第232話

打ち合わせのあとは、ひたすら狩りをした。

米軍もこの状況になれたのと、飛竜を食べたことによるバフ効果もあり、前よりも順調に狩りを進めていった。

その日の夕方までと。そして翌日も丸一日狩り続け、どうにか俺たちが受け持ってる米軍のメンバーのレベルを一つ上げる事に成功する。

次は一つ深い階層で狩りをすることになるのだが……。




アメリカに来て四日目の早朝。

休憩所でスマホ片手に佇む俺の元に、北上さんが鼻歌交じりで近づいてくる。


「さてさてさて」


北上さんは私服で、俺も私服だ。

さすがに連日狩りを続けるのは厳しいというのと、元々自由時間を設ける予定だったこともあり。今日丸一日は自由に過ごせることになっているのである。


「買い物いこっか!」


「あ、良いですね。いきましょうか」


どこかに出かけようと誘いを受けてはいたが、場所などについては「考えておくからー」とだけ聞いていたので、実は今知ったところである。


日頃お世話になってるし、喜んでお付き合いしますとも。



「じゃ、しゅっぱーつ!」


北上さんはニコニコと笑みを浮かべながら、俺の腕をグイっと抱える。

緊張感ない状態でこいつは……思わず頬が緩むのを俺は鋼の精神でもって押さえつけた。


「ぉ、ぉぉう……な、なに買いに行きましょうね」


誰だよキョドってるやつ。


「近くにねー、いい感じの服屋さんがあるんだってー」


「せっかくだからいろいろ買っちゃいますか」


たぶん服屋も行くだろうなとは思っていたけど、やはり行くらしい。

俺の服も一緒に買っちゃおうかな。

部屋着は自分で、普段着は北上さんに選んで貰おっと。


なんて思っていたのだけど。


「いいの選んでねー?」


まじでっ。


「善処します」


とは言ったものの俺のセンスは正直いって……ああ、あれだ。

マネキンが着てるやつを引っぺがせばいいか。あれって元々組み合わせたやつになっているし……北上さんに着てもらいたいの選べば、まあそんな変なことにはなるまい。


……俺の趣味はバレそうだがな!


まあ、変なの選んで幻滅されるよりは大分ましというものだ。


「あとはね、お昼はここのカフェとかどうかな」


「よさげっすね。洒落てるけど、入りやすそう」


どうやら買い物だけではなく、昼食も取るつもりらしい。


北上さんがスマホで店内の写真みせてくれたんだけど、かなり雰囲気の良い喫茶店……? 喫茶店ともなんか違うな。

俺の語彙力じゃ表現できないわー。でも良さげな場所ってのは確かだ。


ご飯も美味しそう。あまり肩肘張らずに楽しめそうである。

よくこんなところ見つけたなーと思う。もしかしてエマ中尉にでも聞いたんかしらね。


買い物して昼食とってと、なかなかがっつりお出掛けする感じだなー。クロはー……さすがにお留守番かな。お土産にカラフルな猫缶でも買ってあげよう。

そんなのあるのかって? たぶんあるでしょ。アメリカだし。


「あとね。ここのビーチいってみたいなー」


えっ? ビーチ!?


まさか泳ぐのか! と思ったけど違った。

どうやら海岸沿いにお店とか並んでたりして、そこを自転車で爆走できるらしい。


眺めもいいし、良いデートスポットでもあるとかなんとか。

……ほほう?


「夕飯は私の部屋でかな。映画みたいし」


まだ映画全部みれてないしね。

しかし凄いな。朝から晩まで一緒とか、これってさあれだよね。


「おー……なんかデートみたいっすね」


ちょっと照れを誤魔化すようにいったのだけど。

言った瞬間、北上さんがこちらをじっと見つめてきた。


え、なに……?




「そうだよ」


……??


「恋人だと思ってたんだよねー?」


固まる俺の顔をじっと見つめ、にししって感じで笑う北上さん。


いや、まってまってまって!

なんで?? なんでばれっ……ウィリアム、貴様かー!!?


くそっ……あの野郎、次みかけたらラ○トセーバー挿してやる。




「ありがとね」


ふぐぅっ……笑顔が眩しい。

焦りとか怒りとか、もうどうでもいい。


よかったな、ラ○トセーバーの刑はなしだ。

尻尾を特別仕様にしてやろう。


「私もそうだったら嬉しいなって思ってた。今回の任務で恋人を演じることになったけど、本当になれたらいいなって」


……ん???


本当に、なれたらいいな……恋、人? え?


「それって」


「好きってことだよ」


お、お、ぉぉおぉ……!?


これってまさか、もしかしなくてもあれだよね??

告白的なやつだ!!?



「さてさて……女の子にここまで言わせておいて、島津くんはどーするつもりなのかなー?」


はっ!?


い、いかん……北上さんに言われて気が付いたけど、ずっと俺固まったままだった!


相変わらず北上さんは笑みを浮かべているけど、どこか不安げにも見える。

俺が黙っていたから不安に思ったのだろう。任務だから、恋人と思っていると言ったんじゃないかと……いかん、気合入れるのだ。ここは気合いれて答えなばならんぞっ!!


だが、まずは落ち着け! ここで噛んだら台無しだ……深呼吸だ深呼吸。


ひっひっふー。



……よし、なんか違うけど、いくぞっ。



「北上さん。俺も北上さんの好きです。俺と……付き合って貰えませんか?」


「んっ。よろこんでっ」


可能な限りマジな顔で、勇気を出していった俺の言葉を、北上さんは今まで一番いい笑顔で受け止めてくれた。


思わずぎゅっと抱きしめたところで……ごほんっと咳払いが聞こえた。



「!?」


まさかアマツが覗きにきたのか!? と思い音源へと視線を向けると……そこには苦笑いを浮かべる隊員さん、それにニヤニヤしてる米軍の面々がいた。



「あー……お前ら。お熱いのはいいんだが……もう少し場所を考えような?」


「見ててこっぱずかしくなるわ! ……が、よかったな二人とも」


「式はいつあげるんすか?」


いつから……いつから見られてたんデス???


やばい、恥ずかしいなんてもんじゃねーぞ!?

北上さんも真っ赤になって俯いてるし……かわいいな!

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