第153話
「混んでるね」
「混んでるな!」
やはりモンスターの素材を使った装備、と言うことで買う買わないは別にして一目だけでも見てみたい……そんな人が大勢居たのだろう。
トライアルの参加者に限定しているのにも関わらず、店内は人で溢れかえっていた。
「おおー!……たっけぇ!」
商品は全てショーケースに収められており、直接手にとって見ることは出来ないが、それでも中村は興奮した様子でケースの中を眺め、そしてその値札を見て驚いていた。
中村が見ていたのは、おそらく牛さんの皮を使ったであろう軽鎧であった。
そのお値段なんと1000万円。
これは思っていたよりもお高いぞ。
勿論皮鎧にする手間暇を考えれば、それなりのお値段にはなると思うが、ちょっと桁が一つ違った。
材料費とか研究費とか嵩んだのだろうね。
俺が前に素材を集めたときなんか報酬凄かったからね。
この値段設定じゃなきゃペイ出来ないのだろう。
まあ装備は他にもたくさんある。
中には手を出せる物だってあるだろう……と、中村は次のケースへと移動するのであった。
「……」
そして1時間後。
全てのケースを見終えた中村は目に見えて落ち込んでいた。
すごいしょんぼりしている。目には薄らと涙が浮かんですらいた。
「急にテンション下がったなー」
「全部高い……さすがに手をだせないわ、これ」
「確かにたっかいね」
「だべ?」
なぜかと言うと全部の商品が高かったからだ。
まだ働き始めてから半年程しか経っていない中村にとっては、とても手が出せるお値段ではなかったのだ。
俺は無駄にお金持っているのでその気になれば買い占めるぐらいは出来るけど……もちろんそんなことはしない。
「んじゃ、それ以外で見繕う感じ?それとも支給品?最悪お金貸すって手もあるけど」
「いや、友達から金借りるのはないわー」
なんなら貸そうかと思ったが、中村にはその気はないらしい。
「だとしたらポイントも?それだと盾以外は支給品になっちゃうよー」
「ぐう……」
「さーどうする」
お金もポイントも、中村的には借りるのはないらしい。
ならどーすると言うはなしだけど、中村も悩んでいるようで、呻ったまま考え込みだしてしまう。
……ふむ。
まあ、本人が納得するまで待つとしよう。
しかしそうなると手持ち無沙汰になってしまう……と、何か面白い装備でもないかな?手近なケースを覗き見ると、そこには見覚えのある装備が置いてあった。
「あ、これ……」
「ん?」
「俺が使ってるのと同じだ」
例の試作品と同じ物がそこには並んでいたのだ。
若干見た目が格好良くなっているが、性能的には同じ物だろう。
こうして売られているのを見ると手伝って良かったなーと思えるね。
「へえ。やっぱ強いの?」
「かなり良いよこれ。衝撃も吸収するし、火もかなり軽減してくれるもん。一度使ったらもう外せないね」
中村にも是非お勧めしたい装備である。
「おお……たけえ」
が、素材を3種も使っているのもあってかなりの高額だ。
小さいのに最初にみた軽鎧よりも高い。
中村も興味を惹かれたようだが値札を見てガックリと肩を落とす。
ううむ、どうしたもんかなあ……と悩んでいると、ふいに背後から声が掛かる。
「お客様、何かお探しですか?」
店員さんの登場だ。
あまりにも悩んでいたから気になったのだろう。
「こいつの装備探してるんですけどね……ちょっと手が出せない感じみたいでして」
俺がそう言うと、店員さんは中村と、値札をチラリとみて困ったように笑みを浮かべる。
「現状ですと素材が貴重でして……」
まあ、でしょうね。
俺が以前しこたま狩ったけど、あれじゃ研究目的なら十分でも、こうして装備として売り出すには全然足りてないはずだ。
貴重な分素材買い取りも高くなるし、暫くはこのままだろう。
「モンスターの素材を使っていない装備も御座いますが、そちらはもう御覧になられましたでしょうか?」
「へ?あ、普通のもあるんだ?」
まじかい。
それは知らなかった。
「ええ、下の階に御座います。宜しければご案内致しますが……」
ぜひお願いします!
中村はまだ悩んでいるけど、選択肢が増やせば解決するかもだしね。
と言うわけで、まだうーんと悩んでいる中村を引き摺るように下の階へと向かうのであった。
下の階もかなりの混み具合だった。
上の階で値段を見て諦めた人がこっちに流れているらしい。
お値段は安い物は1万程度、高い物でも100万ぐらいで収まっている。
これなら中村でも手が出るだろう。
素材も造りもかなりしっかりしているので、十分実用に耐えると思う。
……見た目がかなりファンタジー寄りだけど、まあそこは皆似たような装備になると思えば気にするほどでもないかな?
俺の装備もドラゴンの素材で改造してから大分ファンタジーになっているしね。
それに何より……。
「ニッコニコしてるな」
中村本人が装備を気に入っている様だしね。
籠にはぎっしりと装備が詰まっているし……あれ全部買うんかな。
「おし!これならギリ買える!店員さんこれくださーい!」
あ、やっぱ買うのか。
えーっと……頭、胴体、手足の防具に武器と……一通り揃ってはいるかな。
あとはー。
「鎧とかはいいの?軽装っぽいけど」
特大ダンジョンとか潜るなら鎧も有った方が良いと思う。
店内を見渡せば、如何にもな鎧がちょいちょい飾ってあるし、あるなら買っておいた方が……と中村に話が。
中村は一瞬物欲しそうに鎧へと視線を向けるが、すぐに悲しそうに首を横に振る。
「いや……欲しいけどあれも買ったら余裕で予算オーバーするわ」
お金足らなかったらしい。
悲しい。
お金が出て来る魔法のカードとかあるけど、さすがにあれを使わせるのもねー。
「でかいダンジョンに潜らなければ平気かなー」
基本は小ダンジョンあたりに潜れば良いかなーと思う。
欲しいカードを出すモンスターが居るかはまだ分からないけどね。
もし他のダンジョンに居るのであれば、ポイントを少し稼いでから移動しても良いしね。
「どゆこと?」
ん。
そっか、中村はその辺の話はまだ知らないもんな。
「っへー……そんなのあるんか」
「あるんだよー」
とりあえずざっくりとダンジョンの種類と装備制限について話しておいた。
中村もその話を理解してはいるけど、鎧への未練が消えたわけではないらしい。
まだ時折チラチラと鎧へ視線を向けている。
まあ、もろファンタジーな鎧だしね……気持ちは分かる。気持ちは。でも無い袖は振れないって言うしー……ん?
何やら店員さんが俺の顔をチラチラと見ていたような……なんだろ?
「……宜しければこちらもお付けしますよ。もちろんお代はいりません」
なぬ。
店員さんからまさかのおまけがっ。
いや、嬉しいけど……嬉しいけど良いのだろうか?これ、たぶんこの店内で一番高い鎧だよ?
中村はうっひょぉおああ!って喜んでいるけど……おまけして貰う理由が分からない。
「島津さんにはお世話になっていますから」
と、俺が戸惑っていると、店員さんがニコリと笑って小声でそう言った。
なるほど。
俺が島津だと知っていると言うことは、もしかするとタダの店員じゃなくて、開発に関わっていた人なのかな。それも結構偉い立場の人。
「今後ともよろしくお願い致します」
そう言うことなら……と有難く受け取っておく事にした。
タダより怖い物はない何て言うけど、試作品の時はかなーり頑張ったし、そのお礼だろうと思うことにした。
で、購入なんだけど。
「どーよ!」
買う前にサイズあっているか確認しないと……って事で試着してみた訳ですが。
「ほー……率直な感想としては」
「おう」
「似合わねーなと」
「率直すぎない!?」
コスプレ臭がすごい。
鎧に着られていると言うか何というか……中村には悪いけど似合ってなかった。
これが戦国時代に出て来るような鎧兜であれば、まだマシだったかもだけどねー。
その辺りは扱ってなかったよ。
「まあ、顔隠せば問題ないね」
ただまあ顔をフェイスガードで隠せばコスプレ臭は大分減る。
「くっそー……てかそう言うお前はどうなのさ?」
「まあその内見せたげるよ」
「おう、楽しみにしとくわ!」
……そう言っておいてあれだけど、俺の見た目って端から見るとどうなんだろう?やっぱコスプレ臭凄いのかな……ドラゴンの素材で改造する前はそうでもなかったんだけど、改造してからは……どうしよ、なんか急に恥ずかしくなってきたぞ!?
これはあれだ、隊員さん達の装備もドラゴンの素材で改造して、ついでにバカ村の装備も改造してしまうか?それなら俺一人だけ浮くことも無いし、隊員さんは迷彩服が目立つことも無くなるし、中村は装備が強くなってハッピー。一石二鳥どころか一石三鳥ではなかろうか?
よし、それでいこう。そうしよう。
「そんじゃそろそろ良い時間だし、集合場所いこっか」
装備も買ったし、今後の方針も決まった。
あとは顔合わせしてしまえば今日の予定は完了だっ。
「おう!……あ」
「ん?」
俺の言葉に勢い良く返事を返した中村だが、急にあっと言ったかと思うと、黙り込んでしまう。
どうしたんかな?
「あのぉ……すみません、島津さん。ちょっとお金貸して頂けると嬉しいなあ、なんて。へへっへ」
「なに急に気持ち悪い……てか友達から金借りるのは無いわって言ってたのはどこ行ったし」
「いや、ギリギリで買えると思ったらつい……」
急にごますり出した中村だが、さっきの買い物でお金をほぼ吐き出してしまったらしい。
ATMから出せる限度額を出してしまったので、今日はもう出せないとか何とか……締まらないなーもうっ。
しょーがないのでお金貸して上げることにしたよ。
トイチでなっ。
「まじかよぉ」
「ハハハッ」
どーだろうねー?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます