第270話

道場から遥さん宅に向かい、再び居間に案内された俺だが、みんなに「家の者に連絡しますね」と一言断りをいれてメールをぽちぽちうっていると、すすすっと遥さんが近付いてきた。


「クロにメール?」


「ですです。ご飯食べてから帰るってメールを……もう返事きた」


はやいな。

俺よりうつの早くないですかね?


「なんてー?」


「『こっちも遅くなる。がんばれ』だそうで」


応援してくれるとかありがてえ。


「クロもおでかけしてるの?」


「メーカーさんのところに遊びにいったみたいっす」


「なんか改めて考えるとすごいよね、クロ」


ほんとそれな。

頭良くなっているとはいえ、メール使いこなしているし、お仕事までこなしているとか半端ない。



その後は妹さんやお義兄さんお義父さんも加わって、クロの話しとか、ダンジョンでどんな活動しているのかとか、じいちゃんばあちゃんの話しなんかもしたよ。人型モンスターにかなり食いついてきたから、もしかするとお義兄さんとお義父さんはダンジョンに興味あるのかも知れないね。


ほんと色々はなしたと思う。

気が付けば結構な時間が過ぎていて、居間に良い匂いが漂ってきていた。

お義母さん一人にご飯準備させてしまった……せめてお皿出したりするぐらいはお手伝いせねば。



「いっぱい食べていってねえ」


「いただきます!」


夕飯は白米、豆腐の味噌汁、ホッケ、卵焼き、お浸し、漬物、大根の煮物、キンピラ、あと細々と……といかにも和食! って感じの献立だ。品数多くて幸せです。

俺一人だと簡単におかずは一品とかで済ませちゃうから、ありがたい。


……ところで白米が日本昔ばなし盛りなのはどういうことなの。お義母さんのサービスなの。

って思ったら、お義兄さんもお義父さんも同じだったので、北上家では男子はこれがデフォなのかもしれない……これ、二合ぐらいありませんかね。


「おかわりどうぞ」


「ありがとうございますっ」


まあ、余裕で食えるんですが。

料理は全部おいしいし、山盛りごはんはさくっと消えた。


おかわりはさすがに食い過ぎかなーって思ったけど、お義兄さんもお義父さんもおかわりしてたし、俺だけしないのも……って思ってね。


味付けが遥さんの料理と同じなのは、やっぱこのお義母さんから料理を習ったからなんだろうな。

卵焼きおいしいです。もちろん他のもね。



とまあそんな感じで男衆はがんっがん飯を食っていたのだけどね。

それに対して妹さんとお義母さんはいまいち食が進んでないようにみえる。

ごはんもまだ残っているし。


「二人ともどうした? 箸が進んどらんが」


お義父さんがそう尋ねると、二人ともちょっと気まずそうに視線を横にそらす。


「いやー……」


「昼間のケーキがまだ残ってて」


……まあ、あれだけ食えばね。

一人当たり3個以上食べたとだけいっておこう。ちなみにケーキは結構な大きさだったよ!

俺は1個食べて満足した。


ちなみに遥さんも妹さんとお義母さんと同じ個数平らげているのだが……彼女の前には山盛りのごはんがある。ちなみに二敗目だ。


みんなの視線が遥さんに集まる。


「ん? あれぐらいすぐ消化しちゃうって」


となんでもないように話す遥さん。

卵焼きを口に放り込んで、ごはんをかっこむ。

いい食べっぷりですな。


「ねー、お姉ちゃん。ちょっと気になったんだけど」


「んー?」


そんな姉の食べっぷりをみて、少し呆れた表情を浮かべていた妹さんであったが、なにか気になることができたのか、遥さんに話しかける。


「ダンジョンで食事ってどうしてるの? 現地調達?」


妹さんの質問を受けた遥さんは、ちらりと俺に視線を向ける。

俺の視線と交差し、お互いに曖昧な笑みを浮かべた。


「まあ、ある意味現地調達ではあるけどねー」


「たしかに」


お肉の調達は現地でやってるので、そういった意味では現地調達ではある。

俺と遥さんの食べっぷりをみて、食料どうしているか気になったんだろうな。


「モンスターのお肉って食べられるから、持ち帰ってそれをご飯にしちゃうのが多いかなー」


「ですね。ダンジョンの外にでてご飯にするのも手間ですし、中で済ませるのが多いです」


マーシーが万能すぎてねえ。

お昼はほぼBBQ広場で済ませてる。ほかの隊員さんもそんな人が多い。BBQ広場はいつも盛況だ。


妹さんは俺たちの話を聞いて、ハッとした様子で口元を手でおさえる。


「え……丸焼き?」


「いや、なんでさ」


なんで丸焼きにしてると思った。

遥さんへのイメージなのか、そうなのか。


「解体から調理までやってくれる施設があるんですよ」


「っへー」


誤解は解いておこう。


「あとは個室もあって、そこで映画みながらピザとかタコパとか、あれも結構いけたよねー?」


と、俺の言葉に続くように遥さんも話すが……そこで俺に同意を求めるってのはですね、個室で一緒に飯食っていたとみんなに伝わってしまうと思うんですよ。


ほら、お義父さんの頬がぴくぴくって動いたじゃん!

初日なんだからちょっと抑えていこうよっ。



「そういえば……康平くんは今おいくつなのかな?」


んんっと軽く咳ばらいをしたお義父さんが、話題を変えるように話を振ってきたが……年齢聞いちゃうのか。いいのかな。答えるけど。


「19歳です」


「……こっちみんなし」


年来を答えた瞬間、みんなの視線が遥さんに集まった。

『え、お前まじか』みたいな視線だ。


……俺、いまだに遥さんの年齢知らんのよね。

一体いくつなんだろうなあ……20代だとは思うけど、聞くの勇気いるよな。


ま、まあその内でっ。



そんな感じで北上家での交流は上手く行ったのであった。

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