第83話

端末を片手で操作し、ナイフの購入をすすめる俺。


ちなみにもう片方の手はクロにがっしりと抑え込まれ、動かす事は出来ない。

なんでかと言うと先ほど買ってきたチュールを手に握っているからである。

さすがチュール、食いつきが違うぜ。


「クロは何か欲しいのないのー?」


チュールに噛り付いて離さないクロにそう尋ねると、クロは一瞬だけ口を離し、にゃあと鳴く。

だがすぐにチュールを食べるのを再開してしまう。


「ほいほい、チュールがいいのね」


端末のアイテムは要らないからチュールをよこせと言うことだ。

まだチュールはたくさん残っているし、クロには色々と手伝ってもらった。好きなだけ食べさせてあげよう。


まあ、限度があるけどねっ。




さて、クロにチュールを上げ終えたし、ナイフも必要なのはすべて買った。

翼とかはちょっとネタ装備になりそうだったので、残念ながら今回は見送ることにした。


無駄遣いは許しまへんでーっと、クロの突込みが入ってしまったのである。



買ったナイフは誘導の奴が1本と、あとは各属性ナイフを1本ずつ、計5本だ。

ポイントは余っているが、合計で125万とかなりのポイントを消費している。これで悲しい性能だったら……もうネタ武器しか買わなくなるかも。


「試し斬りするけど、クロはどうする-?」


そうクロに尋ねると、クロは口回りを舐めるのをやめ、動き出す。

どうやらクロも試し斬りに付き合ってくれるようだ。



試し斬りをどいつでするかだけど、とりあえずはゴブリンで良いだろうか?

15階に到達して買える武器なので、ゴブリン相手であればきっとオーバーキルになるはずである。

なってくれないと困る。




ゴブリンの要る階層に向かい、すぐの部屋を覗きこむ。

すると6匹のゴブリンが居たので、俺はここでいいかと荷物をあさりナイフを取り出す。


「んじゃ、まずは投げナイフから」


まずは誘導機能から試すか。

折角なので明後日の方向に投げてどうなるか見てみよう。


部屋の中に入ってはいないので、ゴブリンはまだこっちに気が付いていない。

ちょっち可哀そうだけど……あれ、そういや部屋の外から攻撃したらどうなるんだ?一斉に外に出てきたりするのかな?


まあ、試してみれば分かるか。


とりあえず振りかぶってー……そい!!



「おぉ! 曲がる曲がるぅ」


標的を決め、ゴブリンから体2つ3つ離れたところに投げたナイフは、手を離れてすぐに曲がり始めた。

カクッと曲がる程ではないが、それなりのRを描いて飛んで行ったナイフは、見事にゴブリンの後頭部に突き刺さって……貫通した。


根元まで刺さるかなーぐらいは期待していたけど、まさか貫通するとは思わなった。

えぐいわ。



んで、室外から攻撃を仕掛けたらどうなるかなんだけど、さすがにこっちに気が付いたらしく、ゴブリン達は一斉にこちらを向くと走り寄ってきた。


廊下よりは室内のほうが広くて戦いやすい。と言うことで、俺はゴブリンが室外に出てくる前に中へと飛び込んだ。



「さすがに真後ろは無理だな」


ゴブリンの攻撃をよけつつ、色々な方向へとナイフを投げてみる。

かなりの誘導性能を見せるナイフであったが、さすがに真後ろに投げたりすると、曲がり切れずに壁へとぶつかっていた。投げた勢いが無くなると、ナイフはそれ以上飛ぶのをやめ地面に落ちる。

目標に当たるまでずっと飛び続ける、なんてことは無いらしい。



「30度ぐらいなら当たると」


その後、何度もナイフを投げては曲がり具合を確かめていたが。相手との距離にもよるが大体標的に対して±30度ぐらいで投げると当たる感じである。それ以上角度をつけるとあたらない感じ。

距離感は何度か投げればすぐ覚えるだろう。


あとは威力の検証だが……。


「ゴブリンだと威力の検証は出来ないなあ……クロ、夕飯ステーキでいい?」


ゴブリンだと脆すぎるんだよね。

クロにステーキでいいかと聞くと、にゃーと返ってきたので牛さんで試してみることにしよう。

検証ついでにお肉もゲットである。


在庫はまだまだ一杯あるので……とりあえずサガリあたりでいいかな。



一度休憩所に戻り、そこから10階に行く。

牛さんはアクセスがもの凄く良いので、いいよね。美味しいし。


「んじゃ牛さんにナイフ投げてみよう」


そう言うと俺は小部屋の外からナイフを思いっきり振りかぶり、牛さん目掛けて投げつけた。

勢いよく唸りをあげて飛んで行ったナイフは、牛さんの眉間にあたると、スコッと言う良い音を立てて柄までめり込む。


もちろん即死である。



「柄までめり込んでるね……うん、刃こぼれも曲がりも無し」


残りの牛さんを倒し、ナイフを抜いて確かめてみたが、刃こぼれとか曲がっていたりとかすることは無かった。

強度的には十分だろう。威力も堅い頭蓋骨にぶっ刺さるぐらいなのでこっちも問題なしだ。



次は属性ナイフかな。

まずは火から試してみよう。


手に持つとじんわりと熱を感じるが……これ、ちゃんと効果あるのだろうか?

恐る恐る刀身に触れてみるが、熱くはない。


……敵に刺さらないと効果が発揮しないとかだろう。きっとそうだ。

そうじゃなかったらアマツにジ〇ギスカンキャラメル食わせる。



「お肉の焼ける匂いがする」


小部屋の外から牛さんに、今度はきっちり狙ってナイフを投げつけてみる。

するとナイフは後ろ足に刺さり、じゅぅ~っとお肉を焼く音が聞こえる。あと匂いも。


相当熱かったのだろう、切りつけたぐらいでは動じることのない牛さんがのた打ち回っている。

うまいこと使えば相手を牽制するのに使えそうな気がするね。


ただ切り口が焼けちゃうので、血が流れ出る事はないので、出血狙いとかするなら使わないほうが良いと思う。

出血狙いとかやったことないけど。



次は氷属性かな?


実はさっきから残りの牛さんがこっちめがけて突進してきてるんだよね。


とりあえず狙いやすい奴を標的に……そい!



「おぉ……ぱきぱきいってる」


今度は肩の付け根当たりにぶっ刺さった。

刺さったあたりから、ぱきぱきと凍り付いていく……やばいなこれ。心臓のそばに刺さったら即死しそう。


「氷も出血は止まる……あ、でも動き鈍くなるな」


氷も火と同じく出血することはない。

あと冷たいせいで痛みを余り感じなくなるのか、敵が痛みで怯んだりする事が無い。


ただがっつり冷やすからか、次第に相手の動きが鈍くなっていくので、これはこれで有用そうである。


あとアイスとか氷とか作るのに便利そうな気がする。

これ、外でも使えたらいいのになー。



最後は雷かな。


手に持つと、パリッ……パチッて感じで紫電が飛ぶ。格好いいけどちょっと怖い。

もっと派手にバチバチいってたほうが恰好良いけど、そこまで行くと持つ気にならないのでこれぐらいが丁度良いのかも知れない。



「おお、痺れて動けなくなってるのかな? 雷有用だな……水あるところで使ったらこっちも食らいそうだけど」


投げたナイフが突き刺さると、牛さんはびくんっと痙攣し膝が折れ、突進する勢いのまま地面を滑る。


そして痙攣はすれど起き上がる気配はない。

死んではいないが身動きがとれる状態では無い、と。


これも良いな。

自爆が怖いけど見た目が格好いいし、効果もよさげだ。




さっき最後って言ったけど、毒が残ってたわ。


これは手に持っても変化は……なんか液体がにじみ出てきた。毒だよな、これ。舐める勇気とかはないぞっ。


とりあえず斬り付けてみるべ。




「……ひぇぇ」


牛さんに掠めるぐらいに斬り付けてみたんだけど……泡拭いて倒れた。


あと傷口周辺が黒くなって、じわじわ崩れていく。

この毒ヤバすぎない?


しばらくは動いていた牛さんだけど、1分もしない内に一度大きく痙攣して……それっきり動かなくなった。



「毒は封印……これ、うっかり自分を傷つけたら一発アウトやん」


投げるたりする時に手を切りそうで怖い。


牛さんの反応からして、すぐ対応しないとダメそうだし。

戦闘中にうっかり自分を傷付けようものなら……想像するだけで恐ろしい。

このナイフは封印するとしよう。



てか、15階で毒使ってきたの居たよね?

もしかするとあれもこれぐらい強力な毒だったり……?



……解毒ポーションは絶対持ち歩くことにしよう。絶対にだ。

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