第247話

動画は事前に作っていたのであろうOPから始まり、俺たちの自己紹介、そしてダンジョン内での戦闘へとシーンが移っていく。


出来は正直かなり良いんじゃないかなと思う。

凝り過ぎてない感じがちょうど良いっていうのかな? 手抜きって訳じゃないしクドクないのが良い塩梅だ。中村の意外な才能をみた気がする。


んで、出来は良いんだけどね。


「……冷静になってみると、やっぱグロい」


「だよなあ」


悪くて脳漿とか飛び散ってるし、内臓こぼれてる。

良くて首がぽっきりいってブラブラ。お子様にみせてはいけない映像に仕上がっていた。


「あと絵面もなんかひどい気がする……? でかいとは言えネズミを蹴ったり踏みつけたりってなかなか……」


これただの虐待シーンじゃないですかね……。


「まあ、でもそこは……ダンジョン潜る以上は避けられない訳だし、攻略動画である以上はのせない訳にもいかんべ」


「うーん。一応動画サイトにウサギを倒しているのも上がってたし、まあ大丈夫かな……少し荒れてたけど、炎上まではいってなかった」


真面目に戦闘していれば、そんな炎上することはない、かな。

まあ上げてみなければ反応なんて分からないのだけどさ。


「とりあえず上げてみたら?」


「そうすっか」


というわけで早速動画を上げてみることにした。

もうチャンネル自体は出来ているので、投稿して公開すればOKらしい。



「……思ったより反応あるな」


投稿してすぐに回り始めたカウンターをみて、手ごたえを感じているのか中村は頻りに頷いている。


「でも他の動画ほど伸びてはないね」


「ネズミだからなあ」


ちょっと他の動画に出てくるモンスターと比べて、ネズミってインパクトがね……まあ、他にはなさそうだからじわじわ伸びるとは思うけど。


「これ本当にダンジョン? とか、なんで猫いるんだよ、おかしくね? とか割と突っ込みが多い。クロの存在ってそこまで広まってないんかな」


ちょいちょいコメントも付き始めたんで見てみたけど、突っ込みが……クロはどこぞの掲示板で話題に出ていたから、知ってる人は多いかと思ったけどそうでもないのかな。

まあ、この動画でより多くの人が知ることになるだろう。


あと動画の撮影場所がダンジョンかどうか疑ってる奴が居るけど、小部屋にいるネズミが足を踏み入れると同時に襲い掛かってくる時点でダンジョンって分かりそうなものだけどなー。


ん-……ネズミがあかんのか。

まあ、極小ダンジョンに潜った人でもなければ、まさかネズミなんてー……おう?


「あ」


「ん?」


「極小ダンジョンってあるの日本だけじゃなかったっけ」


なんかアマツが他国の極小ダンジョン閉じるとかそんな感じのこと言ってた気がする。

そうなるとネズミが出るダンジョンって日本のここだけじゃん。しかも一般人入れないし……それで本当にダンジョンかって疑ってたのか。納得した。


「そうだったかも……ネズミの動画ほぼ意味ねえなっ」


「なんてこった」


ネズミの相手するのって隊員さんか俺たちぐらいだし、攻略動画を公開した意味がないなっ。


「じゃあダンジョンにネズミが出るのってここだけか? やべえな、ただネズミを虐殺しただけの動画になっちゃうじゃん!」


その通り! やばいね、炎上しちゃう。


「他の動画も今日中にあげる? ウサギとかもあげれば大丈夫でっしょ。飛び上がって蹴り入れてくるウサギなんて普通はおらんし」


「そうすっか」


そんな訳で急遽ウサギとかほかの階層についても動画を撮ってあげることになった。




「反応いいな」


「だねえ」


ネズミと比べてガンガン回るカウンターをみて、中村はニマニマと笑みを浮かべている。


コメントもネズミの時とは違って、疑う声は大分減っている。

増えたのは俺とか中村に対するコメントかな。


俺に関しては『容赦なさすぎ』『名は体を表すとかいうけどマジだな』『ためらいが無さ過ぎる』とか、そんなコメントで溢れていた。


一応中村にも戦闘せいやとデカウサギの戦闘を任せて置いたので、こっちも似たようなコメントが多い。

『なんで二人とも首を狙うの』『二人とも強すぎじゃね?』『ナイフ捻るのえぐい』とまあこんな感じ。


クロについてもコメントはいっぱいついていたよ。

『もう猫だけ映して』『この動画の貴重な癒し成分』『こんな戦闘しまくってるのに、寝たままってすごくね?』などなど。

視聴者もよく分かっているね。

さっき目を覚ましていたので、次の撮影ではクロの戦闘シーンも撮影してあげようじゃないか。


「やっぱ本命はゴブリンかな」


中村もやる気だしな。

今日中にゴブリンまで撮影するつもりのようだ。


クロも起きているし、ゴブリンの動画は今までよりずっと反応がくるのは間違いないだろう。



ゴブリンくんは犠牲になるのだ。

悪いが細切れになっておくれ。



「んじゃ、始めるよー……これまでの戦闘シーンでチュートリアルの敵は基本的に強くないってのは何となく分かったんじゃないかなーって思う。んで、今回の相手はゴブリンだね。モンスターと聞いてこいつを思い浮かべる人は多いんじゃないかな」


ほんと定番だかんな。


「そうだな。あとはスライムとか?」


そっちも定番だね。


「そんな感じ。……ゴブリンって雑魚的なイメージが強いと思うんだ。んで、こいつらはというと、実際弱かったりする」


「まあ、強くはないな」


スライムはそこそこ厄介な敵だったけどね。

ゴブリンさんかわいそう。


「でも、もろ人型だし、ダンジョンや階層によってはあんな感じで武器持っていたりするから、初めて戦うときは結構きついと思う」


ちゃんとフォローはしておくぜい。


実際、最初に対峙したときは精神的にはかなり……きてたっけ?

なんかもうクロのこともあって、ぶっ殺すって意思で埋め尽くされていた気がしなくもない。


「だから少しでも心に余裕を持てるように、防具は固めておいたほうが良いだろうね。多少痛いかもしれないけど、そんなひどい怪我は負わないだろうね」


ただまあ他の人は俺とは状況が違うので、それようにアドバイスをしなければいけない。

殺す事だけ考えて突っ込めとか、そんなアドバイスとしてはどうかと思うのだ。一応ね。


「倒し方のコツは……そうだねえ、体が動くなら思い切って攻撃するとあっさり倒せたりする。逆に動けないならとりあえず防御固めることだねえ、そのうち体もほぐれて反撃できるようになるかなっと」


ぶっちゃけ素肌を狙わられなければ痛いで済むと思う。

体さえまともに動ければ、倒すのは難しくはない。そのまともに動ければってのが難しいって話なんだけどさ。


「他に何か気を付けるところある?」


ん?

ゴブリン相手に気を付けること……犬のあとだとさっき言ったことで全部済んじゃうような気がする。


ああ、でも特大ダンジョンだといきなり出てくるからな。

そうなるとー……。


「一人で突っ込まないこと、かな」


「そんな奴おるう? ……居たなあ」


アメリカとイギリスの動画の人とか居たよね。

あと事情あるとはいえ、俺も一人で突っ込んだし……まあ、数は力ってお話だ。

ソロボッチの人はどうにか誰かとパーティ組めるように頑張ってほしい。他人に声をかけるのはキツイかもだけど、似たような人は他にも居るだろうからどうにかなるんじゃないかなーって思ってる。



さて、あとはゴブリンの戦闘シーンだけど……ここから先はクロの出番だ。


「それじゃクロお願いね」


そう俺がクロに声をかけると、クロは小さく「うな」と鳴いて、小部屋へと歩を進める。

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