第305話
そして翌朝。
遥さんとのキャンプが楽しみでろくに寝られなかった俺は……なんてことはなく、布団にはいって色々と妄想している内に寝付いていたらしく、割とすっきりした感じで目覚めることができた。
遥さんとキャンプに行くのは朝食を食べて落ち着いてから……ということで、午前10時にBBQ広場に集合ということになった。
そこまで大量にという訳ではないが、それなりに荷物は持ち込むつもりだったので、朝食を食べ終えた俺は忘れ物はしないようにと荷物の再点検をする。数が多い分だけ抜けがでるからね。
「まあ、最悪忘れても取り戻ればいいんだけどな」
なにせ目的地は俺の家の敷地内にあるわけだし。無人島についた後でもその気になればひとっとびで戻ってこられる。
これが車で遠くに行くとかになると忘れ物したから取りに戻るってのは難しいだろう。
近所にダンジョンあるってのは、ほんとありがたいことである。
「よっし、じゃあ広場いこっか?」
忘れ物は無さそうだし、忘れても問題にはならない。
と言う訳で、多少早いけど遅れるよりは良いだろうと考えた俺は、ソファーで毛繕いしているクロに声を掛けた。
が、クロの反応がなんかおかしい。
「ん?」
俺の声を聞いて、毛繕いをやめたクロはソファーを飛び降りて……となると思ってたんだけどね。なぜかこっちを見たまま固まっていた。
舌が出たままなのがとても可愛い。
写真にとっておきたいぐらいだけどそこはグッと我慢だ。
「クロ?」
何かあったのだろうかと思い、ひょいっとクロを抱きかかえるとクロは首だけ動かして俺の方をじっと見つめていた。
「オゴッ!?」
これは本当に何かあったのかと思い、声を掛けた瞬間……下から突き上げるような猫パンチが飛んできた。
歯を砕き、脳を揺らす良い猫パンチだ。
俺じゃなきゃ死んでたね!
まあ、それはさておき。
なんでいきなり顎に強烈な一撃をいれたのかと言うとだね……。
「え、一人で行けって?」
クロとしては俺と遥さんだけで無人島に行かせるつもりだったらしい。
それなのに俺がクロを一緒に連れていこうとしたもんで、思わず猫パンチしちゃったと……思わず? 結構間があった気がしなくも……ま、まあそれはさておき。
「……その間クロはどうするのさ」
そうは言われてもクロを置いていくのは躊躇われる。
いや、クロに留守番まかせても大丈夫だってのはもちろん分かってるよ。分かってはいるんだけど……と、俺がうんうんと唸っていると、背後から声が掛かる。
「それ、デートに保護者が同伴するようなもんじゃないかねえ?」
声を掛けてきたのは生首だ。てかこの家で俺に声を掛けるのはクロとこいつしかおらんのだけどな。
「……っく、言い返せねえ」
呆れた顔で俺をみる生首に思わずいらっとするが、言っていること自体は……まともだと思う。まともだよな? こいつのことになると生首フィルターが掛かってよく分らんくなる。
まあ……デートに保護者同伴ってのはさすがにどうかとは俺も思う。
クロが保護者という点については反論したいところではあるが……いちおうはデートなわけですし? そこに俺以外の誰かが一緒に行くというのはちょっとあれだろう。
遥さんのことだから、おそらくクロが一緒でも気にはしないかも知れないけど。
……いや、言い訳はやめよう。ようは俺は不安なだけだ。
初めてのデートが不安だからとクロについてきて欲しいと思っているわけだ。
さすがにそれは色々とダメすぎだろう。
……よし、決めた。クロには留守番して貰おう。そう決めたぞ!
決してさっきから鼻息荒く爪とぎしているクロにビビったわけではないのだ!
「じゃあ行ってくるよ」
半目でこちらを見ているクロにそう声をかけると、クロは小さく尻尾を揺らして応えた。
……はよ行けってところかな。
あまりぐだぐだしているとクロがまた爪とぎ始めるかも知れないし、決めた以上はさくっと広場に向かうとしよう。
そう考えた俺は網を片手に立ち上がった。
「……その網はどうするんだい?」
「え? お前を入れておくんだよ」
「さも当然のように言わないで貰えるかねえ!?」
だってお前、出歯亀でついてきそうじゃん。
別の意味で不安で放っておけないよ。
「遅くても明日の夕方には戻ると思う……じゃ、いってきます」
喚く生首を網にいれて吊るした俺はそうクロに告げ、今度こそ荷物を抱えて広場へと向かうのであった。
えっちらおっちらと大量の荷物を担いで広場につくと、俺に向かい手を振る人物の姿が目に入る。
……遥さんより先に着くつもりだったけど、色々あって出遅れしまったようだ。
というか、遥さんのことだからおそらく個室に事前に荷物持ち込んでおいて、そのまま泊まり込んでたんだろうな。庭にダンジョンがある俺よりも広場に向かうまでに掛かる時間は少ないはず……っと、そんなこと考えてる場合じゃない。
「遥さん、お待たせしました」
「やほー。私もついさっき来たところだよー」
遥さんのところまで駆け足で向かい、ぺこりと頭を下げる俺に、遥さんは笑いながらそう返してくれた。やさしい。
でも、その優しさに甘えすぎちゃいけない。次は絶対遅れないようにしよう。
「荷物はこれで全部ですか?」
自分の荷物と遥さんの荷物を飛行艇に積み込み、念押しで忘れ物がないかと声をかける。
「うん。思っていたより多くなっちゃったねー……ま、全部使うわけじゃないけど」
「あ、そうなんすか」
「うん。念のためもってきたのも多いよー」
言われてみると確かに荷物は多い気がする。
俺もそこそこの荷物の量だが、遥さんの荷物は俺の倍ぐらいあるだろう。
……一体なにを持っていくのだろうか。あの一番でっかいやつはおそらくテントだろうね。それに寝袋がいくつかと、あとは袋に入っていて何なのか分からないものがいっぱい。
リュックにも色々入ってそうだ。
まあ、現地についてからのお楽しみにしておこう。
「それじゃそろそろ行きましょうか?」
「おー」
返事をすると同時に乗り込めーとばかりに飛行艇に向かう遥さん。
俺も遥さんに続いて飛行艇へと乗り込み、操縦席へと向かう。
もちろん操縦するのは俺だ。
腕前の方は期待しておいて欲しい。伊達に7隻も犠牲にしてないぞっ。
え、前より一隻増えてないかって? 勘を取り戻すためには練習が必要なのだよ。
七隻目は犠牲になったのだ。
てか、あれだ。
今回はただ現地に向かうだけだし、無駄に曲芸飛行なんてやらないからまず墜ちることはない。
……やらない、よね?
「……」
「どうかしたー?」
「あ、いえ。……ここって水中にでっかい生き物いますけど、空にも居るのかなあって、ふと気になったもんで」
太田さんが食われたでっけえ蛙とかいたじゃん。
もし、もしだよ? あれ並みにでかいのが空にいたらって想像しちゃったのだ。
「さっすがに居ないんじゃないかなー。さすがに……」
「ですよねえ……」
太田さんが食われたことは遥さんも知っている。
だからだろう、否定の言葉を口にするもどこか不安そうだ。
……フラグか? フラグなのか?
デートで無人島にいったら、謎の飛行生物に撃墜されましたとか、日頃温厚な俺でも怒っちゃうよ??
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