第245話
そうとなれば、いかに視聴者の気を引くことが出来るかが大事だよな。
挨拶で悪印象を与えてしまっては、そこで視聴を切られてしまうことだって十分あり得るのだし。
しかし、困ったな。
こんなの普段考えることがないからどうしたらいいのやら。
単に鳴けばいいのかそれとも……あ、そうだ。
「ねえ、クロ。『にゃーん』と『にゃーっ』って鳴くのどっちが良いと思う?」
可愛いの化身に聞けばいいじゃない。
そう思いクロに尋ねてみるが、ただ首を横に振るばかりである。
ダメか、ダメなのか。
「……ん?」
俺は所詮、人間よ……なんて少し落ち込んでいると、クロがこっちをちらりとみて『うにゃ』と鳴いた。
なるほど……俺には可愛いなんて似合わないだろうと。
確かにその通りだ。
「もっと格好よく? そっか……なかなか難しいね」
雄なんだからもっと格好よく、力強さをアピールせいとクロからお言葉を頂いた。
自分をアピールするのは大変だね。
その後クロの監修のもと、どんな鳴き声がいいだろうかと試していたのだけど、20分かそこら経ったところで家のチャイムが鳴らされる。
中村……にしては早いな。と思いつつ玄関へと向かうが。
「おまたー」
中村だったわ。
ずいぶん急いだのだろう、頬が上気しているし、なんか背中から湯気も出てる。
まだまだ冬だからね。汗かきゃそうなる。
「早いな……」
「家においてある機材持ってくるだけだからな」
なるほどね。
とりあえず着替えるの忘れていたので、少しの間あがってもらうことにしよう。
さくっと着替えて茶の間に向かうと、中村はカメラを取り出してチェックをしていた。
なんか手馴れてる感じがするけど、もしかして結構前から撮影したりしていたのだろうかね?
中村は茶の間に戻った俺をみて口を開く。
「とりあえず1階から撮っていこうと思うけど、それでいい?」
「いいよー……いいの?」
別に問題ないと一瞬思ったけど、あれだよな。一階の敵ってネズミなんだよね。
「ん?」
「ぶっちゃけただのでかいネズミだけど……まあ、いいか」
ほぼ虐殺になるような気がしたけど……まあ、無機質ダンジョンにだけ潜るのでなければ皆通る道ってことで、気にしないことにしよう。
「よっし、じゃあまず自己紹介からいこうか。まず俺が自己紹介して、それから島津にカメラ向けるから、そしたら島津も自己紹介よろしくな」
「おう」
そう中村に返事をすると、俺とクロと中村の三人でダンジョンへと向かう。
当然ながら生首はお留守番だ。
私も連れてけって騒いでいたけれど、無視だ無視。
大体おまえダンジョン出禁なっとんだろーがって話だ。
ま、そんなトラブルはあったけど、撮影だ撮影!
さっきまでクロと一緒に挨拶の練習をしていたからな。その成果をみせてやんよっ。
「どうも初めまして! 今日からこのチャンネルでダンジョンの攻略情報を載せていこうと思ってます。中村です! それとお」
ダンジョンに入り、通路を少し進んだところで立ち止まり、やたらと活舌よく自己紹介をする中村。
自分のを済ませると、カメラをくいっと動かし、俺を画面に収める。まかせろい。
俺はすぅっと息をすい、そして一気に音として吐き出した。
「に゛ゃぁぁぁああんっ!!」
「……」
どうよ!
無言になるほど感動したか!
「いや、まて、お前正気か」
俺はいつだって正気だぞ?
「ちょっと考えてみろ、お前のようなやつが……これは俺も含むけど、ただでさえ猫耳尻尾でビジュアルきついのに、なんだその鳴き声は? BANされるわっ」
俺が首を傾げていると、中村はそうそう一気にまくし立てる。
「えー……」
ちくしょうなんて言い草だい。
俺の心はガラス製なんだぞ。
「まじかよ……だったら俺にどうしろって言うのさ」
実はちょっぴり恥ずかしかったのを我慢して頑張ったのに。
視聴者の掴みはバッチリな映像が撮れたでしょっ。
「普通に挨拶すりゃいいだろ普通によお!? クラス変えとかやった時にしただろ? あんなんでいいんだよ、あんなんでさー」
「むう」
普通かー。
せっかく動画あげるんだし、初回ぐらいはちょっと頑張ってもいいと思うんだけどなあー?
「もっかい行くぞ、もっかい!」
しゃーない。普通にやるか……学校の自己紹介ねえ。どんな感じだったかな? 余り覚えてないんだよな。
確か名前名乗って出身地……は言わなくていいか。あとは趣味とかいうぐらいか?
趣味かー……趣味ねえ。
BBQは好きだけど、趣味とは違うよな。キャンプもいいけど趣味と言えるほどやってないし。
……まあ、あれでいっか。
「――中村です! それとお」
「島津でーす。趣味は首切りと狩り三昧。残った体は美味しく頂くのがモットーです」
「おおおおおいっ!?」
どうよ! と胸を張るが、また撮り直しになった。
げせぬ。
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