第124話


「事前に原稿もらったから大丈夫とは思うけど……」


まあ、なんか事前にこんなん話すぜって事で、原稿っぽいの貰ってたりはするから、特に問題は無いはずなんだけどね……。


ただ緊張して原稿の内容が頭から全部ぶっ飛ぶそうで怖い。



「クロはいいなあ……俺の代わりに出ない?」


俺がベッドで転がる傍らで、クロもベッドの隅で丸くなりくあぁっと大きく欠伸をしている。


代わりに出ない?と聞くが返事は無い……尻尾を面倒臭そうにぱたんぱたんと振ってはいるので、聞いてはいるみたいだけどね。


……まあ、アメリカのお偉いさんに猫を合わせてどーすんだって話ではある。

やっぱ俺が対応するしかないんだろうなあ……憂鬱である。






当日の朝になり、どうにも落ち着かない俺は気持ちを静める為に、ダンジョンへと向かっていた。


「……やっぱ入り口変わってないし」


間に合わないとは聞いていたけれど、実はもう変わっているんじゃ?って内心期待していたダンジョンの入り口……石造りの階段がっ!とかそんな事は無かった。。


これでアメリカのお偉いさん方も、這いつくばってダンジョンに入ることが決定してしまった。

ダンジョン外でやれば良いのにと思わなくも無いが、たぶんアマツとも会談するつもりだろうし、ダンジョンに入る必要があったのだろう。




とりあえず16階あたりで狩りでもしようかなーと思い、休憩所へと向かうと……そこには先客がいた。



「あれ?誰かいる……アマツさんと宇佐美さん?」


「やあ!いらっしゃい!」


「おう、邪魔してるぜ」


珍しい組合せだ。

他の人は……居ないな。宇佐美さんだけどうしたんだろ。


「まだ時間には大分早いですよね、何かあったんですか?」


「なに、始まる前にカフェで一杯飲んでおこうと思ってな。お前さんこそどうした?」


お茶しに来ただけかいっ。


まあ、確かにここは人目を気にせずゆっくり出来るし、居心地は良いだろうから気持ちは分からんでもない。


もっと施設を充実させたら、下手すりゃダンジョン内に住み始めるかも知れないね。

月~金はダンジョンで過ごして、土日は家に帰る。みたいな。



っと、俺がダンジョンに来た理由ね。


「いやー……落ち着かないので一狩りしてこようかなーと」


よく考えると、どういうことなの?ってなりそうな理由だな。

落ち着きたいのならお茶でも飲んでいけば良いのにと……狩って気持ちを落ち着かせるとかなんかヤバい人みたいじゃん。


「それはそれで凄いな」


「ははは……ん?」


ソーデスネ。


とりあえず笑って誤魔化して……っと、なんか足音が複数聞こえるな。


「む?俺以外も来たか?」


なるほどね。

他の人も会談前に茶でもしばいて行こうかと、そう言うことか。



「ほかの人たちもカフェ目当てです――」


そう言いながら音の方へと顔を向けると、丁度向こうも休憩所へと入ってくるところだったらしく、ばっちり目が合った。


てか、え?


「ハロー。宇佐美副総理。アマツさん」


「――っ」



てっきり首相とか大臣らがやって来るかと思ったら。

顔を出したのは俺の知らない……いや、知ってるけど妙にガタイが良くなって、まるでシ〇ワちゃん見たいになったアメリカの偉い人だった。それに後ろにゾロゾロと黒服が居る。




なんでっ!??

てか、通訳どこぉっ!!


宇佐美さん、宇佐美さんなら英語喋れるよね???

タスケテッ!



「そしてあなたが島津さんデスネ?」


「あいきゃんのっとすぴーくいんぐりっしゅ!」


はわゆー、あいむふぁいん、せんきゅー。

ぐっどばい。




そこまで言って狩りに行こうとしたら宇佐美さんに止められた。

可哀想だろ。俺を離してあげてっ!?





とりあえず宇佐美さんが話してるので、俺にこれ以上話し掛けてくる事はなさそうだ。


てか宇佐美さんやっぱ英語いけるんだな。

当然っちゃ当然なんだろうけど。



「もー……勘弁してくださいよぉ。通訳も居ないのに話しかけられても困りますって」


まじふぁっきん。

てかね、普通の英語教育しか受けてない日本人が、現地人の話す英語を聞き取れる訳ねーのですわ。


もうね、耳から入ってそのまま耳から出ていく感じ。

なんなら色んなもの引きずり出しながら出て行くまである。




「もうね、あなたが島津さんと……日本語じゃねーか!!?」


「そうだよ」


この人、日本語話してたわ!


テンパりすぎだろ俺……アマツとか笑い転げてるし。

恥ずかしすぎてダンジョンに引きこもりたい。






「いやー……すんません、ちょっと焦ってしまって……」


「いや、こちらこそ失礼しました。アメリカ合衆国大統領のスクルージです。貴方と会えてとても嬉しく思っています」


そうニコリと笑みを浮かべ、俺に手を差し伸べるスクルージさん。

さっきの出来事は無かったことにしてくれたらしい。

まじ優しい。


でも後ろの黒服さん達ちょっと頬がヒクヒクしてましてよ?


アマツに至ってはまだ時折ふきだしてるし。



まあ、それはおいといて。て言うか忘れたい。


あとは俺の方から挨拶を返して、一言二言話して終わるはずなんだけど。

……どうもスクルージさんが原稿と違うお話を始めだしたぞ。やめてくんろ。



「……実は貴方に対してある噂があってね。その恰好から米軍の者じゃないか、と。でも会ってみてはっきりしたよ、貴方は間違いなく日本の方だ」


そう、俺の腰と頭に目をやって話すスクルージさん。

どこ見て言ってるのかな?


「ハハハ。俺……じゃなくて私がすぐ購入出来る物だと、この装備が一番まともそうだったんですよ。近所で買えたのは幸運でした」


実際、在庫合ったのは本当についてたと思う。

あれが無ければ攻略にもっと苦労していた事だろう。




……軽く雑談もして、そろそろ終わりかな?と思ったがこのスクルージさんどうもまだ話す気満々の様だ。


まじ解放してほしい。

てか目力すごいなこの人。


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