第154話
ま、それは置いといて。
とりあえず集合場所である駅前に向かうと、ちょうどスマホに着信があった。
「はい島津ですー」
相手は都丸さんである。
ちょうど向こうも駅についたらしく、こちらを探しているとのことだが……。
「駅を出てすぐの右側の柱……あ、見つけた!」
言われた方へと視線を向けると、妙にガタイの良い連中……隊員さん達と目があった。
全員来られるか分からないって話だったけど、全員揃ってるね。
あれだけ揃ってると中々目立つなあ。
「お待たせしましたー」
「やっほー、島津くん~」
隊員さん達のもとに向かうと、北上さんが笑顔で手を振ってくれた……なんかあのポーションの件以来、ちょっと距離が縮まった気がしますねっ。
決して俺の妄想ではないと思いたい。
「いや、ついさっき来たところだ……そちらの彼が?」
「はい、友達の中村です」
っと、俺も加わってさらに目立つ集団になってしまったし、挨拶済ませてささっと飯屋に移動しよっと。
「……」
「おーい?」
って、中村の反応がないぞっ。
どうした?と思って振り返れば、なんか凄い驚いた顔をしていた。
どういう事なの。
「あっ、すんません!中村です!よろしくお願いしますっ」
俺の問いかけにはっとした中村は、そう言いながら頭をがばっと下げる。
そして、顔を上げると今度は俺に手招きしだす。
なんぞなんぞ。
「何?どしたのさ」
一体何だよー……と近付くと、急にがっと肩を組まれ、首をロックされた……え、まじでなんぞ。
「おいぃぃ、島津ぅ!あれはどういう事だっ!?」
「なにがさ」
「なんであんな綺麗な女の人居るんだよ!」
…………。
あ、はい。
「え、だってそりゃ一緒に潜るメンバーだし」
「違えよっそんなの分かってるわ!この裏切り者めがっ」
知らんがな……急に裏切り者とか言われても困る。
まあ……言いたい事は一応わかる。
同じ学校だった訳だし。
全ての学校がそうと言う訳では無いだろうけど、工業系な学校だったもんで男女比がね、悲しい事になっていた訳ですよ。
他校との交流もそんな有るわけでもなく、当然出会いなんて何それおいしいの?状態だったので……それが急に俺の名前を呼んで手を振る女性が居たもんで、びっくりしたと。
だが中村よ。
「いや、中村だって働いてるんだし……ないの?出会い的なの」
中村だって学校卒業して就職している訳で、前とは環境違うんだし出会いの一つや二つあってもおかしくは無いと思うんだ。
「ねえよ!野郎とおっさんと爺さんしか居ないんだぞ。出会いなんぞあってたまるかっての」
ごめん。
「あったら地獄だね」
「ほんとだよ!」
ほんとごめん。
「えっと……」
中村の肩をぽんぽんと叩いて慰め……そっと振り返ると皆さん苦笑いしてらっしゃる。
一応小声で俺にだけ聞こえるように話してはいたんだけど、ばっちり聞こえちゃってたようだ。
「……それじゃ行きましょか。場所は……こっちかな?」
そう言って歩き出すと、皆特に何も言わずについてきてくれた。優しい。
あと何人かの隊員さんが中村の肩をぽんぽんと叩いていた。すごく優しい。
そんな感じで歩くこと数分、俺たちは目当ての店へと着いていた。
ちなみに都丸さんのお勧めの店である。
ちょっと洒落た感じの洋食屋さんで、10人ぐらいが入れる個室もあるそうな。
こういう店行ったりしてるんだねえ、ちょっと意外だ。
「なるほど。普通の装備にしたんだな」
「ええ、予算的にやっぱ厳しくて……たはは」
「なに、低レベルで深い階層に行かなければ問題ないさ」
お店に入り、適当に注文を済ませて乾杯をし……あ、もちろん俺と中村はノンアルコールね?んで、乾杯を済ませたあとは簡単に隊員さんの自己紹介を済ませて、あとは適当に喋ったり飲んだり食ったりしていたのだけど、やっぱ話題はダンジョンの事が多くなる。
個室だし、周りに聞かれないからね。
「そう言えばレベルとかあるんですね……カードとかポイントも。何というか、その、ゲームみたいですね」
「システム的にはゲームみたいなもんだな」
「でも攻撃食らうと痛いし、怪我もするからねー」
中村がそう思うのも仕方ない。
なにせダンジョンマスターがゲームとか参考にしちゃってる訳だからね。
でも北上さんの言う通り攻撃くらうとくっそ痛いので、装備はしっかり整えないといけない。
やはり色んな意味でドラゴンの素材で改造するのは必須だろう。
あ、隊員さん達にも話しておかないとだな。タイミング見て話しておこうか。
中村にはー……飯食い終わったらでいいかな?
てかそもそも中村に話して通じるのだろうか?情報規制がどこまでなくなったかに寄るけど……隊員さん達何か知ってるだろうか。
「ふと気になったんですけど、情報規制無くなったんです?」
と言う訳で聞いてみよう。
「いや、そう言うわけではないぞ」
あら?そうなんだ。
「そうっす!確か…………あれ?」
「うぉい」
「忘れんなしー……えっとねえ。せっかくトライアルやるんだからって事で、情報規制についても色々変えてるらしいよ。例えばこの近辺の参加者はほとんど開示して、逆に東京だとまったく開示しないとか?」
「参加者の様子を見て最終的にどうするか決めるんだとさ」
「っへー!」
なっるほどねー。
その辺もトライアルしちゃうのか。
あ、ちなみに今のっへー!ってのは中村ね。
今の情報だけで理解してるのだろうか?してない気がしなくもないけど。
まあ、良いや。
「説明する分には楽で助かりましたね」
中村に説明するときに伝わらないと面倒だしね。
ほかの地域だとその辺面倒なことになりそう……こちらには関係無いがなっ。
がんばれ他地域担当の人。
「あと気になっていたことが一つありまして」
ん?
「皆さん相当体鍛え込んでますけど……それってもしかして?」
そういや教えてなかった。
「ああ、そうだった。中村くんも潜る前に鍛えた方が良いだろうな……島津、頼めるか?」
もちろんですとも。
「良いですよー。外でやると目立ちそうだし、家のダンジョン使うかなー?」
その辺のジムとかでやったらえらい騒ぎになるだろう。
まずは家のダンジョンでやってもらって、その後は筋トレ道具を貸し出して家でやってもらうかな。
「家の……?」
「ああ、家の庭にねダンジョンできたんよ」
「まじかよっ!?ずっる!」
偶然だからしょうがないジャナイー。
と、まあそんな感じでお腹いっぱいになるまで食って飲んで喋ってと過ごしていたのだけど、さすがにそろそろ良い時間だと言うことでそろそろお開きにしようと言う流れになる。
「それじゃ二人とも気を付けてな」
「はーい、皆さんもお気を付けて」
「次会うときまでに鍛えておきます!」
隊員さん達に元気よく手を振る中村。
やる気があって良いことですね。
「んっし、俺たちも帰るか」
「おう!」
「明日からやんの?」
「やるやる!」
明日は……日曜だからいいのか。
体を鍛える、それもダンジョン内でと聞いて、中村は相当やる気に満ちているようだ。
トライアルの開始まであと3週間ってところだし、その間可能な限り鍛えてしまおうか。
「そんじゃ家の近くに来たら連絡ちょーだい。たぶん止められると思うからさ」
「おっけ」
家のダンジョンは首相たちも利用するし、隊員さん達を鍛える場みたいになっているので、相変わらず人は近寄ることは出来ない。
ただ俺がいれば別なので、中村も問題なく入る事が出来るだろう。
ああ、そうそう。
首相たちだけどね、さすがにここ最近は忙しすぎるらしくダンジョン内で見かけることは無くなっているよ。
朝休憩所にいくと、コーヒーの残り香があるので宇佐美さんあたりは来ているかも知れないけどね。
それでも早朝を避ければばったり会うことは無いだろう。
「そんじゃ今日はありがとな!明日もよっろしくぅー!」
「おー……元気いいなあ」
テンションあほみたく高いね。
明日は一応ダンジョンに入るけど……興奮し過ぎて倒れないと良いけども。
「さて帰るかー」
家でクロが留守番しているし、帰って今日のことを報告しないとね。
「クロただいまー」
玄関の戸をガチャリと開けると、すぐそこにクロの姿があった。
音で俺が帰ってきたと分かったのだろうか、出迎えてくれたのだ。
うにゃんーと鳴いて、頭をぐりぐりとこすりつけてくるクロ。
一日ずっと留守番は寂しかったのかも知れない……次長時間家を空けるときは、連れて行くようにしよう。普通の猫と違って大人しくしてね、と言えばその通りにしてくれる訳だし。
うん、そうしよう。
とりあえずは寂しい思いをさせた分おもいっきりかまって上げよう。もちろん嫌がらない範囲でね。
「明日ねー、俺の友達が筋トレ用にポーション取りに来るんだけど、その時にクロのこと紹介しようと思うんだ」
クロの喉を撫でながら今日の出来事を話す俺。
グルグルと喉がなっているので撫で加減は良いみたいだ。
「向こうは一応クロの事は知っているだろうけど……ん?そそ、前に話した別ダンジョン一緒に潜るメンバーだよ。潜る前に筋トレだけ済ませておこうと思ってね」
誰そいつ?みたいな顔をして、こちらを見上げてきたのでざっと説明をしておく。
一応顔は見たことあると思うんだけど……いや、寝てるか別の部屋に引っ込んでいたから見てないか?
「んん?戦わせなくていいのか?……あー、そうだね。それが良いかも知れない」
俺は筋トレだけさせるつもりだったけど、クロはそうではないようだ。
どうせ来るのであれば、モンスターと戦わせてしまえとのこと。
どうせいずれ戦う事になるのであれば、今のうちにここのダンジョンで慣れておいたほうが良いだろう。
そこまで期間はないけど、多少レベルも上がるし中村のがんばり次第ではチュートリアル突破も不可能ではない。
中村一人に集中すれば良いので、たとえ潜れるのが土日だけだったとしても良いところまで行くはずだ。
まずはネズミを1000匹狩って、次の階層。
そこでもウサギを1000匹狩って……うん、3週間あればチュートリアル突破いけそうだ。
ポーションはいくらでも用意出来るからね。いくらでも。
明日が楽しみだ。
そして翌朝。
近くまで来た中村から電話を受け無事中村を回収した俺は、さっそく中村を連れ庭にあるダンジョンへと向かう。
「……ここが?」
「そう。頭ぶつけないようにね」
アマツが入り口用意してくれたから、這いつくばる必要はなくなったけど、まだちょっと小さいんよね。
「いや、まったまった」
「ん?」
まずは俺が先行して……と、ダンジョンに入ろうとしたところで中村から待ったが掛かる。
忘れ物でもしたか?
「猫ついてきてんぞ」
あー。
「クロも一緒に潜るから問題ないよ」
クロも連れていくって話して無かった。
俺がクロも潜ることを中村に伝えると、中村は慌てた様子で顔の前で手をブンブンと振る。
「いやいやいやダメだろっ」
「このダンジョン見つけたのクロなんだよね。で、俺が知らない間ずっとソロで潜ってたんだ」
「……まじ?」
「まじ。だから大丈夫」
まあ、普通はダンジョンに猫が潜るとか考えないよね。
でも俺がはっきりと言い切ったので一応は信じてくれたようだ……いや、半信半疑って感じかな?
クロより先にダンジョンに入ったのは、何かあった時にクロを逃がすためだろうか。
基本良いやつなんだよね。もてないけど。
「おぉぉぉ……すっげ、まじでダンジョンだ」
ダンジョンに入った中村は、目の前に広がる通路を見て感動したように震えていた。
ふそしてらふらとしながら誘われるように通路を進む中村であるが……。
「そっち行くとモンスターでるよー。こっちこっち」
「ちょ、ま、まっ」
そのまま進むとネズミ出てくるからね。
それはそれで刺激的で良いかも知れないけど、やっぱ筋トレが先だよね。
例え一日だとしても全力で筋トレをすればかなり筋肉はつく。そうすれば武器も問題なく振れるようになるはず。
ネズミとの戦闘はその後だ。
……そういえば中村はどんな武器買ったんだっけかな。
後で確認しておかないとだ。
「んじゃこれポーションね」
「……おう?」
休憩所に入り、あらかじめ用意しておいた大量のポーションをどんっと渡す。
中村は思わず、と言った感じでポーションを受け取るが、どうしたら良いか困惑しているようだ。
いま説明するよっと。
「それ傷にかけると傷が治るんだけど、飲んでも効果あるんだよね」
俺の言葉にはーとか、ほーとか返す中村。
「飲んだ場合はスタミナも回復するからさ、ポーションある限りエンドレスで筋トレ出来るの」
「……まじ?」
まじやで。
「まじ。短期間で一気に筋肉ついたのはこれが理由ね。ま、試しにちょっとやってみたら?ほい、ダンベル」
自分で思いついといてなんだけど、これまじで反則だよね。
中村もこれがあれば短期間で首相たち並み……は無理でも、筋トレ1年続けたぐらいにはなるだろう。
首相たち?あれはもうやばいよ。とても60前後の老人とは思えない肉体してる。
全員が全員って訳じゃないけど、一部の人はまだ筋トレ続けてるからね……もうスーツ特注じゃないと入らないんでないかな?
ま、それは置いといて。
とりあえず中村に筋トレ道具を渡してさっそく筋トレしてもらおう。
「お、おう……おもっ!?」
その辺に置いといたダンベル……20kgぐらいの奴かな。それをほいっと中村に手渡すが、中村の腕では支えきれず、危うく床に落としそうになる。
「こっ、んなのっ……持ち上がらんって!」
何とか持ち上げようとするが……さすがに片手は無理なようだ。両手で何とか持ち上がるといった具合である。
「じゃ、ポーション飲んで続けて。持ち上がらなくてもいいから全力で力込め続ける」
「むう……」
とりあえず飲んでみいと進めると、中村は特にためらうことなくポーションの中を煽り、腕に力をこめる。
……てか、結構あれな青色してるのによく躊躇せずに飲めるな。進めたの俺だけどっ。
で、そのまま暫く力を込めていると……徐々に腕が持ち上がっていく。
そして、ついには腕を上げ下げ出来るようにまで至る。
まるでちょうど良い重さだったかのように。
「どう?」
「こんなの反則じゃんっ!?」
デスヨネー。
まあ、とりあえず午前中いっぱいは筋トレして貰うことにしたよ。
んで、ただぼーっと眺めているのも暇なので、雑談ついでに中村の武器について聞いてしまおう。
「そういえばさ」
「ん?」
「どんな武器買ったんだっけ」
「超ごっつい日本刀みたいなやつ……あれ??」
俺が尋ねると、中村は持ってきていた装備の入った荷物一式を開こうとして首をかしげる。
「あー、入り口に落ちてるかもね」
「なんでっ!?」
武器だけ入り口ではじかれて、落ちてるんじゃないかな。
身に着けていたらダンジョンに入れないけど、中村は身に着けずに箱に入れてたから箱だけ落ちたんじゃなかろうか。
あ、ちなみにだけどね。
ダンジョン用の武器は専用のケースに入れることで持ち運び出来るようになってるよ。
じゃないと逮捕されちゃうからね。
「刃渡りがアウトなのか」
んで中村の武器だけど、刃渡りが結構長いんだよね。
だから極小ダンジョンではNGだったみたい。
……ふむ、どうしようか。さすがに武器なしだと……あ、あれあったな。
どこかに仕舞っておいたはずだ。
「これあげるよ、貰いもんだけど俺は使わないから、中村使っちゃって」
「おお!……いいのか?結構良さそうなナイフだけど……」
「使わんからね。死蔵するよりはずっと良いから」
そう言って中村に渡したのは例のアメちゃんの兵隊の件で、わびとして貰ったナイフだ。
物としては良いんだけど、俺は使わないから仕舞ったままだったんだよね。
最初に使う武器としては十分だろう。
肉厚で丈夫そうだし、切れ味もよさそう。
そして午前中の筋トレが終わり、中村の全身に程よく筋肉がついたところで。
「それじゃ試し切りしようか」
「……」
実戦だよー。
すっごい絶望感いっぱいな顔しているけど、実戦だよ。
「大丈夫、ここの敵むちゃくちゃ弱いから。猫でも勝てるぐらいだし」
「そ、そうか……」
猫でも勝てると聞いて、いくぶん顔色が戻ったね。
まあ……実際猫でも勝てるんだけど、問題は生き物相手に殺す気で攻撃出来るかなんだよな。
モンスターと遭遇すれば、問答無用で襲われるから、そうなれば嫌でも戦うとは思うけど、それは精神衛生上あまり良くない気がする。
「それじゃまず俺たちが手本見せるから参考にしなよ」
「わりぃな」
「いいって」
と言うわけでまずは俺たちが戦って参考にしてもらう。
ネズミとの戦闘は、まず噛まれる前に攻撃出来るかが肝心だ。
そのあたりを分かりやすいように見せてやれば、中村もスムーズに戦う事が出来るだろう。
たぶんね。
と言うわけで早速行くぞう。
「この階で出るのはでかいネズミで、こっちを見つけると襲い掛かってくるよ……あんな感じで」
道中出てくるモンスターについて説明していると、すぐに曲がり角からネズミが現れこちらへと向かってくる。
後ろで中村が後ずさる音が聞こえるが、構わずに続ける。
「で、襲い掛かってきたら……こうカウンターをいれる」
まず俺に向かってきたネズミに向かい、軽く蹴りを入れる。
ネズミは爆散した。
「そしてこう」
そしてクロに向かっていったネズミにはクロが前足をちょちょいと振るう。
ネズミは細切れになった。
「参考になった?」
「なるかボケェッ!?」
ハハハッ。
その後、手加減に手加減を加え、なんとか中村が見える程度の速度でネズミに蹴りをいれる事に成功した。
「まあさっきは試し切りって言ったけど、複数相手にしなければ蹴りだけで終わるからねー」
その光景を見ていた中村は無言になっていたけど、次は君がやるんじゃよ?
まあ、顔色は悪くなってないからいけそうな気はするけど……大丈夫かな?
一応聞いておくか。無理させるのは不味いし。
「……大丈夫?気分悪いとかない?」
「ん?ああ……今のところは平気みたいだ。さっきのお前らが衝撃的過ぎて、気持ち悪いとかどっか行ったわ」
それは良かった?
「そっか、それじゃあ……とりあえず1000匹ぐらい目標に頑張ってみようか」
「多すぎるわっ!?」
そんな事はない……と思う。
実際、俺とクロがサポートするし、装備だって俺の最初と比べたら良いし……あー。
「いけるいける……あ、そうだ忘れてた」
「何をっ!?」
「いや、中村の装備強化しちゃうから、ちょっと貸してもらっていい?」
「へ?あ、どうぞ」
装備の改造すんの忘れてた。
とりあえず中村から装備を受け取ってと。
「見た目は変わっちゃうけど平気?」
改造と聞いてもピンときてなさそうだし、見た目変わって大丈夫か一応確認をとろう。
たぶんダメとは言わないと思うけど。
「ん……まあ強くなるんだろ?なら問題ない……てかいいのか?その改造?とかもポイント使うんじゃないのか?」
「ぶっちゃけポイントも素材も余ってるし問題なし。気になるなら後で返してくれればいいよー……ほおい、できた」
中村の許可も出たし、ささっと強化を済ます。
見た目はあれだね、西洋風な普通の皮鎧だったのが、色が黒っぽくなって表面に鱗の模様が浮かんだり、所々甲殻のようになってたりする感じ。
俺の装備とそこまで見た目は変わらないね。
「もう出来たのかっ?……すっげ!これ……鱗とかか?トカゲか何かか?」
「ドラゴンのだね……あとこれも付けておいて」
「ドラッ!?…………え?」
ドラゴンと聞いて驚愕する中村に、もう一つ装備を渡す。
これは昨日の内に用意しておいたものだ。
「それも必須装備だから」
猫の尻尾は俺や隊員さんと装備の見た目を揃えるのにも、装備の性能的にも必須だからね。
チュートリアル突破する前につけるのは反則気味な気がしなくもないけど、まあ構わないだろう。
「いやいや御冗談を……え?おま、え??」
冗談?何を言ってるの。必須装備だよ。
「……嘘だろ、オィ」
そうして中村は、今にも消え入りそうな声を発し……震える手で尻尾を受け取るのであった。
そして、あっという間に3週間が過ぎ、トライアル当日の朝を迎えた。
「この日がついに来たか……」
「人多いな!」
俺とクロ、それに中村は会場である市内で一番大きな建物を見上げ、そしてそこに集まる人の数を見て驚きの声を上げていた。
建物前の広場はトライアル参加者で埋め尽くされている。
正確な人数は聞いていなかったが……まだ来ていない人数も考えるに数百人単位で居るのでは無いだろうか?下手すると三桁いってる可能性もある。
凄いなーとか考えながら、人々の様子を眺めていたが、ふいに背後のざわつきが大きくなる。
「あ、隊員さん達も来たね」
何事かと振り返れば、そこには隊員さん達の姿があった。
全員がかなりガタイが良いし、それに何よりフル装備である。
もちろん回りの参加者もダンジョン用の装備を着込んではいるが、隊員さん達の姿はやはり目立つようだ。
そして隊員さん達に漏れることなく、俺とクロ、それに中村もフル装備である。
ちなみに何故フル装備でいるかと言うと、トライアルは午前中は講習を行い、そして午後からダンジョンに潜るためである。
もちろん初日と言うこともあって、自由行動は出来ないし、引率の教官役の隊員さんの後をついて行くだけだが……それでもダンジョンに潜る以上はモンスターと遭遇すると考えられるので、全員が装備を付けているのだ。
「待たせたな」
「いえいえ来たばかりです!」
「……」
「島津くんどしたの?」
「あ、いや。こうして全員揃うと壮観だなーと思って……うん、揃えて良かった」
こう、意匠を合わせた集団が居ると、中々に迫力があって良い。
中村が若干見た目が違うが、それでもドラゴンの素材で強化しているため雰囲気は同じ感じである。
あ、隊員さん達の装備もドラゴンの素材で強化済みだよ。
だから俺とは色違いの装備になっている。
ああ、後は猫耳つけてるのは俺だけね。
やっぱあれはかなりレア装備だったらしく、隊員さんもまだ出てないそうだ。
代わりに他のレア装備が出てはいるが……ま、それは後のお楽しみと言うことで。
「そうだねー。これなら自衛隊ってばれないし、助かったよー」
自衛隊の迷彩服とはかけ離れたデザインになってるからね……これを見て自衛隊の装備だと思う人はまず居ないはず。
まあ、自衛隊とはばれない代わりに目立ってはいるんだけどね。
たまに俺たちにスマホを向けてくる人がちらほらと……フェイスガード付けておいて良かったと思う。
顔バレは防げるだろう。
「よっし、まだ早いですけど行きますか?」
このまま周りの視線を受け続けるのも嫌なので、皆に会場に向かうよう提案をする。
「そうだな、混む前に行ったほうが良いだろう」
皆まわりの視線を集めている事は分かっているのだろう、特に判定意見も出ないので俺たちは会場へと向かう事にした。
クロを先頭に歩を合わせて進むと、人垣が割れ道が出来る。
……思ってた以上に俺たちの姿は目立っていたらしい。
まさか逃げるように人が避けていくとは……まだトライアルも始まってすらいないのに……と、ちょっぴり不安になる俺であった。
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