第248話

クロが小部屋に入ると、すぐにゴブリンが反応し群がってくる。

が、そこはやはりゴブリン……クロであれば瞬きするほんの一瞬の間に全滅させることは容易いだろう。


ただそれでは攻略動画としてはどうかと思う。

なのでクロがどう戦うつもりなのか俺としては結構気にはなっていたのだけど……んー?


「……クロ?」


ゴブリンはクロに殺到している。

だというのにクロは攻撃なり回避なり、なにかしら行動に移す様子が見られない。ただ黙って迫るゴブリンを見ている。


いったい何を考えているのか? と疑問に思った直後、ふいにゴブリンたちの動きがピタリと止まる。


そして内臓をまき散らしながらはじけ飛んだ。



「へっ!?」


「はXあああ!?」



ちょっとさすがに予想外すぎる光景なんですけど!?

もしかして開幕ブレス再びあるか? とか思ってはいたけれど、ちょっとこれ訳わかんない。



うーん。クロの攻撃でこんな効果のやつはなかったと思ったんだけどなあ。

正直、あの攻撃の正体がなんなのかさっぱりだ。


「急にはじけたんだけど!? なにあれこっわ!」


「いや、まじであれなに……クロ、解説お願い」


なのでクロに何をしたのか教えて貰うことにした。



「ふむふむ」


クロはクシクシと顔を洗いながらも話してくれた。

時折前足を舐めながら、小さく『うにゃうにゃ』と鳴いている。


ここだけ切り取ればただの猫動画だよなーとか、ふと思ってしまった。

あとで中村に言ってクロだけの動画でも……ま、その内だな。今は色々とやることあるだろうしね。



とかなんとか考えている間もクロの話は続いていた。


「っへー! なるほどねえ、あれ攻撃にも使えたんだー……」


クロの攻撃の正体は意外な……意外なものかな? 普段は攻撃に使ってないから、使えると思ってなかったんだよな。



なんて俺がフンフンと頷いて納得していると、中村がこっちにカメラを向けながら話し掛けてくる。

その顔はなんか呆れたような感じにも見える。なんだよー。


「いや、お前だけ納得してもしょうが……なんでそこで首傾げんだ、おいぃ! 猫の言葉をみんなが分かると思うなよっ!?」


「中村は大体わかるんじゃ?」


割と意思疎通出来ていた気がするのだけど。

隊員さんもだけど、長いこと猫耳尻尾つけて過ごすことで、猫の言葉への理解が深まるのだよね。

中村もそこそこの期間着けているし、大分理解が進んでるはずだ。


「そこまで分かんねーよ! ってか、俺が分かってもダメなんだって、視聴者さんが分かんないとさ」


「それもそうだ」


視聴者さんのこと忘れてたわ。

てかあれだな。お勧めの装備を紹介するときには猫耳尻尾は必須装備だって言っておかないとだね。


ただ中には猫以外が良いって人も居るだろうけど……うーん。耳と尻尾は必須装備だよ? ぐらいにしておくか。てか他の耳とか尻尾って装備の効果同じなのかね? 猫耳尻尾の効果は確認してあるって言っときゃいいかね。



おっと、クロの言葉を翻訳せんとだった。

えーっと。


「簡単に言うとね。クロの装備っていくつか素材を使って強化してるんだけど、その中に重力? 斥力? 発生させるやつがあって、クロは普段空を飛ぶのに使ってるんだけど、使おうと思えば攻撃にも使えるんだってさ」


あれを使って、体の内側から外に向けて斥力を発生。

あえなくゴブリンは爆散しましたとさ。めでたしめでたし。


いや、ゴブリンにとっては災難以外のなんでもないけど。


「あー……強すぎじゃね?」


「レベル高いのにはそんなに効果でないんだって。ゴブリンレベルであれば見ての通りだけど」


普段、攻撃に使ってないのはそれが理由だ。

使ってもせいぜいブレスをそらすとかそれぐらいかな?


「なるほどね……つまりまったく参考にならんなっ!?」


「まったくもってその通り」


ハハハ。


今のところこの攻撃出来るのって、世界中でみてもクロ以外はおそらく居ないはずだからねえ。

まあ運が良い人は強化素材入手してはいるだろうけど……そんなん極一部だし、攻略動画としてはダメな内容だ。



まあ、クロもその辺は分かっている。

なので話し込む俺と中村をみて『にゃーにゃー』と鳴き始めた。


「解説たのむわ」


おうよ。



ふむふむ。なるほどなるほど。


これはあれだね、クロからの視聴者へのアドバイスだ。

ちなみにゴブリンを爆散させたのはインパクトのある映像が欲しいかな? って思ったからだそうな。


そんなことまで考えてくれるとか、まじ天使。


「さすがクロ」


おっと、顔がついニマニマと……まあフェイスガードで分からんからいいけど。

んでアドバイスの内容だけどねー。


「相手と体格差がある場合は、それをいかして自分は攻撃しやすく、相手は防御しにくいところを狙えと。この場合は足だね」


「ふむ」


「これは猫の場合なんで、人の場合は……それこそ単に叩き潰せばよろし。といってる」


「……おう」


なんだよその反応。

まるでクロが脳筋だといいたそうだな。中村で試しちゃうぞ。


「人って単に振り下ろすだけの攻撃が強力だったりするから、背が低い相手には大分有効なんじゃないかなーって思うよ」


以上である。

振り下ろす攻撃ってつよいからね。

小っちゃい子の肩叩きとか以外と効くでしょ? それを大人が思いっきりやったら……まあ、強いよね。


しかもその手には武器が握られているわけだ。

ゴブリンさんの脳天にぐっさりいっちゃうぞ。


「つーわけでやってみて」


「俺ぇ!?」


おうよ。

ゴブリンの脳天に、ナイフぶっ刺してゴリっとやるだけの簡単なお仕事です。


「ひでぇ絵面だぜ」


「分かっててやらせたんだろーがっ」


ハハハ。


まあ、この映像をみれば誰もが上から振り下ろす攻撃は有効だと思ってくれることだろう。

てかゴブリンさん避けるどころかガードする素振りすら見せないのがね……ちょっとゴブリンさんの扱いが酷すぎて涙を誘います。動画の為に容赦せんけどな。


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