃ広い」


「もっと大人数で使うやつだからねー」


ちなみに遥さんが持ってきたテントは予想通り……いや、予想以上にでかかった。

中に荷物を全部ぶちこんで、何なら椅子やらテーブルやらを広げてさらには寝袋を展開してもまだまだ余裕がある広さだ。


現に遥さんが荷物を取り出して色々展開しているが、きっちり寝るスペースは確保されている。



……あれこれ、配置的に遥さんと隣り合って寝ることになるな? ん、んんんっ? いいのか、いいのかな? いいんだよな??



と、俺がテント内の配置をみてあれこれ考えていると、遥さんが再びごそごそと荷物をあさりだす。

色々詰め込んでいたほうじゃなくて、肩にひょいっと掛けてあったやつだ。

今度は何を出すんだろうね。遊び道具とかかなー?



「さってとー」


目当ての物を見つけたのだろう。そういって立ち上がった遥さんの手には、何やら小さな布切れがあった。


ぱっと見はマスクか何かに見えなくもないそれを何に使うのだろうか? と思い見つめていると、遥さんは少し困ったように首を傾げる。



「……着替えよっか?」


「そ、そそそっすね!?」


水着だこれえ!?

ちょっと脳内にある水着のイメージと違いすぎて、ちょっと分からんかったぞ!

基本、小学校の授業で泳いだぐらいしか経験ないから、そっちで固定されていたよ……海? いっても釣りして焼肉するぐらいよ。


てか、これが水着って……これが普通なのだろうか? 確かにたまにテレビでみかける水着はこんなんだったような……うーん、わからんっ!



「んー……?」


と、遥さんに着替えようか? と声を掛けられたにも関わらず、変わらず布から視線を外さない俺みて、遥かさんは今度はにまっと笑みを浮かべ、ススっと距離を縮めてくる。


「なに、着替え……みたい?」


「し、しつれいしましたー!!」


みたい! なんて答えられる訳もなく、俺は水着の入った荷物を手に取ると逃げるようにテントの外へと向かうのであった。



「あー……」


まだ心臓ばくばくいってる……ずっと見てた俺が悪いんだけど、あんなのいきなりされたら心臓に悪いよ、ほんと。


「……とりあえず着替えよ」


たぶん遥さんが着替え終わるまで多少時間掛かるだろうし、気持ちの切り替えもしたいしね。

幸いここに居るのは俺と遥さんの二人だけで、遥さんはテントの中だ、今なら外ですっぽんぽんになろうが誰にみられることもない。



「うっし」


水着への着替えはあっというまだ。

適当に着ているものをぽぽんっと脱いで、海パンをさっと履けばそれで終了である。

あとは脱いだ服を畳んで時間を潰すとしよう。




「……」


ところでみんなウサギカードのことを覚えているだろうか。

体にセットするレベル1のカードで足の筋力と聴覚に補正が入る結構良いカードなんだけどさ。


なんでそんなことを聞くかって? それはね、体にセットするカードなもんで、水着になった状態でもばっちり効果発揮しているわけでさ。つまりは……。


「ヤバい」


さっきから遥さんの居る方向から「シュルッ」とか「ぱさっ」とか音が聞こえるんだよ!

波が静かだし、風もほとんどないしで、さっきから着替えの音が聞こえまくってもうヤバすぎる。


遠くに行けばさすがに聞こえなくなるだろうけど、着替え終わった遥さんにどうかしたの? と問われると答えに困る……適当に誤魔化せばいいんだろうけど、今の精神状態だとうまく誤魔化せられない気がする。


……何か適当なことでも考えて、出来るだけテントのほうに意識が向かないようにするしかないか。


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