第168話
「まだざわついてるなあ」
クロのメッセージで会場が一時騒然となったけど……いや、まだ騒然としているけどね。
オークション自体は無事に終わったよ。クロが出品したドラゴンもクロの希望した条件で落札されていたしね……。
「ねえねえ、島津くん……あっち」
少し遠くを見る様にして考え事をしていると、北上さんが肩をちょいちょいと突いて、あっちあっちと指をさす。
北上さんがさした方向にはクロがいる。
なるべく見ないようにしていたのだけど、北上さんをスルーする分けにはいかない……。
「……猫って踊れるんだ」
「はじめてみたよー」
北上さんが示した先ではクロが喜びの舞を踊っていた。
こう、ずんどこずんどこ、ずんどこどこ……とか太鼓が鳴ってそうな舞である。
よっぽど落札出来たのが嬉しかったのだろうね……ところでクロや、この部屋にいるの俺たちだけじゃないの忘れてないデス?
さっきから「Oh...Oh my god」とか「Jesus...」とかとか「Foooo!!」みたいな声が聞こえているんですがそれは。
だから遠くを見ていたのだよ、俺は。
「ドラゴンでちゅーるなんか作れるのかなあ」
「いけるんじゃない?落札したの製造メーカーの人なんでしょー?」
「うん」
ああ、結局落としたのは製造メーカーのたぶん偉い人……かな。
クロの端末ちらっと見せて貰ってたんだけど、結構色々な条件が来てたんだよね。
例えばー……「製造メーカーに伝手があるので、落札後に製造を依頼する。その際の費用はこちらで全て持つ、それとは別に落札費として……」だったり「言い値で買う」とか「製造メーカーを買収するので……」なんてのもあった。
最後のはクロの怒りを買ったぽいけど。
ただ、最終的に製造メーカーの関係者を名乗る人物が「責任をもって製造し出品者に届ける。ただし消費期限の関係などで2年分以上は用意できないがそれでも良いだろうか?」とコメントし、クロがそれでOKを出したので、無事落札となった訳だ。
細かい話は後で詰めるそうだけど……猫と商談する光景を想像すると、かなりシュールだな。
まあ、たぶんクロは自分が食える分を確保出来れば良いって感じだろうし……あとは配布用ぐらい?これはメーカーさん側がかなり得するんじゃないだろうか。
余ったお肉は食うしかないだろうけど、皮とか爪と牙とかは売っちゃっても良いだろうし。
今後のことを考えて売らずに飾るとかなるかもだけどね。
「さて、と……もうそろそろ帰りますか?」
もうオークション終わったしねえ。
北上さんがOKならそろそろ帰るべさ。
クロは踊り疲れたのか丸くなってるしね。
「んー。そうだねえ、人もまばらになってきたし……帰ろっか?」
んし、北上さんのOKもでたし、帰ろう。
「クロいくよー」
クロに声を掛けて、よっこいしょと持ち上げ……首に巻き付ける。
うー……と不機嫌そうな唸り声が聞こえたが、一応会場の外に出るまではね?ちょっとの間だけだから我慢して貰おう。
会場から出た俺たちは、そのままの足で駐車場へと向かった。
俺の車が停めてあるんよね。北上さんは駅まで電車できて、ここまで歩いてきたらしいので帰りは送るつもりである。
てかこのまま解散となるかは分からないしね!
「いやー……色々あったねー。もう残高見るのが怖いよあたしゃ」
「残高増えすぎてもう笑うしかないっす」
北上さんにそう言って笑う俺であるが……いやあ、まじで洒落にならない額だよなあ。
引き籠りたいって言ってた北上さんの気持ちもほんと良く分かる。
……さて、そろそろ駐車場に着くが。
「……まだ飯には早いですね」
「微妙な時間だねえ」
……とりあえず帰るとは言いださなかった!
さてさて、どうしようか。
実際まだ飯には早いんだよねえ……うーん。
「キャンプ用品見にいきます?」
買いに行きたいって言ってたけど……。
「そりゃ魅力的な提案だねー。……でもそれは落ち着いてからがいいかなー?」
俺の言葉に嬉しそうな顔をした後、少し困ったように首を傾げる北上さん。
……うん、お金ありすぎて怖いもんね。
絶対落ち着いてからのほうが良いだろう。
「それじゃー……北上さんの引き籠り先を整えにいきますか」
「おー?」
そうなるとやっぱあれだ。
実際に引き籠れるようにしないとだね。
今もそれなりに施設は整っているけど、シャワールームとかランドリーとか、もうちょい良い施設にした方が良いだろう。
これで衣食住の内、衣以外はそろったはず……北上さんの個室がどうなってるか分らんけどね。
さすがに聞くのはちょっと躊躇う……んま、とりあえず家のダンジョンに向かうとしよう。
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