第233話
くっそ恥ずかしい場面を皆に見られて、冷やかされた俺たちはとりあえずその場から逃げることにした。
北上さんを抱え、全力ダッシュで出口に向かい……クロにちらりと視線でごめん、逃げる! と伝える。
遠目にため息を吐くクロの姿が見えたから、きっと伝わったことだろう。
お土産いっぱい買ってくるのでゆるして!
「ここまでくりゃ平気だろ……」
「あー……恥ずかしかったー!」
やっと一息付けたのは、ダンジョンの入り口から離れて、街中に入ったあたりだ。
さすがに追いかけてくるような奴は居なかったけど、下手についてこられても面倒だ。てかデートの場面を見られたくない。
とりあえず、まずは当初の目的である買い物をしようということで、俺と北上さんはだべりながら慣れぬ土地を歩いていく。
ただ、さすがアメリカというか、アジア系の住民はちらほらいるので俺たちが歩いていてもそれ程目立つことはなかった。たまにちらっと視線を向ける人がいるぐらいだね。ほら、俺って結構筋肉質になってるから……ちょっと目をひくんだよ。日本と違って暑かったから薄着だし、なおさらだ。
ま、とはいえその程度で済んでいる。
なので次第に慣れてきて話は弾み。話題はさっきのやりとりの内容へとうつっていく。
「え……聞こえてたんすか」
「うん、ばっちりー」
北上さんの言葉を聞いて、あちゃーって感じで顔をしかめる俺。
てっきりウィリアムさんが漏らしたかと思っていた、北上さんを恋人だと思ってます宣言だけどね……まあ、普通に聞こえてたんだそうな。
確かにさ、よく考えたら俺も北上さんの会話聞こえてたんだよな。普通であれば聞こえない距離のはずだけど、俺も北上さんもウサギカードの効果やら、猫耳やらで聴力上がってるからばっちり聞こえちゃうわけだ。ただ、英語で話していた内容を俺が理解していなかったから、この勘違いに繋がったと……危うくウィリアムさんの身に不幸が起こるところだった。あぶないあぶない。
「エマ中尉と話していたら急にあれだもん。平静を保つの大変だったんだからねー!」
「それは申し訳なく……」
むーって膨れる北上さんに素直に頭を下げる。
たぶん、エマ中尉は聞こえてなかったのだろうね……普通に会話しているところに、北上さんにだけ聞こえるように、例の言葉が聞こえてくると……よく取り乱さなかったなーと思う。
俺だったら、意思に反して首がぐりんって横を向くと思うぞ。
「べっつにいいよー」
そういうと、膨れた頬をもどす北上さん。
まあ、そこまで怒ってはいない……らしい?
「……それでぇ、服屋さんについたわけだけど……期待してもいいのかな?」
「ははは!!」
まあ、でもちょっとした仕返しはするつもりらしい。
笑って誤魔化せるだろうか。
……あ、ダメだすっごい見られてる。
「……まあ、北上さんに着てもらいたいものを選ぼうかなって思ってます」
「着てもらいたい……もの?」
マネキンから服を引っぺがす所存でございます。
好みにあったもので、あらかじめにセットされている服ならそう変なことにはならんでしょ。
って、あれ?
俺の言葉を聞いた北上さんが、難しい顔をしてコテっと首を傾げている。
なになに。可愛いけど、なんだろう。
「ここ、コスプレ衣装とかはないと思うんだよー」
「どういうことなの」
なんでコスプレ??
「もう耳も尻尾もあるし……どうしてもって言うなら、他も着けて良いけどー」
「どういうことなの」
いや、まって。
なんで服を買う話がコスプレ衣装買う話になってるんです??
てか、他も着けてもいいってどういうことです!?
ちょっと詳しく聞かせて!
と言う訳で、なんでそんなコスプレ衣装を買うとかいう話に至ったのかを北上さんから聞いたのだけどね。
「あー」
どうも、隊員さんとか、日本のお偉いさん方の間では島津=ケモナーとなっているらしい。
なんでだよ。
猫耳とか尻尾を平気でつけてるから……って話だけど、それを言ったら隊員さん達だってつけてるし! 俺だけじゃないし!
てか、あれだ。
これは北上さんの誤解を解いておかねばなるまい。
いや別に猫耳尻尾つけた北上さんが嫌ってわけじゃないけど! 可愛いけど!
それとこれとは別の話しなのだ。俺はノーマルである。
「別に俺ケモナーとかじゃねーっすよ」
「え?」
「え?」
……まあ、北上さんも本気でそう思っているわけじゃないだろう。
なんて軽く思っていたのだけどね。
すっごい真顔で返された。
ちょっと本気で誤解を解こうと思いますっ!!
それから10分後。
「別に落ち込むことないと思うけどなー」
「……落ち込んではないっす」
俺、ケモナーだったらしい。
どうやら猫耳尻尾をつけた人を可愛い! と思っている時点で該当するらしい。
普通の人はまあ可愛いんじゃない? とかその程度の認識だとか……嘘だろ。
猫耳尻尾生やした人を可愛いと思うとか、そんなの日本人の半分は該当するじゃろ。
そう考えれば俺はノーマルだよ。
うん、そうだ。そうに違いない!
よし、俺はノーマル! これでおしまい!
……はあ。
っと、いかんいかん。
もう店内にいるんだった。
今は北上さんの服を選ぶことに集中せねばいかん。
俺たちが入った店は、かなり規模の大きい店舗で様々な衣類が処狭しと並んでいる。
もちろん中には衣類を着込んだマネキンも並んでいるので、まずはそこから北上さんに着て貰いたいなーって思う服を選んでいこう。
……んー?
「……なんかマネキンがでかい? 太い? サイズ合うかな」
日本のマネキンとなんか違う。
でかいしふとましいぞ。
サイズの表記もなんか違うしさ。
「とりあえずS選んでおけば大丈夫じゃないー? ちょっと大きいらしいけど、胸とかきついよりはいいよー」
「……そっすね」
なるほどね。
Sとかその辺は日本とあまり変わらないのか。良く分からないXLとかその辺は……これかなりでかい奴だし北上さんには関係のないサイズだろう……胸とかきつい、か。
いかん、余計なことを考えるんじゃない。
今はよさげな服を探すのが先だ。
「これとこれ……あ、こっちも良いかも」
よさげな服いっぱいあるじゃん!
なんか選ぶの楽しくなってきたぞ。
よく、女性の買い物に付き合うのはストレスが……ごにょごにょって聞くけど、着た姿を想像してニヤニヤしながら買っていると普通に楽しい。変態ぽいけど。
「いっぱい買うねえ。私としては嬉しいけど……いいのー?」
「もちろんっす! アメリカくることなんてもうないでしょうし、せっかくだから色々買っちゃいましょう」
「おー。じゃあ私は島津くんの服もえらぶねー」
「お願いしまっす」
北上さんは北上さんで、自分の服だったり俺の服を選んでいるので楽しそうである。
なによりお金を気にせずに好きなだけ買うってのは、結構ストレス発散というか、なんか楽しい。
こんな買い物ならいくらでも付き合ってもいいって思えるね。
でもね。
「選んでくれないんだー?」
「いや、さすがにそれは……」
下着選ぶのだけは勘弁してください。
野郎が女性の下着をガン見しながらうろつくって、もうアウトでしょ。
下手すりゃ通報されますがな。
ただでさえ北上さんの見た目がさ、かなり若いから犯罪臭がするのに……いや、俺も十分若いんだけどさあ。
とにかくむりっ。
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