第234話


「やー。いっぱい買ったねー!」


にっこにこな笑顔を浮かべ、店を出る北上さん。


「大量に買うのもたまには良いもんですね」


後に続く俺も、まあ笑顔だ。


……結局一つだけ俺が選ぶことになったんだよね。あの店員の視線は暫く忘れられそうにない。

北上さんが喜んでたから、まあマイナスよりプラスが大きかったけど。


「日本に帰ったらまた行こうね」


「いきましょう」


下着選ばなくて良いなら歓迎ですとも。



「ん。思ったより時間経ってた……たぶん座れると思うけどなー」


「人気店なんですね」


「うん。何食べてもおいしいんだってー」


北上さんの言葉に反応しつつ、俺も自分のスマホをちらっと見てみる。

時刻はそろそろお昼時だ。

思っていたよりも長居してしまったらしい。


ああ、ちなみに買った荷物だけどね、お店に頼んで送ってもらったそうだ。

その辺りのサービスないのかなーと思ったけど、お金払えばちゃんとやってくれるっぽい。




そんな話をしながら歩いている内に、お店へと着いていた。


外観はやっぱかなりお洒落だね。

一人で入るのは無理だけど、誰かと一緒……相手が男であれ女であれば、気兼ねく入れる。そんな感じのお店だ。


「お、空いてる」


ちらっと外から中をみた感じ、かなり混んでいたが。実際にドアを潜り店内を見ると、丁度よく二人掛けのテーブルが一つ空いていた。ついてるね。


「私はソテーとスープのセットにしよっと」


「むむ……クラムチャウダーかなこれ……これと、パンと腸詰のセットで」


英語が分からないとは言っても、聞き取れないだけであって読めない訳じゃない。

とりあえず知ってる料理名をみつけたので、それを注文しておこう。

何を食べてもおいしいって話だから、きっとこれもいけるはずである、



10分ぐらいして料理が出てきたけど……結構ボリュームあるな。

日本でいう大盛りぐらいありそうだ。


まあ、俺も北上さんもかなり食うから、このぐらい余裕なんだけどね。

問題は味である。


「あ、おいしい。出汁がすごいでてる」


「皮ぱりぱり」


思った以上に美味しかった。

マーシーの料理が誰でも美味しいと感じる料理だとすると、こっちは少し何かに特化したような感じだ。

貝の味がかなり出ていて俺はおいしいと思ったけど……人によってはくどいと感じるかも知れないね。


北上さんの方も皮が良い感じに焼けてて美味しいみたい。

あっちはあっちで何かしら特色があるんじゃないかな。


さすがに一口ちょうだい! とかはこう人目があると無理なので、どんな特色かはわからんけど……あとで聞いてみるか。



しかしなー。

俺がデートとはねえ……学生時代を考えると嘘のようだ。


ほんっと周りは野郎ばかりで……ああ、そうだそうだ。


「写真とるの忘れてた……」


中村にデート中だぞって写真でも送ろうかと思ったんだけどね。


「もう食べちゃったね」


美味しかったし、ぺろっと食っちゃった。


「SNSにでも上げるのー?」


「いやあ、中村にでも見せようかなって……空の皿でもいっか」


「ひどっ」


酷いと言いつつ笑う北上さんに、俺も笑みでかえして……パシャパシャと皿の写真をとって中村にぽいっと送る。

もちろん写真の端に北上さんの姿がちらっと入るように撮ってだ。

くくく、悔しがる中村の姿が目に浮かぶようだぜ。




お腹八分目……というか、5分目もいってない感じだけど、とりあえずお店を出て今度は海岸へと向かう。


「道沿いに店がむっちゃある」


「気になったのあったら寄ってこー」


自転車を借りて二人でサイクリングと洒落こんでるんだけど、なかなか興味をひかれる店が並んでいるのだ。

例えば……。


「カラフルすぎて怖い」


「たしかに。でもおいしいんじゃない?」


レインボーなシェイクっぽい飲み物とかな!

見た目ヤバすぎんじゃろ。


さすがにあれはスルーかなーって思っていたら……北上さんが一つ買ってきて、ほいって手渡された。

なんてこった。



「ん……バニラシェイクに砂糖ぶっこんだような味」


「やばっ」


ほっぺた痛くなってきた。


これ全部飲み切るのきつい……と思っていたら、半分は北上さんが飲んでくれた。

まあ、北上さんも興味あったけど、一人で一つ飲み切る気にはならなかったんだろう。


さ、次だ次。


「バター揚げたのって割と普通の食べ物なんだ……アメリカこわい」


「さすがにあれはちょっと遠慮したいかなー」


くどすぎて胃もたれしそう。

若い体でもあれはむりむり。



バターフライから逃げるように、自転車を漕ぎ、ちょっとした公園ぽいところで少し休憩をすることになった。


ベンチに腰掛けてぼーっと海岸を眺めていたのだけどね。

漕いでるときもチラチラ視線には入っていたけれど、やっぱ泳いでる人が結構いるんだよな。


やっぱ海と言えば泳いだりして楽しむものなのだろうか。


「泳ぎたかったー?」


「ん、そうっすねえ。暖かい……というか暑いし、泳いでもよかったなーとは思いますね。それに、海で泳いだことないんでやってみたかったんすよね」


プールでしか泳いだことないんだよねー。


「あー、だよねえ。ぶっちゃけ寒いもんね」


北海道でも地域によっては普通に泳げるんだけど、やっぱ水温が低いんだよ。

だから泳ぐというよりは波打ち際で遊ぶ程度になる。たまに泳いでる人はいるけれど、寒くなってすぐ上がってくるしね。

どっちかというとBBQがメインだろう。海岸によっては釣り人しか居ないとか、わりとある。


そんな訳で、海で泳いだことのない俺だけど、夏になるとニュースとかで流れてくるわけですよ。

あんな人ごみの中泳いで楽しいのかーとか考えていたけど……それは泳ぎたい気持ちを誤魔化していたのだろうね。


いざ皆が楽しんでる光景を目の前にすると、俺も泳ぎたいって気持ちがわいてくる。

決してよこしまな気持ちで海岸を眺めているわけではないのだ。

だから北上さん、あまり顔を覗かないでくれませんかね……?


「夏になったら南の方にいってみる?」


「あ、行きたいです!」


別に俺が何をみているか観察していた訳じゃなかったようだ。せーふせーふ。


そして南の方……つまり旅行に行かない? ってお誘いなわけで、そんなの受ける以外の選択肢はない。


「んじゃ、夏休みにでも行っちゃおっかー」


あと半年ぐらいか。

結構先になるなあ。




「水着楽しみにしててね」


いくらでも待ちますとも!

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