第167話
「そろそろかなー」
空になったペットボトルをしまい、パッドの時計をちらりと見てそう呟く。
装備の出品が始まってから結構な時間が経った。
なにせアマツが色々とネタ装備とか用意してたもんで、出品数がかなりの数になっていたのだ。猫の尻尾とか出てたしな。
それで思ったより時間が掛かってしまって……いま10階の装備類が終わったところなので、いよいよ俺のが出品される時がきた。
「さて、次の品は15階層で入手可能な装備となります……おそらくこの映像を見ている皆様も一度は見たことがある装備ではないでしょうか?」
そう司会が説明し、皆の前に現れたのは……一見するとただの筒であった。
だが、その筒を見ればそれが何であるのかは、分かる人にはすぐ分かるだろう。会場に大きなざわめきが広がっていく。
これにはさすがに北上さんも驚いただろう……そう思い、北上さんの方へと顔を向けるが。
……そこにはにんまりした顔でこちらを窺う北上さんの姿があった。
「……?」
「……あれー?」
お互い笑ったまま視線がばっちり合い……あれ?っと首を傾げる。
なんか思ってた反応と違うんですが……まさかこれって……。
「もしかして島津くんも出したの?」
「北上さんも?」
出すもん被ってたわっ!
通りで数がワンセット多いと思ったよ……。
あ、俺が出したのは2個ね。それが4個になってたんだ。
あの独特の音を確かめるなら、2個あったほうが良いだろうと思ってね。
「まさか被るとは」
「驚くかなーと思ったんだけどなー。ざんねーん」
北上さん出したのポーションだけじゃなかったんね。
しかし、まさか同じのをチョイスするとはなあ。
まあ、被ってしまったもんは仕方ない。
そろそろ動画も流しそうだし、こっちで驚いて貰うとしよう。
「ん?なになに、動画撮ったの?」
「ええ……映ってるのは俺じゃないですけど」
「あ、そうなんだー?」
そうなんです。
でも北上さんも知っている人たちですぜ。
見て驚くが良いなのだ。
「おー……えぇっ!?」
動画が始まってすぐ、現れた人物を見て北上さんが驚きの声を上げる……て言うか、会場中から聞こえてくる。
まあ、そらそうだろう。
「ちょ、え、本物!?」
もちろん本物です。
筒を手にし、映像に映っていた二人は……笹森さんと宇佐見さんだ。
あれだ、総理と副総理だね。
ポーションの数を絞って欲しいってお願いされた時にさ、ダメ元でならこちらもお願いしたいことがあるのですが……って話してみたらあっさり通ったんだよね。しかもノリノリで。
光る剣を独特な音と共に振り回してる姿はとても楽しそうだ。
「宣伝効果はばっちりです」
「まー、うん……そうだねえ」
ばっちりなんてもんじゃないだろうね。
撮影はうちのダンジョンで行ったし、二人とも8階まで行ってるそうで割と人間離れした動きを見せている。
もちろん手加減はしているけど、それでも映画と比べて遜色ない……むしろ身体能力が上な分迫力ある映像になってると思う。
ほんの1分そこらの短い映像だったけど、終わった瞬間会場が大歓声に包まれたので、この試みは成功したと言えるだろう。
いくらで売れるか楽しみだ。
「20階のポーションなみじゃーん。やばーい……」
「うへえ……こりゃ二人にお礼しないとかなあ」
貯金が3倍になってしまった……。
北上さん目のハイライトが消えてそうだけど大丈夫かな?
てか思った以上に高く売れたんで、笹森さんと宇佐見さんにはお礼しないといけないな。
ドラゴンの丸焼きで良いか。まだ俺たちと隊員さんしか食べてないしね。
んで、その後は宝石とかのレアアイテムのオークションも始まって。
「宝石もゲットだ」
「トロールカード大人気だねー……」
「回復力半端ないですからね。ぶっちゃけ頭とか心臓潰されない限り治ると思いますよ、あれ」
宝石はさすがに人気だったんで、思い切ってトロールカードをぶっこんでみた。
例のドラゴン戦の動画で体を修復してたのはこのカードの効果ですって一言添えてね。
宝石は全部で3つゲットしたよ。
うち二つは黄色っぽくて、もう一つは黒色だ。
どっちも初めてみる色なのでどんな効果か楽しみだよ。
んで、レアアイテムのオークションも終わって、残るは最後のシークレットのみになったんだけど……。
「あとはシークレットかなー……ん?クロどした?」
オークション中ずっと膝の上で丸くなってたクロが、急にもぞもぞと動き始めたのである。
「……ねえ、クロも何か出品したんだよねー?」
「ええ……いやな予感しかしねえ」
起きて端末を操作し始めたクロを見て、俺と北上さんは嫌な予感でいっぱいになるのであった。
絶対何かやらかすに違いない、と。
前は……あれだ、講習の時のブレスぶっぱがあった。
たぶんあれと同じぐらい何かをしでかしそうな予感がする……でも、もう出品済みなのでどうする事も出来ないので、何事も起こらないことを祈るしか出来ないのである。
逃げる準備しとく?
「さて、皆様……いよいよ最後の品が近づいて参りました」
はじまっちゃったー……やだー。
司会さんが最後の品といって、奥から出てきたもの……ちょっと、いや、かなりおかしい。
「んんんんっ」
「えー」
出品物ってさ、大抵は小さな台に乗せて運ばれてくるんだけど、これは……クレーン車だ。
正確にはちょっと違うかもしれないけど、だとしても似たようなものだ。
もちろんクレーン車が出品物な訳はない。クレーン車が引っ張っている荷台に乗っているものがそうだ。
布で覆われているのでまだ何が乗っているのかは確信出来ないが……想像は付く。てかクロが出品したもので、それでいて大きさ的に考えるとどう考えてもあれしかない。
……いや!でもまだワンちゃん何体かいっぺんに出したって可能性もあるし!違う可能性あるし!
「これぞまさにファンタジーの代表格と言えるでしょう。ご覧ください!最後の品は……ドラゴンです!!」
「やっぱりぃぃぃぃ」
「わー」
やっぱりだよこんちくしょー!
司会の合図と共に布が外れ、ドラゴンの巨体がみんなの前に現れる……会場は一瞬静まり返った後、一気に沸いた。
クロのドヤ顔がちょっぴり憎い……可愛いけどサ。
もうね、会場のテンションはMAXだ。
もうあちこちで悲鳴上がって逃げ出す人が出る始末だし。
よく見れば首が切断されているし、動いてない事から死んでるとは分かるだろうけど……いきなりあれが目の前に現れたら、そらビビるだろう。
そんな混乱している会場の中、司会の人は冷静だった。
予め何が出るかって知ってはいたのだろうけど……すぐにマイクを構えると、出品物の改札を始める。
「ではここで出品者より一言……「ステーキにするとおいしい」……ま、まさかの食用!!?」
確かに美味しいよね。
……あの文章はおそらくクロが打ったものだろうけど、そこはもう突っ込む気にもならない。
慣れって怖い。
「し、失礼しました……ええと、出品者より追加のコメントが……「ちゅーるにしてくれる人にゆずる」…………はい?」
ちょっと何言ってるのか分からない。
きっと司会の人はそう思ったことだろう。
大丈夫。きっと会場の皆も、俺も含めてそう思っているから……クロってばよぉ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます