第123話

そうだった、電話でないといかん。

とりあえず口の中を空にしてと……。




「島津さん。明後日の午前中空いていますか?」


「空いてますよ。次の階層行くんですか?」


都丸さんの電話は、やはり次の階層に行く件だった。


「ああ、カードも揃ったし、オークも安定して狩れているからな」


「分かりました。準備しておきますね」


そっか、オークが安定して狩れるようになったかー。

なら次の階層行っても問題はない、かな?


でも相手は牛さんだからなあ。

たぶん隊員さんは強化素材で装備を改造してないだろうし、ちょっち苦戦するだろうね。


……念のためオーク10体と戦って本当に無傷で行けるか確認してからにするかな。

行く途中で戦闘する事にはなるし、その時見るとしよう。


あとは……牛さんは特殊能力もちだからなあ。言葉で説明してもピンとこないかもだし、事前に動画とって見せようかな?やばい時は俺とクロがすぐ助けに入るつもりだけど、間に合わないかもだし。


事前に十分警戒して貰っていれば危なくなる可能性だって減るだろう。




んで、翌日。


「と、まあこんな感じで瀕死になると急に強くなるんですよ」


昨日さくっと撮ってきた動画を隊員さん達に見せる俺。

ちなみにメンバーは都丸さん、大野さん、太田さん、吉田さんである。

残りのメンバーは午後からだそうなので、そっちはそっちでお手伝いするつもりだよ。


「俺の場合はレベル高めだったのと装備が特殊なんで、突進受け止められたんですけど……そうでなければ受け流すか、躱すか……それとも複数人で止めるのが良いと思います」


そう言って隊員さん達の方を見るが……みんなあまり良い表情はしてなかった。

まあ素でオークより大分強いのに、瀕死になったら一気に強くなるからねー。オークは楽勝だとしても厳しいものだあるだろう。



「……あの巨体と勢いを躱すのはまず無理だろうな」


「受け流すのもむりっすよ!絶対吹っ飛ばされますって」


「二人で確実に止めた方が良いかも知れんな」


画面ではなく、横に視線を向けながらそんな感じで話す隊員さん達。


実は実物も見た方がいいだろうと、丸ごと1頭持って帰ってきてたりするのだ。

マーシーにお願いして冷凍して貰ったやつだけど、その大きさなんかは良く分かるはずである。


1トン余裕で超える巨体が、それこそ目で追えないような速度で突っ込んでくるんだもの、そらそんな反応になりますわ。



だけど、頑張って戦って勝って貰わないといけない。

と言うわけで、さっそく出発するとしよう。


二人で止めれば行ける行ける。







「う、おぉっ」


「がっ」


ほら行けた。

吉田さんと太田さんが前にでて盾で牛をがっちり……がっちりでは無いかな。

余裕がない訳では無いけど、これ牛が瀕死になったら受け止めきれない気がする。


「二人でギリギリ……三人前に出た方が良いかもです」


たぶん二人じゃ抑えきれないかなーってことで三人で抑えるように言っておこう。

すると都丸さんが盾を構えて前に出た。これなら一人が崩れても、残り二人がどうにかするでしょ、たぶん。


戦闘のほうは、とりあえず盾持ち三人いれば安定して牛さんを抑えることが出来るので、あとは大野さんが盾の後ろからガンガン攻撃しまくって、手傷を負わせていく。

ここまでは順調である。


問題は瀕死になってから……傷と出血からいってそろそろ瀕死になると思う。



そして、いい感じに大野さんの攻撃が首にぐさっとぶっ刺さり、牛さんの目が真っ赤になった。


瀕死になってからの牛は本当に強い。

盾を構えて攻撃を防ごうとするが、ターゲットになった人間は手傷を負いながら飛ばされていた。


今のところ大きな傷は負っていないが、それも時間の問題である。


「こ、こいつっ」


「この野郎!馬鹿力だしやがって!」


「止め!早く!」


「うっす!」


ただ、パワーアップした牛さんだけど、瀕死には変わりないので……追加で数発入れれば倒せてしまうのである。

その数発入れるのが大変そうだけど。




俺とクロの出番もなく、無事?戦闘を終えた隊員さんはナイフを手にし、牛さんを解体し始める。

これで隊員さんも牛さんのお肉をゲット出来るようになったね。


毎日BBQしよう。



「こいつキツ過ぎるんだが……」


お肉が手に入るようになって、隊員さんも幸せ!かと思ったが、あんまそうでもなさそう。

まあ倒すの大変そうだったしなあ……。


「島津さん一人で止めてたんすよね?」


「レベル差か装備差か……両方か」


「強化素材で靴改造してたんで、それが大きいかもですねー」


レベル差もあるけど、やっぱ強化素材の有無がでかいと思うよ。

まじで靴の効果はやばいからね、普通は止められない牛さんの突進も一人で止められたし。


……冷静に考えると、あんだけ重量差ある相手を止めるってやばいよね。

てか隊員さんが二人で止めたのもおかしい。


なんかこう、ダンジョン特有の不思議パワーでも発揮してるんだろうか。



「やはりか」


「またあれやるんすか……?カードの時あんだけ苦労したのに、むりっす。もうむりっす!」


トラウマなってますやん。


「あれは狙って取るもんじゃないですねー。カードはまだ良いですけど」


てか強化素材は狙うものじゃないと思う。

カードで0.1%の確率だとしたら、強化素材は0.01%とかそんなんだと思うよ。

狙ってだせとか心が死んでまう。



そんな感じで一人だけ精神があれだったけど、無事隊員さん達も10階に到達することが出来た。

もちろん残りのメンバーもね。


この調子でがんがん攻略進めてくれると嬉しいな。

進んだ分だけ一般開放が早まる気がするし。


とまあ、そんな感じでその日は皆で初討伐した牛さんでBBQして解散となったよ。




そして月日は流れ……ってほど時間が経った訳じゃないけど。

9月の初旬の金曜日、俺は自宅のベッドの上でゴロゴロと転がり、天井を見上げてはため息をついていた。


「あー……やだなあ」


例のアメリカのお偉いさん方が来る日が迫っていたのだ。

ていうかやっぱ本当に会うことになってしまったのだ。


俺に会うために時間割くとかまじ勘弁してほしい。



しかし、首相からのお話を受けてしまった以上は会わない訳にはいかない……日程も組まれてしまった。

会うのは月曜日の午前中。場所はまさかのダンジョン内だ。


ちなみに入り口はまだあのままです!

もうその時点で帰りたい気持ちでいっぱいなんですが、それは。

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