第9話 異界
龍乃神社に到着し、緑の参道を歩き、翔斗と天音は、神社の裏山を目指した。
「もし百足が近付いてくれば、私が気付きますから、安心して下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
「勾玉、なくさないで下さいね。それがないと異界には行けないみたいなので」
「大丈夫です。ちゃんとポケットに入ってます」
そんな会話をしながら、緑が生い茂っている裏山に入り、わずかに見える獣道をただひたすらと進むが、翔斗は少し疲れてきたため、少しでも紛らわすために会話をする。
「異界って本当にあると思いますか?」
「私はあると思いますよ。現実的にありえない、人喰い百足を見たんだから、そんな世界があっても不思議じゃないかなって」
「そうですよね。信じられない事が、ずっと起きてますしね」
少し先のほうに、古びた鳥居が見えたと思ったら、急に空気が変わったように感じた。
俗世間から遮断された、まるで、聖域のようなそんな空気だ。
「たぶん、ここですね」
そう言って翔斗はポケットから勾玉を取り出し、それを太陽に翳すと、勾玉は翔斗の手から離れ、宙に舞い、淡いグリーンに輝やくと、冷たい風が急に吹き付け、雲が太陽の周りを丸く囲み、大粒の雨が、滝のように降り注いだ。
そして翔斗たちを囲うような雨の滝は、大きな音と共に崩れ、二人を飲み込んだ。
水の中、天音は翔斗に手を伸ばし、何かを言っているが、流れに揉まれ水を飲み込み、意識を失っていった。
何かが見える……
龍乃神社の本殿に向かい手を合わせている二人、健也と真美がいる。
その後方の木の影には、翔斗が木に寄りかかって腕を組んでいる。
翔斗は何かに気付き、神社の裏のほうに走って行く。
木の影に、オカッパ頭の少女が座っていて、泣いてるようにも見える。
翔斗は声をかけている。
「一人?どうしたの?泣いてるの?」
前髪で顔が覆い隠されているため、顔はハッキリとは見えないが、なぜか翔斗は吸い込まれるようにその子の頬に触れ、顔を見ようとしたが手首を握られダメっと言われ拒まれた。
その時、神社本殿前のほうから、健也と真美の悲鳴が聞こえた。
駆けつけると、そこには健也が大百足に体を引き裂かれ、見るも無惨な姿になり、真美はその横で気を失っている。
そして気を失っている真美に大百足は体を巻き付かせている。
その時、大百足はこちらに気付き、翔斗のほうを凝視している。
茂みを踏む音が後方から聞こえたので、振り返ってみると、そこにはさっきのオカッパの少女が立っていた。
年齢は翔斗たちと変わらないくらい、身長は小さく、可愛らしい感じの女の子だった。
大百足が凝視しているのは翔斗ではなく、どうやら、そのオカッパ頭の少女のようだ。
次の瞬間、大百足はオカッパ頭の少女目掛け、飛びかかった。
翔斗は咄嗟にその少女を守ろうと抱き抱え、大百足の攻撃を躱したが、巨大な大百足の体に左腕が接触し血が吹き出た。
そして徐々に百足の毒が体を巡り、意識が薄らいでいく。
オカッパ頭の少女は翔斗の手を握り、涙を潤ませた目で見つめている。
「どうして……?どうして私を助けたの?」
「人を助けるのに、理由はいらないでしょ」
翔斗は笑顔でそう言った。
意識を失いかけている時、祖父が現れ、大百足の目に札を貼り付け、何かを叫んでいる。
少しずつ薄れゆく意識の中、翔斗の腕の傷の毒を吸い出す少女の姿が見え、そして翔斗は気を失った。
「今度は私が助けるから」
眩しい陽射しが翔斗を照り付け、後頭部には何か柔らかく温かい感じがし、目を開けると、どうやら天音の膝枕で寝ていたようだ。
「全部思い出したよ。キミは、あの時の」
「うん。10年前に、神社で会ってるよね。あなたは私の命の恩人」
「そんな大したものじゃないよ。忘れてたしね」
「左腕の傷、残っちゃったね」
「龍野さんが毒を吸い出してくれたから、助かったんだよ」
「天音でいい。 高井さんは私の命の恩人だから当たり前の事しただけですよ」
「翔斗でいい。」
2人は見つめ合い、なぜだか笑った。大きな声で笑った。
散々笑ったあと、翔斗は今の現状を把握しようとする。
「ところでここは?森の中?異界に来れたのかな?」
「ええ。ここは異界の森の中、私の力で結界をはってるから大百足たちからは見えないの」
あの不気味な異様な音を鳴らしながら大百足たちが目の前を通り過ぎていくが、どうやら本当に翔斗たちには気付いていないようだ。
「ここって、百足の世界?」
「そう。ここに人類はいない。だから百足たちは、生きるために私達の世界に狩りにくるの。世の中の神隠しとかで行方不明になってるのは、ほとんどがここの大百足たちの仕業よ」
「今までそんな目立たずに狩りをしていたのに、どうして今になって子供まで作って堂々と現れだしたんだろ」
「たぶん、10年前に大百足の女王が変わったから。けど、その王を翔斗のおじいさんが封印していたから、今までは大人しくしていたんだと思う」
ギチギチギチギチギチと、不気味な異様な音が今度はすぐ近くで鳴り続けている。
結界の中は見えないはずなのに、目の前に健也が立っていた。
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