第211話

腹がはちきれそう……これ、ダンジョン内じゃなかったら、腹圧に耐えきれずに腹裂けちゃうんじゃなかろうか。

叩いてみるとさ、これもうお肉の感触じゃないよ。かっちかち。


きっと北上さんも似たような状況に違いない。

ちょっとお腹をさわ……いや、なんでもない。


俺は変態ではないのだ。



「クロにいたってはおっちゃんになってるし」


ちょっと別なことを考えようと、ふとクロのほうを見てみたら。

俺や北上さんと違って、転がってはないんだけどさ。


椅子に全身を預けて、まるで酔っぱらったおっちゃんのようである。


「へ? ほんとだっ」


俺の言葉を聞いて、顔だけ起こす北上さん。

クロをみて目を輝かせて、スマホを取り出そうとするが……あ、お腹きつくて諦めた。


まあ、たとえおっちゃんのような恰好だろうと、これが猫がやれば可愛いー! となるのだよね。

世の中そんなもんである。無常なり。


お腹いっぱい過ぎて思考がおかしいな、おかしいよな。



このお肉なんかやべえ物質はいってませんかね。

ちょっとハイになって、中毒性があったりするようなやつ。


高レベルな俺がこうなってるんだから、これダンジョン外に出して一般人が食ったらどうなるんだ。

昇天したりしないよな。


まあ、仮になんかあってもアマツのせいだし。俺、関係ないですしー!

しばらく世の中に出すのは止めておこうとは思うけど。



……ん? 何の音だ。




「ジャーキーおいしい? そりゃよかった」


なんかさっきから「ミシミシッ……バリィッ」みたいな音がすると思ったら、クロがマーシー特製ジャーキー食べとった。

何もそこまでおっちゃん化しなくてもええのに。


あとこれ、どうも尻尾のお肉で作ったやつらしいね。

旨味たっぷりな部位らしく、非常においしいとかなんとか。


……いくらかまとめて貰っておくかな。

俺が持って帰らなくても、クロが勝手に持って帰りそうだけど。




……ふう。

どうにかお腹も落ち着いてきたかな。

まだしばらく動けそうにはないけど、会話する分には問題はない。


そんな訳で、例の飛竜対策についてちょっと北上さんに聞いちゃおう。


「あ、そうだ北上さん」


「おー? なになに、お姉さんに相談かいー?」


少し真面目な声色で俺が北上さんに声をかけると、北上さんはニヤニヤと嬉しそうに、楽しそうに俺へ笑みを返す。

傍目にはなんかこう良い感じな雰囲気に見えなくもないんじゃない? って気がしたけど、俺も北上さんもお腹いっぱい過ぎて横になったままなんよね。色々と残念である。



……そういえば、北上さんの年齢っていやなんでもない。

ポーションの効果で見た目で言えば俺と同じ……いや、もっと若いか? よく分からんな。


まあ、気にしたもんじゃないし、それより相談しよう。


「まあ、そんな感じ……なのかな? 実はですね」


と言う訳で、俺は北上さんに飛竜がずっと飛んでてダメージを与えにくいので、どうにかして……それこそスタングレネードなどを使って、叩き落すか動きを止めたいと、俺の考えを伝える。


俺って成り行き上、自衛隊の一員となってはいるのだけど、そう言った装備とか使ったことないんだよね。

まあ、ここまでは必要なかったし、こちらから求める事もなかったからそれでも良かったんだけど、飛竜に関してはそうも言ってらんない。



「タフ過ぎるからスタングレネード使いたいとー……なるほど、なるほどねえ」


「無理そうっすかね、やっぱ」


俺の話をふんふんと頷きながら聞いていた北上さんだけど、聞き終えると首を傾げてしまう。

やっぱ一応所属しているとは言え、ほぼ一般人……一般人かどうかはさておき、素人にそんなの使わせるのは難しいのかな。


うーん、そうなるとなあ。

どうしたもんか……何か他に方法あるかなあ。

投網……いや、ないな。



「たぶんいけると思うよ。島津くんのお願いだし、通るはず。時間もそんなに掛らないんじゃないかなー?」


いけるんかいっ。

なんで首を傾げたし、可愛いかったから良いけど! むしろ良いもの見れたのでありがとうって感じだけどっ。


「おおっ、そりゃ助かります」


まあ、何にせよこれで飛竜に関してはある程度楽になる……かなあ?

目を潰しても対応してきそうでちょっと怖いんだよな。


滅茶苦茶に暴れる程度ならまだ良いけど、気配とか読んで正確にこっち攻撃してくるとかないよな?

フラグじゃないぞ。




「そうそう島津くん」


「んが?」


北上さんにお礼を言って、クロからジャーキーを貰ってガジガジとかじっていると、北上さんから声が掛かる。


……このジャーキー堅いんです。

あと、美味しいんだけど塩っ気が薄くて……これ猫用だぁ。




どうにかジャーキーを飲み込むと、北上さんが話始める。

待たせちゃったすんません。少しだけ空いた胃の隙間が埋まってしまったぜ。


何の話だろうね。


「来月の頭からねえ、例のお仕事がくるらしーよー」


例のお仕事とな?

……お仕事ってことは自衛隊関係なわけで、そうなると一つしかないな。


「例の……アメリカ関係のやつです?」


「そうそう、それー」


やっぱそうか。

てか、これ以外だったら今初めて聞いたってなるからね。


「なるほど……」


そっかー、ついにきちゃったかー、そっかー。


ううーん。頬がちょっとピクピクしてる。

耐えるのだ、俺。


「不束者ですが、よろしくお願いしますね」


「よ、よろしくっす」


よろしくって言われたらしょうがないよね!



いやー、この件ってさ、一度聞いてからよくよく考えたんだけどね。


本来であれば面倒、厄介、禿げろ、モゲロ……なんて悪態つきたくなるような話であるが、今回に限って言えばむしろそんな提案をしてくれてアメリカに感謝したいぐらいだ。


いや、ほんと、まじで。


倒したモンスターの素材やら、獲得したアイテムやポイントは山分けとか色々言ってたけど、そんな些細なことはどうでもよろしい。


なぜなら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る